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可変NDで白とびさせずに花火を記録する

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Nikon Z 9, NIKKOR Z 24-120mm f/4 S(47mm), 30sec., F8, ISO100, 可変NDフィルターTRUE VARIO 3stop

夏の風物詩、打ち上げ花火。大輪の花を咲かせる美しい瞬間を残したいと思ったことのある人は少なくないのではないでしょうか。僕自身もそのひとりです。打ち上げ花火の撮影では、可変NDフィルターを使います。その理由やメリットを花火撮影のノウハウとともにお話します。

写真:まちゅばら

目次

花火を撮る際の機材

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カメラはNikon Z 9を使用。レンズは撮影地での花火との距離に応じてセレクトする。

花火撮影の際に必要な機材は、まずはもちろんカメラ本体ですね。僕はNikon Z 9を使用していますが、シャッターボタンを押している間、シャッターを開き続けることのできる「バルブ(B)」機能のあるカメラであれば、カメラの機種は問いません。撮影時の基本設定で説明しますが、絞りをF8程度に絞って撮影するため、明るい開放値の大口径レンズを使う必要はありません。キットレンズなどの使いやすいズームレンズで十分に撮影することができます。花火を撮影する場所、花火との距離に合った焦点距離域のレンズであれば何でもよいと思います。

また、花火はバルブ撮影で撮るため、欠かせないのが三脚とレリーズです。まず三脚にカメラを据えて撮影する画角、構図を決めます。ブレや構図のズレなどを防ぐためできるだけカメラに触れずに撮影したいので、レリーズを使ってシャッターを切ります。指でシャッターを切るとシャッターボタンを押し込むときにブレてしまうこともあるので、レリーズは長時間露光するときには必須アイテムです。

さらに、撮影画像の白とびを避けるため、NDフィルターを使います。連続して打ち上がるスターマインなどの大型花火は、カメラ側の設定だけでは露出のコントロールが難しく、シャッターを切り終わって撮影した画像を確認すると真っ白になっていたということが何度もあります。同じ花火は二度と上がりませんし、花火大会が終われば次は来年になってしまいます。撮り直すことは不可能なので、NDフィルターも必須のアイテムです。

花火撮影の基本設定

僕は花火だけでなく、背景も画のなかに入れ、風景写真的に花火を撮影するため、カメラの露出モードはマニュアルで、絞り(F値)をF8〜F10程度まで絞ります。

シャッタースピードは好きなタイミングでシャッターを開閉するためにバルブに設定します。

ピントは撮影する前に、無限遠(∞)、または、打ち上げポイント付近(の背景)に合わせておき、不測の事態でピント位置がズレてしまわないよう、オートフォーカスでピントを合わせた場合には、マニュアルフォーカスに切り替えておきます。また、僕は三脚を使用して撮影するので、レンズやボディ内の手ブレ補正機能はオフにしています。

クライマックスに向けて、まず単発の花火で撮影する画角や露出のベースを設定し、絞り値や可変NDフィルターの減光度合いを調整しながら撮影します。

構図に関しては、打ち上げ箇所の数など、どの程度横に広がりがあるかどうかで縦横を決めます。どちらの構図も好きなため、気分で縦横を切り替えていますが、撮り逃したくないスターマインは横構図、画角は広めで撮っています。また、縦横の構図の切り替えを容易にするため、カメラボディにL字プレートを装着し、三脚に据えています。

花火写真

Nikon Z 9, NIKKOR Z 24-120mm f/4 S(33mm), 13sec., F8, ISO100, 可変NDフィルターTRUE VARIO 1stop

先述しましたが、花火の撮影では、カメラの設定をISO100、F8-10を基本として、単発の花火なら、可変NDフィルターTRUE VARIOを1stopに設定。スターマインでは2-3stop、クライマックス時には3-4stopにそれぞれ設定しています。

カメラで設定できる規定のシャッタースピードで撮影すると、狙ったもの以外の花火も画角に入ってしまうことがあります。そのため、撮影開始と終わりを自分のタイミングで決められるバルブ設定で長時間露光をします。

