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NiSiフィルターガイド Vol.5:可変ND + ND32000

バリアブルと高濃度NDフィルターで人をブラして非現実的な世界に

NiSiフィルターガイド Vol.5:可変ND + ND32000

目次

はじめに

こんにちは、フォトグラファーの上田晃司とコムロミホです。 NiSiフィルターガイドVol.5のテーマは、NDフィルターを使って街の動きを表現していきます。スナップでNDフィルターを使用すると、どんなことができるのかをご紹介しましょう。
 今回、私たちが使ったNDフィルターはNiSi True COLOR ND VARIOというバリアブルNDフィルターと、NiSi HUC IR ND32000という非常に濃い濃度のNDフィルターです。
これらのNDフィルターを使って、「街から人を消す」ということをやってみました。
まずは早速、作例写真から見ていただこうかと思います。

撮影データ:SS:1/8秒 F値:6.3 ISO:64 EV:+0.33 焦点距離:28mm(35mm判換算) True COLOR ND VARIO使用

上の写真はNiSi True COLOR ND VARIOを使用して、東京駅の外で撮影しました。人の流れをブラすことで、写真に躍動感をつけています。
このNDフィルターは前述したとおり、可変式のNDフィルターです。フィルター枠についているストッパーを回して、濃度を調整することができます。ND2〜ND32、1〜5 STOP分の減光効果を得ることが可能です。上の写真は、1/8秒というシャッター速度を目指して、NDフィルターの濃度を可変しながら撮影しました。

可変ND TRUE COLOR ND VARIO

可変ND TRUE COLOR ND VARIO

ストッパーを動かすことで、濃度をコントロールする

ストッパーを動かすことで、濃度をコントロールする

レンズキャップ

レンズキャップが付属されているので、移動中でもフィルターを保護できる

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撮影データ:SS:240秒 F値:F8 ISO:64 EV:+0.0 焦点距離:24mm(35mm判換算) HUC IR ND32000使用

この写真は、NiSi HUC IR ND32000を使って東京駅のビル群を撮影したものです。ここはとにかく人が多い場所なのですが、写り込む人を消して風景写真として撮りました。
ND32000といっても、どれくらいの濃度か想像がつきにくいですよね。これは15 STOP分減光できるNDフィルターです。つまり、明るい日中でも数分間露光できるくらい濃い濃度ということです。このフィルターを使うことで、街行く人を消すことができるわけです。

HUC IR ND32000

HUC IR ND32000

では、上記の写真をどのようにして撮影したのかをご紹介します。

基本編

行き交う人をブラして躍動感を表現

東京駅はご存知のとおり人の往来が激しい場所です。そこで、歩いている人をブラしつつ、手前に鎖を大きく配置して、街の躍動感が伝わる写真にしていきます。

被写体をブラす際にまず考えるのがシャッター速度を遅くする、ということですよね。
人をブラすときにオススメのシャッター速度は1/8秒です。そこで、今回はSモード(シャッタースピード優先モード)に設定して1/8秒というスローシャッターにしていきます。通常、明るい日中のシーンで1/8秒のシャッター速度にすると、露出オーバーになってしまいます。光がたくさん取り入れられる分、どんなに絞っても、ISOをどんなに小さくしても露出オーバーで、全体的に真っ白に写ってしまいます。そういうときにTrue COLOR ND VARIOを使うことで、光量を調整して撮影することができるようになります。目盛りが1〜5まであり、濃度を調整することができるようになっているので、あらかじめカメラ側でシャッター速度を1/8秒に設定しておいて、F値をどれくらいに設定したいかに合わせて、NDフィルターのストッパーを調整します。
ここで覚えておきたいのが、街によって、その場にいる人の動きの速さが全然違うということです。シャッター速度を1/8秒に設定してみて、ブレすぎているようであれば、1/10秒のように少しシャッター速度を速くしてあげるなどの工夫が必要です。逆に、人が意外とブレないなと思ったら、シャッター速度を1/4秒にするなど、自分のイメージどおりのブレ具合になるように微調整するとよいでしょう。よって、まずは1/8秒に設定してみて、人のブレ具合を確認していただくのが一番いいかなと思います。
さて、シャッター速度が1/8秒になるように、そして手前の鎖と奥の人がほどよい被写界深度(ここではだいたいF5.6ぐらい)になるように、NDフィルターのストッパーを調整して撮影していきます。

