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クローズアップレンズの使い方

クローズアップレンズの使い方

写真家、張千里(ZhangQian Li)によるクローズアップレンズの解説です。
Hasselblad、Sony、Gitzo、NiSiなど世界のトップブランドのアンバサダーを兼任する中国の若手写真家が、クローズアップレンズ撮影の際の注意点、マクロレンズとの相違点についてわかりやすく解説してくれました。

目次

みなさん、こんにちは。写真家の張千里です。クローズアップレンズは価格も手頃で、一度使えば手放せなくなるほど便利なアイテム。「マクロを撮ってみたい」と思ったことがある方は、必見です。
草花、昆虫、玩具、あるいは商品写真など、マクロで撮りたいものはたくさんありますよね。でも、そのために何万円もするマクロレンズを購入するのは、少しためらいます。
そんなみなさんに紹介したいのが、このクローズアップレンズです。マクロレンズの1/5ほどの値段で、本格的なマクロ撮影ができる優れものです。

クローズアップレンズとは?

このクローズアップレンズ、従来のものと素材も設計も大きく異なります。手に持つと金属とガラスの重みが伝わってきて、その作りの良さがすぐにわかります。高級感溢れるアルミ削り出しのグリップ、2枚の特殊低分散ガラスを使用したAPO(アポクロマート)設計により色収差を高精度で補正しています。
また、レンズ両面にはBBAR(広帯域反射防止)コーティングが施されており、広い波長域に対して反射防止効果を発揮。これにより、レンズ表面で入射光の反射を抑え、長波長、短波長ともにより広い帯域の光線の透過率を向上させています。そして、鏡筒内にも内面反射を防ぐために墨塗りが施されています。
こうした技術により、ゴースト・フレアを防ぎ、最良のカラーバランスを実現すると同時に高解像度、低色収差、そして柔らかなボケを実現しています。

クローズアップレンズ

「最短撮影距離」と「ワーキングディスタンス」

次に、マクロ撮影をする上で重要な、「最短撮影距離」と「ワーキングディスタンス」の違いについて話しをしましょう。まず、最短撮影距離というのは、撮影が可能な(ピントが合う)被写体までの最短距離のことで、被写体からカメラの距離基準マークまでの距離のことを指します。それよりも被写体に近づいてしまうとピントが合わなくなります。

最短撮影距離

一方、ワーキングディスタンスというのは被写体からレンズの先端までの距離のことを指します。最短撮影距離よりもワーキングディスタンスの方が短くなるわけですね。マクロ撮影ではつい被写体に近寄り過ぎてレンズが接触したりすることがありますが、こうした撮影可能な距離を把握しておくと、撮影がうまくいきます。

ワーキングディスタンス

クローズアップレンズと被写体の距離

さて、ここからが本題ですが、このクローズアップレンズを望遠レンズに付けると、ワーキングディスタンスが約22~30cmとなります。この範囲内でしかピントが合わないため、撮影には注意が必要です。被写体からレンズ先端までの距離が22cmよりも近いとき、または30cmよりも遠いときは、ピントが合わなくなるため、カメラを動かして被写体との距離を一定に保つ必要があります。この点に留意した上で使用しましょう。

クローズアップレンズを望遠レンズ装着時のワーキングディスタンス

推奨するレンズの焦点距離ですが、70-300mmが適しています。この範囲のズームレンズ、または単焦点レンズに使用すると良いでしょう。70-200mmや70-300mmの望遠ズームや、85mm、135mmといった単焦点の中望遠レンズなどに装着することでそれらのレンズがマクロレンズに早変わりします。

作例

SONY ILCE-7RM3, 70-200mm f/4, F16, 1/13s, ISO100

クローズアップレンズの口径は77mmですが、ステップアップリングを介して72mm以下のレンズにも装着が可能です。クローズアップレンズを焦点距離70mmで使う場合、撮影倍率は約1:2で焦点距離200mmで撮影倍率が1:1と等倍になります。つまり、被写体の実際の大きさと、センサーに描写される大きさが同じ比率になります。
焦点距離300mmのレンズで使うと、さらに拡大されて、倍率は1:0.7となり、CMOSセンサーに写る被写体の大きさは、実物のおよそ1.5倍の大きさに拡大されます。こうした拡大写真が撮れるのはマクロの魅力ですよね。被写体の細部まではっきりと写っています。

