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NiSiフィルターガイド Vol.4:ブラックミスト

冬におすすめ!ブラックミストで幻想イルミネーションにトライ!

NiSiフィルターガイド Vol.4:ブラックミスト

目次

はじめに

こんにちは、フォトグラファーの上田晃司とコムロミホです。NiSiフィルターガイドVol.4はイルミネーションを幻想的に撮るテクニックをご紹介していきたいと思います。イルミネーションの季節には、ブラックミストというフィルターがよく合います。NiSiフィルターにはブラックミストフィルターが3種類、「1/8」「1/4」「1/2」というものがあり、それぞれ濃度の違いを表しています。この濃度の違いがイルミネーション撮影にどのように役に立つのか、そしてそもそもブラックミストフィルターを使うとどのような効果を得られるのかについて、今回ご紹介していきます。

ブラックミスト

フィルター枠に記載されている「1/8」「1/4」「1/2」は濃度の違いを表している。

基本編

「ふんわり」「シネマティック」な表現ならブラックミスト

そもそもブラックミストフィルターとはどのようなフィルターかご存知でしょうか? ブラックミストフィルターの最大の特徴は光を拡散させ、柔らかい描写にすることができることです。あえてコントラストやシャープさを抑えてシネマティックな雰囲気にできる、これがブラックミストフィルターの利点です。もちろん解像感もしっかり維持してくれます。
下の画像はイルミネーションが巻き付けてある木を主被写体にした一枚です。

【ブラックミストフィルターなし】

【ブラックミストフィルターなし】SS:1/5秒 F値:4.0 ISO:800 EV:+1.0 焦点距離:50mm(35mm判換算)

カメラメーカーやレンズメーカーから発売されている昨今のレンズは非常に良くできているので、コントラストも高く、逆光でもかっちりと写るようになっています。イルミネーションの場合は、点が点にしっかり写るわけです。これはもちろん光学性能から見れば優れているのですが、もしふんわりさせたいなと思ったらブラックミストフィルターを使って、光源を滲ませる工夫が必要になります。

【ブラックミストフィルター 1/8 使用】

【ブラックミストフィルター 1/8 使用】SS:1/6秒 F値:4.0 ISO:800 EV:+1.0 焦点距離:50mm(35mm判換算) ブラックミストフィルター使用ブラックミストフィルターの濃度1/8を使って撮影。ブラックミストフィルターなしと比較すると、光が滲んでいるのがわかる。

上の画像はブラックミストフィルターを使って撮影した一枚です。ブラックミストフィルターを使用していない状態と比べると、ガラリと印象が変わっていることがわかると思います。光源もきれいに滲んで、美しい描写になっています。この画像は濃度「1/8」を使ったのですが、もう少し濃い「1/4」や「1/2」にするとまた少し違った表現にすることができます。


【ブラックミストフィルター 1/4 使用】

【ブラックミストフィルター 1/4 使用】SS:1/8秒 F値:4.0 ISO:800 EV:+1.0 焦点距離:50mm(35mm判換算) ブラックミストフィルター使用さらに濃い「1/2」で撮影した一枚。ハイライト部分がより柔らかくなっているのがわかる。

【ブラックミストフィルター 1/2 使用】

【ブラックミストフィルター 1/2 使用】SS:1/8秒 F値:4.0 ISO:800 EV:+1.0 焦点距離:50mm(35mm判換算) ブラックミストフィルター使用さらに濃い「1/2」で撮影した一枚。ハイライト部分がより柔らかくなっているのがわかる。

このようにブラックミストフィルターといっても、濃度の違いによって写し出される写真のイメージが変わってきます。まずは「1/8」「1/4」「1/2」の違いを知って、どのような使い方が自分のイメージに合うか考えてみましょう。

実践編

明るさとF値でイルミネーションにきらめきを

ここではイルミネーションの撮り方をご紹介していきます。イルミネーションを撮影するときには2つのポイントがあります。まず、1つ目が写真の明るさになります。写真の明るさは露出補正を使って、変更します。
下の画像は露出補正をしていない状態、つまり標準露出で撮影した一枚です。やや暗いかな、という印象になっているのがわかるかと思います。

露出補正なし

【露出補正なし】露出補正で明るくしないと、このようにやや暗い印象になる。

次の画像は露出補正をプラスしたものです。上の画像と比較すると全体が明るくなっただけでなく光源の一つ一つが大きくなり、イルミネーションがより美しく表現できていることがわかるでしょう。

