ポートレイトに新たな武器/ブラックミスト& Allure Soft
「デジタルの絵」に飽き足らず、ポートレートの新たな表現手段を求めてやまないポートレートの手練れの者たちがいま、注目している光学フィルターがある。海外でも人気のフィルター・メーカーNiSiの「ブラックミスト」と「Allure Soft」だ。この2種類のフィルターについて、フォトグラファーの清田大介氏に訊いた。
ブラックミスト
コントラストを抑えることで、肌のトーンを均一に保ち、背景のざわつきまで落ち着かせる。
—— NiSiフィルターと言えば、角形ホルダーの印象が強いですが、今回紹介するのは円形フィルターのBlack Mist(ブラックミスト)とAllure Soft(アルーアソフト)です。
清田 Black Mistは昨年12月に発売されたんですが、近年、スチルの世界でもBlack Mistは注目されていたので、どんなものかなと思って、発売直後から使っています。Allure Softは今年3月に発売されたばかりですね。
30mm, f2.8, 1/125秒, ISO100, Black Mist 1/4
—— まずはBlack Mistについて、特徴を教えてください。
清田 Black Mistは、コントラストが抑えられ、ソフトな画質になります。シャドウ部が持ち上がり、ハイライトも抑えられます。コントラストが抑えられるので、全体の色調は少し変化します。“レトロ調”とでも言いますか。
—— ポートレートで使用する場合、肌にもこのコントラストの抑制は効いてきますね?
清田 そうですね。顔の影や毛穴の黒ずみ、シミなどが浅くなり、テカリも抑えられるので、肌のトーンが均一になり、マシュマロのような柔らかいイメージに持っていきやすくなります。
24mm, f3.5, 1/125秒, ISO640, Black Mist 1/4 現場の環境光と、カラーフィルターを付けたストロボを混ぜて撮影。Black Mistの効果によって、コントラストが抑えられることで、本来派手な色合いのスタジオの壁も品よくマイルドになり、細々した装飾も邪魔にならなくなる。
—— 清田さんはBlack Mistを普段使いしているんですか?
清田 すごく気に入ってしまって(笑)。ロリータファッションの撮影の仕事が結構あるんですが、ロリータって現実感がない方が好まれるという傾向があるんです。Black Mistは、肌も柔らかく写るのでクライアントにもモデルにも喜ばれるんですよね。撮影時にBlack Mistを使うと、後のRAW現像も楽ですし。
—— コントラストが下がることで柔らかい印象になりますが、解像感はどうですか?
清田 ミスト系のフィルターはLightroomでいうと、明瞭度を下げたような感じになりがちですが、NiSiのBlack Mistは解像感が下がったような印象はありせん。ぱっと見で、コントラストが下がるため、全体に眠く見えますが、細部の描写が曖昧になっていくわけではありません。その意味では、程よい効果だと思います。効き過ぎず、弱過ぎず、という。
—— 光との兼ね合いではどう写るんですか?
清田 逆光では光源やハイライト部分がにじみます。それが全体に効いてくるので、ポートレートの場合、ドリーミーな雰囲気になります。これはブライダルなどの撮影でも大いに重宝すると思います。逆光時の方がもちろんフィルター効果が高いんですが、順光でもやはりコントラストが抑えられるので、肌などはソフトに写ります。
—— イルミネーションなどを背景にした撮影ではどうでしょう?
清田 すごくいいと思いますね。イルミネーションはそもそも輝度差が激しいシチュエーションですが、黒が少し持ち上がって、全体に柔らかい印象になります。
59mm, f4.0, 1/125秒, ISO1600, BlackMist 1/4
—— NiSiのBlack Mistは、フィルターの効果の強さに応じて3段階のバリエーションがありますね?
清田 はい。「1/2」、「1/4」、「1/8」ですね。これはそれぞれ「1/2効果」、「1/4効果」、「1/8効果」ということで、「1/2」が一番効果が強く、順に効果が弱まっていきます。
—— 初めてBlack Mistを購入する人はどこから入ったらいいのでしょう?
清田 まずは真ん中の「1/4」がおすすめですね。バランスがいいので。「1/4」から入って、少し効果が物足りないと感じたら「1/2」にいくというのがよいと思います。
Allure Soft
画面内の光源や強い輝度部を華やかににじませながら、柔らかな画質で品よくまとめ上げる。
70mm, f2.8, 1/160秒, ISO125, Allure Softオーロラフィルムをモデルの手前と背景に配し、背後と画面右手前からストロボを発光している。右上のこちらを向いた光源は、オーロラフィルム越しでディフューズしているもののかなり強烈だが、Allure Softのグロー効果でふわっと柔らかくにじんでいる。そのまま撮るとギラギラした絵になるが、Allure Softがバランスよく落ち着かせてくれている。
—— 今年3月に発売になったばかりのAllure Softはどんなフィルターですか?