ただ、シャッタースピードが短すぎると花火以外の背景が暗くなりすぎることがあるため、あらかじめ背景だけを好みの露出で撮影しておき、比較明合成(*1)で仕上げることができるよう対策することもあります。
(*1)比較明合成:複数の画像を合成し、ひとつの画像にする画像処理の手法のひとつ。 複数の画像の同じ部分の明るさをピクセル単位で比較し、明るい部分を抽出して合成する。 花火、天体写真など、カメラを固定し、インターバル撮影した場合などに多く使われる

シャッターを開けるタイミングは、花火が打ち上がり、下から花火が上がってきた瞬間に合わせています。花火が大きく広がって尾を引いて下がり切ったらシャッターを閉じます。打ち上がる際の音で判断するとスタートが遅れてしまうので、花火を目視してタイミングを図ります。

撮影する花火が打ち上がる前に、可変NDの濃度を調整し、露出の最終調整をしますが、長時間露光では、花火が重なり続けている場合や、色味によっても白とびしやすいかどうかが変わってきますので、濃度を調整したからといって必ずしも思った通りに撮れるというわけではありません。赤やオレンジなどの明るい暖色系は、青などの寒色系に比べ、白とびしやすいと思います。ただ、こればかりは何度も花火を撮影して、どの程度の減光が必要か経験値をためていく必要があります。

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NDフィルターを使わず白とびしてしまった花火写真。長時間露光では、重なった花火や、花火の色味によって露出オーバーとなってしまい、白とびしてしまう。また、風向きによって煙で花火が見えにくくなってしまったり、花火が風に流されてしまい、形が悪くなってしまうこともあるため、撮影する場所での風向きを確認し、風下での撮影は極力避ける。


【花火を撮影するための設定 まとめ】

  • カメラの撮影モードはマニュアル(M)
  • 絞り(F値)はF8〜10
  • ピント合わせはマニュアル(MF)。※オートフォーカスで合わせた際は、ピント位置を決めたらマニュアルに切り替えておく。
  • ボディ内手ブレ補正、レンズ内手ブレ補正ともにオフにする
  • シャッタースピードはバルブ(B)に設定
  • 可変ND(固定NDでも可)で花火ごとに露出を最終調整する

【シャッターを切るタイミングと、撮り終えるタイミング】

  • ブレを防ぐため、レリーズを使用する
  • 音ではなく、花火を目視確認し、シャッターを切る(シャッターボタンを押す)花火が最大まで広がり、尾を引いて下がり切ったら撮り終える(シャッターボタンを放す)

可変NDを選んだ理由

カメラ側の設定を固定したまま、打ち上げ花火の明るさに合わせてレバーを回して濃度調整ができる可変NDは、濃度違いのフィルターをつけかえる必要がなく、さまざまな花火に瞬時に対応できます。

固定NDを使う場合は、ND4(4段分減光)、ND8(3段分減光)程度のNDフィルターであれば、カメラの設定も含め、ほとんどの打ち上げ花火で十分に撮影が可能です。

可変NDを使った撮影

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Nikon Z 9, NIKKOR Z 24-120mm f/4 S(30mm), 15sec., F8, ISO100, 可変NDフィルターTRUE VARIO 2stop

混合色のスターマイン(連射連発花火)。割物と呼ばれる玉が破裂し、球型に飛び散る花火でスタンダードなタイプで、花火大会では多く見られる。縦構図で撮影しておきたかったため花火の揚がる高さを確認してリフレクションまで入る画角で撮影した。花火の緑や青色も美しくそのままに再現できている。

スターマイン(千輪).jpg__PID:18816718-05e8-4c30-80fe-33de5f043cf0

Nikon Z 9, NIKKOR Z 24-120mm f/4 S(47mm), 30sec., F8, ISO100, 可変NDフィルターTRUE VARIO 3stop

クライマックスでは、数百の花火を絶妙なタイミングで打ち上げ、さまざまな大きさや、色の変化、多彩な形で夜空を彩る。手前の彩雲孔雀(白っぽい半円状の花火)の上に、更に虹を描くように打ち上げる紀北の彩色千輪。横方向へ広範囲で打ち上がるので、画角いっぱいに広がる花火を撮影するために横構図で撮影した。また白とび防止のため濃度を3stopに上げている。