【露出補正あり】

【露出補正あり】+1.7の露出補正をして撮影。露出補正で明るくすると、イルミネーションのキラキラ感や幻想的な雰囲気が増す。

2つ目のポイントはF値になります。読者のみなさんはイルミネーションを撮影するとき、どれくらいのF値にして撮影していますか? 特に手持ちでの撮影の場合、暗い場所での撮影になるので、少しでも手ブレしないように開放F値にしている方もいるかと思います。それでは、F値の違いを写真で見てみましょう。下の画像は「F2.8」と「F8.0」の比較です。

【F2.8で撮影】

【F2.8で撮影】

【F8.0で撮影】

【F8.0で撮影】

ご覧のように、F2.8で撮影するよりもF8.0で撮影した写真の方が、光源が目立って見えるのがわかります。これは絞ることで、つまりF値を大きくすることで、光条が発生するためです。F2.8で撮った写真を拡大してみると、光源が点の状態になっていますが、F8.0で撮影した写真を拡大してみると光条という光の筋が光源から伸びていて、光源をキラキラとより美しく表現することができます。ただし、絞りすぎると解像感がなくなってしまいますので注意してください。

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【F2.8で撮影】だと点光源が点として写し出されている。

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【F8.0で撮影】F8.0だと点光源から光条が出て、キラキラとしたイルミネーションにすることができる。

イルミネーション撮影の際は、写真の明るさ、F値の2つのポイントを意識することでより美しく表現できることを覚えておくとよいでしょう。

いつもと違う構図で幻想感アップ

上の画像でも十分きれいに撮れているのですが、ブラックミストフィルターを使うことで光源が柔らかくなり、イルミネーションの幻想的な雰囲気をより強調できます。露出設定は前述した通り、露出補正をプラス、F値をF8.0にして、手持ちで撮影していきます。手ブレしないようにしっかりと構えながら撮影するようにしましょう。
このとき、普通に水平のアングルでイルミネーションを撮影すると人がたくさん写ってしまい、イルミネーションよりも人に目が行ってしまう写真になってしまいます。人が写り込んでしまいそうな場面では、主被写体となるイルミネーションの下へ移動して、あえてカメラを真上に向けて撮影するのがおすすめです。人の写り込みを避けられるだけではなく、空に向かって伸びるイルミネーションの奥行き感を表現することもできます。

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【ブラックミストフィルター 1/2 使用】SS:0.3秒 F値:8.0 ISO:1600 EV:+1.33 焦点距離:24mm(35mm判換算) ブラックミストフィルター使用イチョウの木の下に入り込んでカメラを真上に向けて撮影。

上の画像はブラックミストフィルターの「1/2」を使って撮影した一枚です。手前の光源が前ボケになるようにカメラを真上に向けて撮影したのですが、ブラックミストフィルターの効果で手前の光が大きく拡散されて、より柔らかい印象に仕上がっているのがわかるかと思います。背景にビル群を入れることも幻想的な雰囲気を強調してくれています。
このように、いつもと同じようにただカメラを構えるだけではなく、いろんな目線でイルミネーションを捉えてみると面白みのある写真になるので、構図に工夫を凝らしてみることをおすすめします。

イルミネーションを背景にして主被写体を写してダイナミックに

イルミネーションの撮影において、ワンパターンな構図にならない方法は他にもあります。イルミネーション以外の被写体を主被写体とすることです。それは人物でもいいですし、ベンチでもいいですし、下の画像のように停めてある自転車でもいいでしょう。自転車のような低いところにある被写体は、自転車の高さで撮るとどうしても背景のイルミネーションがあまり入ってきません。そこで、思い切ってローポジション、つまり低い位置からローアングルで全体的に入るようフレーミングすると、ダイナミックかつ印象的な写真になります。

イルミネーションを背景にして主被写体を写してダイナミックに

街中にあった自転車がおしゃれに感じたので、自転車が主被写体になるようにイルミネーションを撮影していく。自転車の高さで撮影すると、イルミネーションの魅力が伝わりにくくなるので、構図に工夫が必要となる。

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【ローポジションから撮影】SS:1/6秒 F値:4.5 ISO:1600 EV:+1.33 焦点距離:24mm(35mm判換算) ブラックミストフィルター使用思い切ってローポジションからカメラをやや上に向けたローアングルで撮影した一枚。キラキラとしたイルミネーションが大きくフレーミングされ、ダイナミックな雰囲気が伝わる一枚になっている。