作例

SONY ILCE-7RM3, 70-200mm f/4, F11, 0.3s, ISO100

作例

SONY ILCE-7RM3, 70-200mm f/4, F11, 0.3s, ISO100

クローズアップレンズの効果

では、実際にこのクローズアップレンズを使って、どんな写真が撮れるか、その効果をみてみましょう。
まずは70-200mmF4のレンズに装着して撮影します。このレンズの最短撮影距離は1メートル、ワーキングディスタンスもメジャーで測ってみます。ピントを合わせた被写体からレンズ先端までの距離は約1.2メートルです。

クローズアップレンズなし

今度は、クローズアップレンズを装着してから、被写体にピントを合わせ、同じようにワーキングディスタンスを測ってみます。被写体からレンズ先端までの距離はだいたい22~23cmになりました。先ほどの1.2メートルから比べると大幅に短縮されてしまいますね。

クローズアップレンズ使用

では、次に試し撮りをして効果を比較してみましょう。左側の写真が、未使用の作例、右側の写真が、使用した作例です。右の拡大写真は縦構図で撮っています。見比べてみると、その拡大率は一目瞭然ですね。

作例

でも、マクロ撮影で重要なのは撮影倍率だけではありません。画像の解像度も重要な要素です。先ほどの写真をズームアップして、画像のシャープさをみてみましょう。細部までよく解像していますね。ボケも柔らかで、綺麗に撮れています。

細部

SONY ILCE-7RM3, 70-200mm f/4, F8, 1/10s, ISO100

クローズアップレンズと接写リング

こうした鮮明な画質で撮影できるのは、APO(アポクロマート)設計だからこそ。数多くのクローズアップレンズが市販されていますが、ここまで高品質のものは稀です。他にも「接写リング」という商品もありますが、クローズアップレンズとはどう違うのでしょうか。
まず装着箇所が異なり、接写リングは、レンズとカメラの間に装着します。これも撮影倍率を上げるには有効ですが、1:1の等倍までは達しません。また、リングを付けることで1~2段分ほど暗くなるというデメリットがあります。

接写リング

一方、クローズアップレンズは、虫眼鏡と同じ原理。焦点距離を短くすることで撮影倍率を上げているため露出を変えることなく撮影が可能で、また、レンズ前面に装着して使うので、取り外しも楽です。

クローズアップレンズ vs 高画素カメラのトリミング

次は昆虫の撮影して、作例の比較をしてみましょう。こうした小さな昆虫類の撮影には、焦点距離200mmのレンズを使っても画面に対する被写体の大きさは、かなり小さく映ります。「高画素数のカメラだから、拡大してトリミングすればいいよ」という方もいるでしょう。もちろん、それも一つの方法です。高画素カメラを使うメリットの一つですよね。ですが、トリミングした写真と、クローズアップレンズで撮った写真を比較してみると、こちらが4200万画素で撮影した画像ですが、それを100%拡大してトリミングしたものと、クローズアップレンズで撮影した画像を比べると、質感や、深度、シャープネス、どれを取ってもトリミングするより優れています。

作例

4200万画素で撮影 / SONY ILCE-7RM3, 70-200mm f/4, F22, 1.3s, ISO100

作例

4200万画素で撮影 100%拡大 / SONY ILCE-7RM3, 70-200mm f/4, F11, 0.3s, ISO100

作例

クローズアップレンズ使用 / SONY ILCE-7RM3, 70-200mm f/4, F11, 0.3s, ISO100

作例

クローズアップレンズ使用 100%拡大 / SONY ILCE-7RM3, 70-200mm f/4, F22, 0.3s, ISO100

4200万画素の解像度を持ってしても、トリミングすると物足りない画像となってしまいます。クローズアップレンズで撮影する際は、絞り値をF8~F16あたりに設定することを推奨しています。
この絞り値の範囲で撮影すると最も良い画質が得られますし、これぐらいの被写界深度がマクロには最適です。
開放付近のボケ表現は一眼で撮影する楽しみの一つですが、しかし、マクロ撮影においては、絞り値がF16でも、被写界深度はとても浅くなります。ですから、絞り値を大きくして初めて、十分な被写界深度が得られ、ピントのあった画像を撮ることができます。

