クローズアップレンズでミクロとマクロを軽快に往来する
中西敏貴 × GOTO AKI クロストーク
美瑛町を拠点に、自然の造形や、生命、人間との関わりへ視点を向け、理想とする風景のあり方を探究する中西敏貴さん。風景撮影に自然科学の視点とスナップ撮影の手法を取り入れ、新たな日本の風景写真を生み出しているGOTO AKIさん。写真家としても友人としても親交の深いお二人に「クローズアップレンズNCキット」のインプレッションを語っていただきました。
フィルター感覚で軽快に付け外しができるのが便利
中西 今日は久しぶりにAKIさんとこうしてクロストークすることになったのだけれど、この暑い夏でも撮影の方は順調に進んでますか?
AKI 個展でしばらくフィールドに戻れない時間が続いたのですが、今は海へ山へと繰り出しています。撮影はやっぱり楽しいですね。中西さんは道内をあちこちと移動してますよね?最近はどこのあたりをまわってきたんですか?
中西 5月の末ごろからロケに出る時間が取れたので、まずは道東方面へと出かけました。根室の先端、納沙布岬を最終地と決めて、途中は気の向くまま。一旦帰宅して、都内へ仕事に行った後、その足で今度は知床岬を目指しました。つい先日は最北端の宗谷岬。なんだか岬巡りのようになっていますが、その途中でいい出会いがたくさんありましたね。大きな風景を撮るのが目的じゃないから最果ての地で地面にへばりついて撮影したり。楽しい日々を過ごしています。
AKI 北海道が爽やかな季節ですね。今回僕らは「クローズアップレンズNCキット」について語っていきますが、カメラやレンズなど、ロケに連れて行った機材はどんな感じですか?
中西 基本的に車で出かけることが多いので車内にはフルセット積んでいきます。ボディも2台。もちろんレンズも色々と用意していきます。ただ、山に入ったりする際には軽量化のために機材を厳選する必要があるので、どれを選択するか毎回悩んでいます。AKIさんはどうですか?
AKI 機材はカメラ2台と、レンズは広角から望遠まで4〜5本ですね。車中泊を中心に、旅をしながらの撮影です。フルセットを山へ持って行けたらいいのだけど、食糧や水などの荷物もあるので軽量化が常に悩ましい課題です。
中西 イメージを形にするにはもちろん沢山のレンズがあった方がいい。だから車にはしっかりと積んでいきます。でも歩く時は機材以外のものが増えるから、何を削って何を持っていくかが悩ましい。マクロレンズも持っていきたいけれど、そこに水を入れたいって時も多いので。そんな時にクローズアップレンズが思いの外役立つなということに気がつきました。AKIさんは使ってみてどんな感想を持ちました?
AKI 僕は一年ぐらい前から使っているのですが、軽量化という意味ではポケットにもケースごとスッとはいって持ち運びがとても楽ですね。PLフィルターやNDフィルターのようにレンズの先端に取り付けるだけですので、取り扱いも簡単です。今回使用したレンズは、24-105mmの標準ズームと70-200mmの望遠ズームで、いずれもレンズの径が77mmのレンズです。思っていた以上に被写体に寄れますし、特に望遠ズームの焦点距離200mmで撮影すると撮影倍率がほぼ等倍で被写体が大きく写るのが印象的でした。足元に転がる倒木など、見過ごしてしまいそうな被写体にも豊かな表情が発見できますね。
撮影:GOTO AKI 200mm, f4, 1/1000, クローズアップレンズ
中西 このレンズの口径が77mmだから、僕の場合も24-105mmと100-500mmで使いました。レンズの最短よりも近づけるっていうところが便利だなと思いましたね。テレ端を使えばマクロ的な狙いもできるし、なにより普段より近い世界をファインダーで覗けるから楽しい。この製品の位置付けはレンズだと思いますが、実際に使ってみるとフィルター感覚で軽快に付け外しができるのが便利です。レンズ交換は億劫でもフィルターくらいならっていう感覚はフィールドに長くいる人には分かってもらえるんじゃないでしょうか。
質感のはっきりした被写体と輪郭の淡い被写体とで、絞りによる描写を使い分ける
撮影:中西敏貴 56mm, f16, 1/60, クローズアップレンズ
AKI カリッときてますね。描写はどう感じましたか?
中西 レンズの焦点距離や被写体との距離によっても違いますが、決まった時にはカリっとくる印象ですね。レンズとの距離が近くなっている分ピントはとてもシビアだなとは思いますが。
AKI 確かに丁寧な撮影が必要だなと感じましたが、それはどのレンズでも一緒ですよね。例えば上の写真はシャープな描写ですが、絞り数値はどれぐらいですか?