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撮影データ:SS:1/8秒 F値:7.1 ISO:64 EV:+0.33 焦点距離:28mm(35mm判換算) True COLOR ND VARIO使用シャッター速度を1/8秒にすることで人がほどよくブレていることがわかる。また、かっこよく表現したかったので、モノクロに設定して撮影した。

上の写真のように奥の人がブレて、街の躍動感が伝わってくる一枚になりました。
人の往来が多いようなシーンでシャッター速度を速くして撮影してしまうと、歩行者の顔がバッチリと写ってしまい、場合によっては肖像権の侵害といったリスクもあります。しかし、このようにあえてブラすことによって、写り込んでしまった人に配慮することができますし、街の動きを表現することもできるようになります。
スナップ撮影でバリアブルNDフィルターを使うメリットはまだあります。
外で撮影する場合、天候がコロコロと変わってしまうことが多々あると思います。実は、この撮影の日も晴れたり、曇ったり、雨が降ったりという天気が安定しない中での撮影でした。
そうすると、周囲の明るさは晴れているときと曇っているときとで変わってきてしまいます。今回の撮影ではSモードでシャッター速度を1/8秒固定にしています。そしてF値はF5.6くらいで撮影したいなと思っていましたが、NDフィルターをつけていたとしても単一濃度のNDフィルターの場合、天気に合わせて周囲の明るさも変わるので、F値も同じように変わっていってしまいます。そうすると、周囲の明るさに合わせてNDフィルターの付け替えが必要になりますが、一方で、ストッパーを動かすだけで複数の濃度に変えられるバリアブルNDフィルターなら一枚で済みます。一瞬を捉えるスナップだからこそ、バリアブルNDフィルターが活きてくるといえるでしょう。
シャッター速度を1/8秒にする際に注意したいこと、それは手ブレです。被写体はブレていても、ブレてほしくないところまでブレてしまってはもったいない写真になってしまいます。最近は多くのカメラやレンズに手ブレ補正機能がついているので、手ブレ補正を活用して撮影してみてください。

実践編

超長時間露光で大きくブラして人を消す

続いて、東京駅のビル群を、人を消して撮影した写真の撮り方をご紹介します。
東京駅から道を挟んだ少し離れたところから撮影しているので、背景を車や人が行き交っているシーンです。

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撮影データ:SS:1/8秒 F値:7.1 ISO:64 EV:+0.33 焦点距離:28mm(35mm判換算) True COLOR ND VARIO使用シャッター速度を1/8秒にすることで人がほどよくブレていることがわかる。また、かっこよく表現したかったので、モノクロに設定して撮影した。

今回は都市風景に集中してもらいたいので、できるだけ動いているものは消したいと思って撮影しました。では、どういう風に人を消せばいいかというと、ここでもシャッター速度を遅くします。シャッター速度を遅くすればするほど、動くものが大きくブレて、最終的には消えていくわけです。
前述のとおり、この写真はHUC IR ND32000を使って撮影したのですが、このND32000というのは単一濃度で、15 STOP分暗くできます。昼間でF8に設定したとしても、簡単に3分間露光ができてしまいます。
ただ、難点が一つあって、15 STOP分落とす計算がしにくい、ということです。ND2であれば、たとえば1/60秒を1/30秒、1/15秒と計算できますが、ND32000、15 STOP分と言われると、すぐには計算できないですよね。
そこでオススメしたいのがNiSi ND Calculatorというスマートフォンアプリです。NDフィルターを使用する際、濃度に応じた露光時間を計算することができます。