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また、絞り込むとシャッタースピードが落ちるため、マクロ撮影する際は、三脚を使用して撮影すると良いでしょう。特に等倍以上の拡大率で撮影する際には、必ずマニュアルフォーカスで撮影するようにしましょう。倍率の大きな撮影では、AFが上手く働かないため、ピントがなかなか合いません。
例えば、一枚の花弁や、昆虫の複眼にピントを合わせたい場合などマニュアルフォーカスの方が確実にピントを合わせることができます。ミラーレスカメラを使っている方は、拡大ピント合わせができますから、ピントを合わせたい部分を最大まで拡大して、それからゆっくりとフォーカスリングを回して、ピントを合わせていきます。このやり方は一枚撮影するのに時間はかかりますが、被写体の質感まで伝わるような1枚が撮れた時の喜びはたまりません。

作例

クローズアップレンズ使用 / SONY ILCE-7RM3, 70-200mm f/4, F5.6, 1/25s, ISO100

作例

クローズアップレンズ使用 100%拡大 / SONY ILCE-7RM3, 70-200mm f/4, F5.6, 1/25s, ISO100

作例

クローズアップレンズ使用 / SONY ILCE-7RM3, 70-200mm f/4, F22, 1/10s, ISO100

作例

クローズアップレンズ使用 100%拡大 / SONY ILCE-7RM3, 70-200mm f/4, F22, 1/10s, ISO100

照明を使ったマクロ撮影

さて、今度は照明を使ったマクロ撮影です。70-200mmF4のレンズで撮影します。ワーキングディスタンスは22~30cmでしたね。これぐらいのスペースがあれば、ミニソフトボックスやLED灯などいろいろな照明機材を設置して自由に照明を調整することができるので、ライティングを工夫したユニークなマクロ写真が撮れます。こうした撮影ニーズを取り入れて製品設計がされているので、スタジオでのブツ撮りにも使えるアイテムです。

作例

クローズアップレンズ使用 / SONY ILCE-7RM3, 70-200mm f/4, F16, 1/40s, ISO100

作例

クローズアップレンズ使用 100%拡大 / SONY ILCE-7RM3, 70-200mm f/4, F16, 1/40s, ISO100

作例

クローズアップレンズ使用 / SONY ILCE-7RM3, 70-200mm f/4, F16, 1/30s, ISO100

作例

クローズアップレンズ使用 100%拡大 / SONY ILCE-7RM3, 70-200mm f/4, F16, 1/30s, ISO100

まとめ:マクロレンズとの違いを踏まえて、クローズアップレンズを活用する

それでは最後に、クローズアップレンズのまとめを。
まずは何と言ってもその携帯性で、小さくて、軽い。そして価格も手頃です。魅力あるマクロ撮影を気軽に始められるのはとても良いですよね。また、野外撮影の際もマクロレンズを持って行かなくて済むのであれば、私のような移動の多いトラベルフォトグラファーにとって、荷物を減らせるのは大きなアドバンテージです。
そして、ブツ撮りをよくする方、特にオンラインショップなどで、物販をされている方にとってもこのクローズアップレンズがあれば、商品の細かい部分まで伝えることができ、写真の説得力が増しますよね。

作例

SONY ILCE-7RM3, 70-200mm f/4, F6.3, 1/25s, ISO100

それができるのも、レンズ中心部から周辺部までの描写がしっかりしているからで、色ズレや滲みも見られず、ボケも柔らかくて心地よい。
画質については、十分満足できるものだと思います。製品にはステップアップリングが同梱されており、口径の異なるレンズにも装着することができます。
クローズアップレンズを購入するにあたり、留意しておきたい点はマクロレンズとの操作感の違いです。

作例

SONY ILCE-7RM3, 70-200mm f/4, F13, 1/4s, ISO100

マクロレンズは、高倍率の写真を撮影するために専用設計されているのでその操作はより緻密で、ピントも合わせやすいです。フォーカスリングを大きく動かしても、ピントの移動は小さいため、より簡単にピントを調整することができます。
一方、クローズアップレンズは、望遠レンズなどに装着して使うため、その操作は元レンズの焦点調節機構に依存します。当然それらのレンズはマクロ撮影用に設計されていませんから、少しずつフォーカスリングを動かしているつもりでも、ピントが大きくズレてしまうこともあります。こうした操作性の差が、マクロレンズとの大きな違いであると言えます。そうした点において、クローズアップレンズは、マクロレンズの代替とはなりません。

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SONY ILCE-7RM3, 70-200mm f/4, F14, 1/10s, ISO100

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SONY ILCE-7RM3, 70-200mm f/4, F16, 0.5s, ISO100

それだけの価格差があるので、当然と言えば当然ですが、利便性や、携帯性、画質の面では、素晴らしいコストパフォーマンスだと思います。
もし機能も性能も同じなら、誰もマクロレンズを買わなくなってしまうでしょう?