上の画像では、ブラックミストフィルターの「1/2」を付けています。ハイライト部にふわっと光が入り、より印象的になっていることがわかると思います。ここで工夫したことがもう一つあります。それはホワイトバランスです。ホワイトバランスを「晴天」に設定してイルミネーションを撮影される方が多いと思いますが、上の画像のように「晴天日陰」などの暖色を活かせるホワイトバランスにすると、温かみのあるイルミネーション写真に仕上がります。
※ホワイトバランスの名称はカメラメーカーによって異なります。
このように主被写体を見つけて、背景にイルミネーションを入れて撮影する、さらにブラックミストフィルターを装着することでよりふんわりとした幻想的な雰囲気になるということを覚えておくとよいでしょう。

イルミネーションを背景に主被写体を写してダイナミックに

次に下の画像のような街灯に飾ってある花を主被写体にして撮影していきます。

イルミネーションを背景に主被写体を写してダイナミックに

街灯などの高い位置に飾ってある花を主被写体にする。

イルミネーションといえば、きれいな丸ボケを作ってキラキラとした印象にすることが醍醐味だと思います。そこで、ここではF8.0のようにやや絞るのではなく、F2.8のように開放F値にして撮影します。また、丸ボケを強調するために、焦点距離も70mmのように望遠側で撮影するようにします。ちなみに、ここには花を照らすためのトップライトがあるのですが、下に向かって光源が照らされているので、撮影者から見ると逆光の状態になります。そこで、ここではブラックミストフィルターの濃度「1/8」を使って撮影することにしました。「1/8」にすることで、光の拡散する力が「1/2」と比べて少し弱まり、柔らかさも落ち着き、自然なグロー感を得られることができます。

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【ブラックミストフィルター 1/8 使用】SS:1/50秒 F値:2.8 ISO:1600 EV:+1.0 焦点距離:70mm(35mm判換算) ブラックミストフィルター使用カメラを上に向けて撮影。開放F値、望遠端で撮影したことで被写界深度が浅くなり、点光源がきれいな丸ボケになった。

花を照らす奥の光と奥に見える丸ボケが両立して、より幻想的な雰囲気にすることができました。

おわりに

ブラックミストフィルターがあると、こんなにイルミネーション撮影のバリエーションが広がるのかと私自身驚きました。ブラックミストフィルターで得られる効果は、使用するレンズはもちろん設定するF値によって変わってくるため、奥が深いフィルターだと思います。
また、NiSiフィルターのブラックミストフィルターには「1/8」「1/4」「1/2」という3種類の濃度があるので、どのような効果を得たいかに合わせて濃度をセレクトできるのが良い点です。今回撮影してみて個人的には、幻想的なイルミネーションの雰囲気を表現したければ「1/2」が使いやすい印象ですし、光源が強いようなシーンは「1/8」にして光を抑えながら自然に撮影してみる、という使い方がベストかと思いました。
空気の澄んでいる冬の季節はイルミネーションや夜景が映えるタイミングです。ブラックミストフィルターを使えば雰囲気もガラッと変わりますので、ぜひ試してみてください。NiSiフィルターガイドVol.5もお楽しみに!


上田晃司

米国サンフランシスコに留学し、写真と映像の勉強をしながらテレビ番組、CM、ショートフィルムなどを制作。帰国後、写真家塙真一氏のアシスタントを経て、フリーランスのフォトグラファーとして活動開始。ライフワークとして世界中の街や風景を撮影。ドローン撮影や特機での撮影も得意! 近年では、講演や執筆活動も行っている。主な著書は、「写真がもっと上手くなる デジタル一眼 撮影テクニック事典101」や「写真が上手くなる デジタル一眼 基本&撮影ワザ」「ニコン デジタルメニュー100%活用ガイド」などがある。 YouTubeチャンネル「写真家夫婦上田家」でカメラのテクニックやレビューを配信。ニコンカレッジ、ルミックスアカデミー講師。

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コムロミホ

文化服装学院でファッションを学び、ファッションの道へ。撮影現場でカメラに触れるうちにフォトグラフィーを志すことを決意。アシスタントを経て、現在は広告や雑誌で活躍。街スナップをライフワークに旅を続けている。カメラに関する執筆や講師も行う。またYouTubeチャンネル「写真家夫婦上田家」「カメラのコムロ」でカメラや写真の情報を配信中。カメラや写真が好きな人が集まるアトリエ「MONO GRAPHY Camera & Art」をオープン。

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