最愛のレンズで寄れるクローズアップレンズは神
お気に入りのレンズでもっと被写体に寄れたらいいのに! というシーンは少なくないでしょう。クローズアップレンズNCキットを使うことで、お気に入りのレンズの描写そのままに、クローズアップ撮影が可能になります。今回は写真家の大村祐里子さんにポートレイト撮影でクローズアップレンズNCキットを使ってもらいました。大村さんの撮影、写真にどんな変化やメリットがあったのか、さっそくご覧ください。
写真:大村祐里子
クローズアップレンズNCキットがあれば最愛のOtus 1.4/55で寄れる
私がとても気に入っているレンズのひとつに「ZEISS Otus 1.4/55」があります。デジタルカメラで撮影をするようになって、初めて心が震えたのは、このレンズと出会ったからでした。Otus 1.4/55で撮る写真は単なる記録ではなく、私自身の思いや頭のなかにあるイメージを描き出してくれました。
ZEISS Otus 1.4/55はマニュアルフォーカスのレンズですが、私はフィルムのクラシックカメラユーザーでもあるため、何ら問題ありませんでした。むしろ自分自身のリズムで撮影ができるのは好都合とも言えます。少しピントがズレてしまっても、そこに人間の気持ちが乗っているのではないかとさえ思います。また、このレンズの芯のある描写は明るめに撮影してもしっかりと輪郭が残り、開放での柔らかなボケ、絞ったときの切れ味鋭い描写、どこをとっても本当に好きと言えます。
Canon EOS R, ZEISS Otus 1.4/55, 1/125, F2.8, ISO 500 Otus 1.4/55の最短撮影距離(50cm)で撮影すると、おおよそバストアップくらいで撮影する形になります。
全方位的に最愛のレンズですが、たったひとつだけ不満があるとすれば「寄れない」こと。最短撮影距離は50cm。50mmのレンズですから標準的な最短撮影距離なのですが、もう一歩踏み込みたいと思うこともあります。例えばポートレイト撮影では、このレンズを使うと最短の50cmでだいたいバストアップくらいの画角なのですが、画のバリエーションを考えるともう少し寄りたい。でもレンズを交換すると描写は変わってしまいます。
そんなときに出会ったのがクローズアップレンズでした。「クローズアップレンズNCキット」をOtus 1.4/55につけて撮影すると、最短撮影距離はだいたい半分くらい、約20cm程度まで被写体に迫ることが可能になります。バストアップ以外に表情にグっとクローズアップした画や、顔だけでなく手や髪などのパーツにフォーカスした画を撮ることもできます。
また、クローズアップレンズNCキットはマスターレンズに装着し、最短撮影距離で撮影しますが、色収差がなく開放での美しいボケもOtus 1.4/55の描写をそのまま生かすことができるので、私にとって最高で最強の組み合わせです。
Canon EOS R, ZEISS Otus 1.4/55 + クローズアップレンズキットNC, 1/100, F2.8, ISO 400 クローズアップレンズを使うことで、こんな風にアップで撮ることができるようになります。
Canon EOS R, ZEISS Otus 1.4/55 + クローズアップレンズキットNC, 1/125, F2.8, ISO 400 人は、瞳や手にも表情があります。クローズアップレンズを使うと、そういったものも写し取れるので、結果として多彩なバリエーションのポートレイト撮影が可能になります。
気になる花を見つけたとき、その花のどこがいいのかをまずじっくり観察しましょう。花びらがきれいなのか、少し枯れてしまったところに感動したのか、シャッターを切る前に自分がどう感じたかを知ることが大事です。
クローズアップが加わることで組み写真に動きが出せる
クローズアップレンズを使うことで、ひとつのシーンでもバリエーションが豊かになります。また、こうしてお気に入りのレンズでクローズアップを撮影することで、写真を組む際に全体に緩急をつけられるようになります。マスターレンズが同じなので、画のバリエーションを増やしつつも全体の色やトーンを揃えられるため、写真を組みやすいというメリットもあります。
モデル側から見るとほんとうに目の前にレンズが迫ってくるため、顔に触れてしまいそうな感覚です。
最短撮影距離が変わると、視点が変わる
クローズアップレンズを使うと、手軽に被写体に寄ることができるようになりますが、実は被写体にグっと寄ったとき、目の前のものを絵にするのは意外と難しかったりします。「自分が表現したいものが何なのか」、例えば被写体が人であれば、瞳のきれいさなのか、表情のシリアスさなのか、仕草の美しさなのか……そういった絵作りに関する目的が明確になっていないと、ただ被写体に寄っただけのうすぼんやりした写真になりがちです。
私自身も、クローズアップは「明確に何かを表現したいとき」に使っています。逆に、「自身の意図を明確にする」ためにクローズアップを使うのもアリかもしれません。そうすることで多くの学び、気付きがあると思います。
また、クローズアップレンズを使うと、Otus 1.4/55最短撮影距離50cmからおおよそ半分程度になります。ファインダーを覗き、体を使って丁寧にピントが合うところまで被写体に寄っていきましょう。この日はCanon EOS Rを使用しましたが、ミラーレス機を使用する際にはライブビューで背面液晶を見ながらピント合わせを行うと、特に開放での撮影時にはピントの確認がしやすいです。
クローズアップレンズがあればレンズ一本だけでこれだけ多彩な画作りができます。ある意味ではズームレンズを使うような感覚で被写体に寄ったり引いたりし、フィジカル的なアプローチで撮影を行うので、写真表現という意味でもその幅を広げてくれるのを実感できます。
複数の写真を合わせて見せる組写真では、写真のバリエーションで全体のリズムのようなものをつけ、見る人の視線を誘導したり、目を止めたり、さまざまな工夫をすることで、撮り手の世界観のようなものを表現していきます。
お気に入りのレンズにクローズアップレンズを着けて、これまで撮ることができなかったシーンにトライし、新たな視点を得ることができるのは私にとって大きな喜びです。
モデル:
青山夕夏 Yuuna Aoyama
神奈川県出身。イマージュエンターテインメント所属。特技は英会話と歌うこと。NHK連続テレビ⼩説「べっぴんさん」島野直⼦役をはじめ、ドラマ、映画、舞台などジャンルを問わず多彩な活動を⾏なっている。2020年は映画『⻘くて痛くて脆い』『猿楽町で会いましょう』『新解釈三国志』に出演。
佐藤峻輔 Shunsuke Satou
宮城県出身、イマージュエンターテインメント所属。2020年デビュー。映画や雑誌、ショーをはじめ、12月15日~20日は舞台 江古⽥のガールズ旗揚げ直し公演『遺作』に出演。2021年は配信ドラマの主演が予定されている。
Hair & Make:
弾塚 凌 Ryo Danduka