月明かりだけで撮る星空ポートレイト
星空と人物を一緒に写す星景ポートレイトは、ストロボがなくても、月明かりだけで撮ることができます。撮影のコツを関一也さんに聞きました。
撮影環境
半月から三日月の月明かりで撮影する
月明かりを使った星景ポートレイトは、半月から三日月くらいの明るさで撮るのがおすすめです。満月だと人物はよく写りますが、全体的に明るすぎて昼間のような写真になってしまいます。新月の星はたくさん写るものの、暗すぎて人物を明るく写すにはストロボが必須になります。半月から三日月の月明かりだと、星空と地上を写すのにちょうど良い1灯ライティングとなり、ストロボを使わなくても長時間露光で人物を写すことができます。
半順光の月明かりライティングを作る
月明かりは通常のライティングと考え方は同じです。レンブラントライトと呼ばれる斜め上からの「半順光」で撮影することで、立体感のあるポートレイトになります。カメラを完全に月のほうに向けた逆光だと星がほとんど写らず、月を背にした順光だと撮影者の影が写り込んだり、のっぺりした写真になりがちです。月明かりを半順光で捉えることで、モデルに立体感が出て星も写ります。
このとき、モデルの鼻先は月の方向を向くようにすること。顔が月明かりを受けていないと、顔が暗くなってブレの原因となってしまうので、顔の向きには注意します。
月明かりを背にして順光で撮影すると、撮影者の影が写り込んでしまう
顔が影になっているとブレやすい
カメラの設定
人物がブレないぎりぎりのシャッター速度に
カメラの設定で重要なのは、明るさを確保しつつ、人物がブレないシャッター速度にすることです。冒頭の写真は8秒のシャッター速度で撮影しています。シャッター速度が速いほど人物はブレませんが、露出が足りず暗くなってしまいます。反対にシャッター速度が遅いほど明るく写りますが、人物が動いてブレの原因となってしまいます。
明るさが足りない場合はISO感度で調整
露出モードはマニュアル露出で、絞りは開放に設定します。ISO感度は撮影場所の明るさによって異なりますが、半月ではISO 800〜1600程度にすることが多いです(新月ではISO 2500〜3200程度)。ISO感度は、モデルが動いてしまう場合は上げて、その分シャッター速度を速くして調整します。たとえば8秒のシャッター速度でブレるなら、ISO感度を1段上げることで、4秒にすることができます。止まっていられる人でも、15秒以上は難しいので、ストロボを使わない場合はそれよりシャッター速度を遅くすることはあまりありません。
撮影のポイント
ポージングでブレを防ぐ
ブレを防ぐためには、ポージングも重要です。立ちよりも座りのポージングの方が、安定感がありブレにくくなります。撮影したら、モデルに一度見てもらい、共有することもポイント。ブレているときは、「今の感じだと”ブレる”」ことを実際に見て自覚してもらわないと、延々と同じように動いてしまいます。
目を瞑ると目元がブレるので、撮影中は瞬きもしないようにお願いしておきましょう。8秒程度ならギリギリ堪えられることが多いですが、風が吹いている場合は目を瞑りがちなので、その場合はISO感度を上げて調整します。
立ちポーズはブレやすい。同じ8秒でも立ちポーズはブレ、座りポーズは安定して止まっていられる
星がボケないように人物との距離を調整する
なお、ピントは星ではなく、人物に合わせます。星がボケてしまう場合は、人物とカメラの距離を遠ざけることで両者にピントが合いやすくなります。暗い場所だとオートフォーカスではピントが合いにくいので、マニュアルフォーカスで拡大して人物にピントを合わせます。
ソフトフィルターで星を大きく見せる
星空撮影では、星を滲ませて大きく見せる効果のあるソフト系のフィルターを使うのがおすすめです。画面全体にフィルター効果がかかる円形フィルターは、人物や地上の風景もソフトな描写になるため、部分的にソフト効果の効いた角型のソフトフィルターを使うことで、星は大きく滲ませつつ、地上の風景と人物はくっきりと写すことができます。
レタッチ
DxO PureRAWでノイズの少ないデータを生成する
現像はDxO PureRAWとLightroomで行います。最初にDxO PureRAWでノイズ処理を行います。DxO PureRAWは正確にはRAW現像ソフトではなく、人工知能を使って画像のノイズ処理やレンズの収差補正などを行い、ディテールを残しつつシャープな画像に変換してくれるソフトです。DxO PureRAWでRAWデータを読み込んだら、「光学モジュール」は「該当なし(補正は適用されません)」にチェックを入れます。星空の場合、光学補正を行なうと周辺が補正されて星が伸びてしまったり、イメージ以上に周辺光量を修正されてしまうなどのトラブルになるのでおすすめしません。「該当なし」で画像処理を実行すると、新しくDNGとしてノイズの少ないRAWデータが生成されます。
「光学モジュール」は「該当なし(補正は適用されません)」にチェックを入れる
出力方式はDNGを選択
Lightroomで色味と露光量とハイライト、シャドウを調整する
次にDNGデータをLightroomで開き、通常通りに現像します。まずはホワイトバランスで空と肌色が綺麗に出るところを微調整します。青くしすぎると人物の血色が悪く見えるので、あまり色温度を下げないように注意します。暗すぎる場合は露光量を少し上げ、街明かりなど光源が入っている場合はハイライトを抑えてシャドウを上げる補正を行います。
星空専用ソフトフィルターを使用すると、後から星空と人物を別々にレタッチする必要がないので、仕上げがとても簡単です。
Lightroomはほんの少しの調整のみで終了
秋から冬は、空気が澄んで星がよく見え、星空撮影に適した季節です。半月から三日月を狙って星景ポートレイトにチャレンジしてみてください。
関 一也 Seki Kazuya
1986年長野県出身。長野理容美容専門学校卒業 2011年より美容師として活動すると同時に写真家としても活動を開始。 写真家、礒村浩一氏に師事後、+ONE Film Worksを設立。 写真、動画、ジャンルを問わず総合写真家として活動中。カメラメーカーのカメラ、レンズのサンプルなど撮影。PHOTO NEXT2014にてCanonセミナー講師、CP+2019 Adobeセミナー講師を行う。ストロボメーカー講師、写真&動画の講師、レビューやカメラ雑誌などの執筆、寄稿など行う。オンラインサロン「セキの沼『写研部』」を運営。また、アーチェリーのコンパウンド部門で全日本選手権5回優勝、4連覇、日本代表の経験を持つ。2010年中野市栄誉市民受賞、2011年国際フィルターコンテスト入賞、2011年第9回 雷写真コンテスト銅賞。2017年WPC2017のウェディング部門日本代表。
出版
『フォトグラファーのためのポートレートポージング入門』『ポートレートRAW現像入門』(著書)、『星と月の新しい撮り方』『上達やくそくBOOK Lightroom Classicの教科書』(共著)
ウェブサイト
+ONE Film Works
オフィシャルサイト
セキの沼『写研部』