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Nikon Z 9, NIKKOR Z 24-120mm f/4 S(30mm), 20sec., F8, ISO100, 可変NDフィルターTRUE VARIO 3stop

花火が打ち上がる最高点に到達したとき、空中で一瞬静止し、開いていく。この瞬間がいちばんきれいな円形になるが、引いている尾は風向きによって流れ方が変化する。打ち上がり、輝きながら垂れていく花火の軌跡を最後まで写し切れるようシャッターを切った。

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Nikon Z 9, NIKKOR Z 24-120mm f/4 S(30mm), 343sec., F8, ISO100, 可変NDフィルターTRUE VARIO 3stop

背景の山の稜線、手前の水面に映る花火のリフレクションを入れることも想定して露出を調整。可変NDは3stopに設定した。大きく開く花火の周りにある明るい光は、大きな音とともに激しく発光する花火。肉眼で見るととてもまぶしいため、白とびしているかと思ったが、可変NDのおかげでこのように白とびなく撮影ができた。初めてこのタイプの花火を満足できるレベルできれいに撮影することができ、可変NDの効果を実感した。

これまで固定のNDも使用してきましたが、可変NDフィルターはカメラ側の設定は固定のまま、カメラに触れることなくフィルターにあるレバー操作だけで露出調整が可能です。花火が打ち上がる直前でも瞬時にNDの濃度を変えられるので、とても快適に撮影ができます。レバーのトルクもちょうどよく、カメラ側を手で固定せずにレバー操作ができつつも、緩くて動いてしまうこともありません。二度と同じものを撮影することができない花火撮影の現場では、失敗を防ぐ意味でも可変NDがあると重宝すると思います。

単発花火から中盤のスターマインは、可変NDの濃度を2Stopで固定して撮影し、終盤の大型スターマイン前に濃度を上げます。終盤、クライマックスのスターマインは同じものは上がらないため撮り直しがきかないので、余裕をもってND濃度を変えて待機し、撮り逃しがないようにしています。

まとめ:快適な花火撮影をするために

瞬間の芸術である花火を美しく残すためにできることは、カメラ位置や設定、構図を決めることだけではありません。

花火大会の規模から開催時間、問い合わせ先や打ち上げ場所、背景となる周辺のロケーション、三脚を立てることのできる場所の有無など、事前に調べられる情報は多岐にわたります。規模の大きな花火大会では、毎年公式のウェブサイトができ、リアルタイムで情報が得られることもあります。撮影場所は、地図アプリなどを利用すれば、事前に現地に行けなくても最低限のロケーション情報を得ることが可能です。撮影時には三脚を立てるため、撮影スペースの確保はマナーを守って行うことも心がけましょう。

各種事前情報や花火打ち上げのタイムスケジュール、風向きを確認しておくことで、余裕を持って可変NDの濃度調整やカメラ設定の変更ができるようになり、失敗写真も減らしていくことができると思いますので、ぜひチェックしてみてください。スケジュールが分からなくても、連発の花火や大きく数の多いスターマインなどは中盤から後半にかけて打ち上がることが多いので、単発の花火から撮影を始めて露出を決めたら、花火を楽しみながら後半の大型花火のために待機してもよいと思います。

花火大会は暑い夏の撮影となるため、水分補給、熱中症対策を怠らずに撮影することも重要です。しっかり備えて夏の風物詩を楽しみながら、撮影を楽しみましょう。


まちゅばら

フォトグラファー 1994年生まれ、岐阜県出身。日本の絶景や四季の光景、野生動物を主に撮影。X(旧Twitter)で作品が度々大きな反響を呼び、ネットニュース等でも取り上げられ、最近ではNFTでも活動。国内外のフォトコンテストでの受賞多数。記事の執筆、撮影なども行っている。
使用カメラ:Nikon Z 9
使用レンズ:NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S/Z 24-120mm f/4 S、NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR

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