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AppStore
GooglePlay

このアプリを使って、フィルター濃度から「ND32000」を選択します。そして、NDフィルターなしで露光した場合、1/160秒のシャッター速度で適正露出になったので、アプリのシャッタースピードから「1/160秒」を設定。そして、少しだけ露出補正したいので「+0.3」にします。そうすると、露光時間が「4分12秒」と表示されました。これはシャッター速度でいうと、だいたい240〜250秒前後になります。

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NiSi ND Calculatorの画面。「HUC IR ND32000を装着する」「1/160秒で適正露出になる」「露出補正を+0.3」の場合、4分12秒の露光時間が表示される。
Nikon Z8のように、カメラによっては、マニュアルモードでも240秒のシャッター速度を設定することができるので、今回はシャッター速度を240秒に設定して撮影をしてみました。

ND32000使用

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撮影データ:SS:240秒 F値:F8 ISO:64 EV:+0.0 焦点距離:24mm(35mm判換算) HUC IR ND32000使用

全く人が写っていませんね。このように、超長秒露光になると、都市風景だけ写り、動いているものは比較的消えて写ります。もちろん、止まっている人や止まっている車は写ってしまいますが、動いていれば概ね消えるでしょう。
ちなみに、NDフィルターなしの写真もお見せします。NDフィルターありとなしでどれほど画が変わるかおわかりいただけるのではないでしょうか。

NDフィルター未使用

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撮影データ:SS:1/160秒 F値:F8 ISO:64 EV:+0.0 焦点距離:24mm(35mm判換算)NDフィルターなしで撮影すると、シャッター速度が1/160秒なので、人や車が写り込んで、少しごちゃごちゃした印象になっている。

観光地へ行くとどうしても人が多いので、写真を撮りたいと思っても、人の写り込みを気にしてしまうことはよくあると思います。もちろん、人を写し込んで活かすこともありますが、建物だけを撮りたいという方もいるでしょう。
そのようなときにこの濃度の非常に濃いNDフィルターを使うことで、人を消して建物を引き立たせ、作品のクオリティを上げることができますので、ぜひ使っていただきたいと思います。

おわりに

今回はNiSi True COLOR ND VARIO とNiSi HUC IR ND32000の2つのNDフィルターを使用して、それぞれの表現を楽しんでみました。これらのNDフィルターは人や車などの動きをブラしたり消したりできるので、ぜひ皆さんも楽しんでいただければと思います。
NiSiフィルターガイドVol.6もお楽しみに!


上田晃司

米国サンフランシスコに留学し、写真と映像の勉強をしながらテレビ番組、CM、ショートフィルムなどを制作。帰国後、写真家塙真一氏のアシスタントを経て、フリーランスのフォトグラファーとして活動開始。ライフワークとして世界中の街や風景を撮影。ドローン撮影や特機での撮影も得意! 近年では、講演や執筆活動も行っている。主な著書は、「写真がもっと上手くなる デジタル一眼 撮影テクニック事典101」や「写真が上手くなる デジタル一眼 基本&撮影ワザ」「ニコン デジタルメニュー100%活用ガイド」などがある。 YouTubeチャンネル「写真家夫婦上田家」でカメラのテクニックやレビューを配信。ニコンカレッジ、ルミックスアカデミー講師。

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コムロミホ

文化服装学院でファッションを学び、ファッションの道へ。撮影現場でカメラに触れるうちにフォトグラフィーを志すことを決意。アシスタントを経て、現在は広告や雑誌で活躍。街スナップをライフワークに旅を続けている。カメラに関する執筆や講師も行う。またYouTubeチャンネル「写真家夫婦上田家」「カメラのコムロ」でカメラや写真の情報を配信中。カメラや写真が好きな人が集まるアトリエ「MONO GRAPHY Camera & Art」をオープン。

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