中西 これは思い切り絞り込んで(回折現象よりも被写界深度を優先して)、F16で撮りました。でも柔らかい描写にしたければ絞りを開けると良さそうな感じです。
AKI 山肌とか質感のはっきりした被写体では絞り数値をF5.6〜F11ぐらいで撮ると微細な線が描ける印象です。一方で、輪郭の淡い被写体には開放近くで撮るやわらかな描写を活かしたいなと思いました。
撮影:GOTO AKI 105mm, f4, 1/40, クローズアップレンズ
これは標準ズームの焦点距離105mmで撮影した(おそらく)水流のある岩肌などに生息するアオハイゴケです。最短撮影距離が45センチのレンズにクローズアップレンズを装着して撮影しました。
撮影:GOTO AKI 200mm, f5.6, 1/1000, クローズアップレンズ
小さな世界に宇宙を見る。大きな世界にミクロを見る。そんな視点の変換を行うときに便利に使える
中西 このレンズの使いどころって、マクロレンズを使うぞ!という気負いがなくても軽快に寄れることなんじゃないかと思いました。普段のレンズのまま少し寄りたい時ってよくあるから、そこでサッと取り出すイメージです。だから標準ズームとの相性は本当にいいなと思いましたね。
撮影:中西敏貴 37mm, f16, 1/1000, クローズアップレンズ
川の中を歩いていてもう少し寄りたい、となった時にポケットから取り出したクローズアップレンズを装着して撮った一枚です。マクロレンズを使った写真とイメージすると小さなものをアップで、と考えがちですがもっと違う発想でこのレンズを使ってみるとイメージが広がりそうですね。
AKI 僕も「サッと取り出す」感覚で使っています。今回ご覧いただく作例はすべて手持ちで撮っているんです。三脚を構えて、さぁ撮るぞというスタイルもありですが、もっと気楽に使う感じですね。先ほど、ポケットにケースごといれると書きましたが、ケース自体が堅牢なのでカメラバックの外側にカラビナでひっかけてすぐに取り出せるように持ち運ぶことも多いです。
中西 マクロ的な使い方と考えると三脚がイメージされるけれども、僕もほぼ手持ちで使うことが多かったですね。それくらいこのレンズは軽快に使えるということでしょう。最新機材の優秀なAFと組み合わせて感度も少しだけ上げてしまえばおおよそのシーンで手持ちでいけてしまいますね。あとは絞るか開けるかによる描写の違いを楽しむ、という感じでしょうか。
撮影:中西敏貴 105mm, f16, 1/250, クローズアップレンズ
AKI そうですね。カメラやレンズの性能に加えて、クローズアップレンズがさらに撮影の幅を広げてくれるイメージです。例えば、70-200mmの望遠レンズで撮影している時には、遠景だけでなく、レンズの最短撮影距離が約70センチを意識して足元の被写体も観察しています。そこでさらに寄りたいなぁという時にクローズアップレンズを使うとマクロ的な距離感で被写体を撮れますね。一本のレンズが二役になるような感じです。
中西 どんな場面でも、どんなレンズを付けていても、ミクロとマクロの視点が混在している感覚といえばいいのでしょうか。望遠だから遠く、マクロレンズだから近くという感覚とは違いますね。小さな世界に宇宙を見る。大きな世界にミクロを見る。そんな視点の変換を行うときにこのレンズがあれば便利に使える、ということのような気がします。
AKI もう少し新しい表現ができないかという時に「クローズアップレンズNCキット」が助けてくれそうですね。中西さんの新作も楽しみにしています。
中西 AKIさんも相変わらず集中して撮影が進んでいそうで、また新作を見るのが楽しみです。お互いに新しい機材との出会いを楽しみながら次の世界へと歩みましょう。
中西敏貴 Toshiki Nakanishi
1971年大阪生まれ。1989年頃から北海道へと通い続け、2012年に撮影拠点である美瑛町へ移住。農の風景とそこに暮らす人々をモチーフに撮影を行う。近年は大雪山とその麓に広がる原生林にも意識を広げながら、自然の造形や、生命、人間との関わりへの視点を深化させ、理想とする風景のあり方を探っている。2020年9月、キヤノンギャラリーSにおいて写真展「Kamuy」を開催。日本写真家協会会員、日本風景写真家協会会員、日本風景写真協会指導会員、Mind Shift GEARアンバサダー
オフィシャルサイト
GOTO AKI
1972年 川崎市生まれ。1993年の世界一周の旅から現在まで56カ国を巡る。風景撮影に自然科学の視点とスナップ撮影の手法を取り入れ、新たな日本の風景写真を生み出している。2015年「キヤノンカレンダー」にて第66回全国カレンダー展日本商工会議所会頭賞受賞。2019年「terra」(写真展/キヤノンギャラリーS ・写真集/赤々舎 )にて、2020年日本写真協会賞新人賞受賞。武蔵野美術大学造形構想学部映像学科・日本大学芸術学部写真学科 非常勤講師
オフィシャルサイト