清田 こちらも解像感やディテールを損なわずに柔らかい描写にしてくれるソフトフィルターですが、Black Mistのようにコントラストを抑えるというものではありません。ただ、光源に対しての拡散度が強く、画面の中に光源があると周囲にハレーションを生むので、ファンタスティックなイメージが得られます。
—— Black Mistもそこそこ光源がにじみますよね?
清田 グロー効果は、Black Mistの場合、一様に効果が出る印象ですが、Allure Softの場合は光源の強さに応じてかなり変化があり、直接光源を捉えればバーンと広がるし、少しディフューズすればそれなりに柔らかくなるので、ライティングで強弱をつけられる感じですね。それと、ほとんど輝度部にだけ効果が出るというのも特徴的です。そのため、ハレーションが及んでいないシャドウ部は黒が締まったままとなります。
—— AllureSoftの方は、BlackMistと違って、色調の方に変化はないのですか?
清田 全然ないですね。あえて言えば、光源周りだけですかね。服の色とかは鮮やかなままです。だから、より「幻想的」に撮りたいなら、絵画調やレトロ調に持っていきやすいBlack Mistの方がいいでしょうね。
—— 明確な輝度部が見つけにくい曇天などの日の屋外ではどうなるんでしょう?
清田 画面の中に光源がない場合は、全体のテクスチャーがうっすら和らぐイメージです。一方のBlack Mistの方は、スタジオで光を回したような状況で使ったことがあるんですが、普通に効いていましたね。
—— どちらも柔らかいイメージになる点では同じですが、まったく特徴が異なるフィルターなんですね。Allure Softの方は光の向きでどのような変化が見られますか?
清田 逆光ないし、半逆光、あるいは画面内に強烈な光源がある時に、圧倒的に効果が得られます。逆に順光では、画面に何か照り返しなどない限りは、普通に撮れると思います。
—— 女の子が鏡を持っていて、鏡がピカっと光ってるとか。
清田 身に着けているアクセサリーがキラッと光っていたりとか。その部分にインパクトを加えることができますね。
—— そうすると、Black Mistはあまり考えすぎずに撮っていってよいけれど、Allure Softの方はあらかじめ狙いを定めて撮った方がより効果的という感じがしますね。
清田 そうですね。
—— Allure Softの方は人工光のアレンジに大いに役立ちそうです。
清田 ストロボを使うと、光質を変えてくれます。直でカメラの方に向けても、Allure Softを装着していると、少しディフューズされる。ちょっとソフトなイメージになりますね。
—— イルミネーションを背景にした撮影ではどうでしょうか?
清田 Allure Softは、Black Mistの「1/2」に比べても、光源部分のグロー効果が強く、コントラストも落ちない。また色調も変わらないので、 Black Mistよりは現実的で少し華やかになると思います。好みの問題もありますけど、それぞれ面白い効果が得られると思います。
70mm , f2.8, 1/160秒, ISO1250, Allure Soft
—— では、それぞれのフィルターを使用する際、清田さんのおすすめのシチュエーションを教えてください。
清田 絵画調などのように現実感をなくして撮りたい時は、Black Mistがおすすめですね。まるで現像後のイメージで撮影できてしまう。Black Mistを使うまでは、現像時にいちいちトーンカーブをいじって、シャドウ部を持ち上げたりしていたんですが、必ずしも思い通りにいくとは限らないんです。でも、Black Mistを使えば撮って出しで古く淡いフィルムっぽさを感じさせる絵づくりができるのでありがたいですね。ブライダルとか、ロリータファッションの撮影など、きっちり記録するというよりは、少しイメージに振りたいという場合にぴったりだと思います。
—— AllureSoftはどうです?
清田 Allure Softは、シャドウ部の黒は締まったままで、色合いも変わらないので、「非現実的」にまでは振り切らず、それなりにその場の雰囲気を記録しつつ、画面の中にインパクトを加えたい時に使うといいと思います。いずれにしても、Black MistとAllure Softは、特徴も効果的な使い方も大きく異なるので、両方持っていた方がよいと思います。意図するイメージや撮影シチュエーションに応じて、それぞれをうまく使い分けると、ポートレートの表現の幅が広がると思います。
清田大介 Daisuke Kiyota
東京都府中市出身 Webデザイナー兼フォトグラファー。2014年にWeb制作会社を起業、2016年より一眼レフカメラによる撮影を取り入れ、クライアントの良さやオリジナリティをより引き出すデザインを提案。最近では、ブランディングが必要な経営者、アーティスト、モデル、表現者のプロフィール撮影、各種宣材撮影、CDジャケット撮影などの撮影が多数。
TIFA、IPAなど国際的なコンテスト、東京カメラ部など多数のコンテストなどに入賞。雑誌、書籍への執筆、展示会も多数開催。
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