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MAGAZINE

「「静」と「動」を重ねて桜の花筏を切り取る」by 長瀬正太

「静」と「動」を重ねて桜の花筏を切り取る

NIKON D800E, AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR, 175mm, (多重露光:1/8秒, F16, ISO100/15秒, F16, ISO100), 可変NDフィルター ND VARIO

水に漂う花びらの姿は優雅で儚げです。この「花筏」を写す場合、長時間露光で軌跡を描きますが、長すぎると形が見えなくなり、さじ加減が難しいところ。試行錯誤して「静」と「動」を1枚にまとめ上げた長瀬正太さんに、試行錯誤から仕上げまでの経緯を伺いました。

目次

撮影のストーリー

思い描いたゴールにたどり着く別の道を考える

儚げな桜の花筏を撮りたくて、群馬の公園にある池で撮影しました。花筏は、長時間露光で花の足跡を描くことで、日本画のような嫋やかな表現になります。どのような線を描くかは、花びらの動き方と、露光時間によって変わってきます。このさじ加減が難しいところで、この写真も最初は15秒の1枚撮りで撮影したのですが、花だということがわからない写真になってしまいました。そこで写し止めた花びらと軌跡を多重露出する方法を思いつき、「写実」と「抽象」を1枚の絵におさめました。撮りたい絵が思い浮かんでいても、現場に行ってみると想像と違うことは少なくありません。ゴールに行く道は1つではないので、現場でよく観察して、違う道=方法を見つけることが大切です。自然現象に対して、自分ができることの幅を広げておきたいものです。

この写真を撮るまでの試行錯誤

①日の出前の薄暗い光で儚い表現に

淡く儚い様子を表現するには、何より光の質が重要です。強い光で撮影すると、コントラストがついて力強い描写になってしまうので、日の出前の薄暗い時間帯を狙いました。朝の5時過ぎに撮影しています。

②花の流れを観察する

公園の一角にある池で、隅っこに花びらが集まっていました。観察していると、溜まっていた花びらが右から左へとゆっくり移動していたので、長時間露光で軌跡を捉えようと考えました。軌跡は実際には見えないので、どういう描写になるかを頭の中でシミュレーションします。

③ハイアングルから水面だけを切り取る

水面ができるだけたくさん入るように、三脚はハイアングルにセッティング。画角的にどうしても入ってしまう余計な要素は、後からトリミングすることを考慮してフレーミングしています。

④流れが速すぎて桜とわからない

花の動き方を観察して、15秒程度の長時間露光がちょうど良いと判断しました。それ以上長いと線になってしまうし、速いと軌跡が短くてうるさい感じになります。ところが、軌跡の雰囲気は良かったものの、桜であることがわからない写真になってしまいました。

⑤「見える桜」と「見えない桜」を多重露出で重ねる

長時間露光で動いているものを写すと、形が曖昧になり抽象的な描写になります。そこで写実的なものを入れようと、動かない桜の木を入れてみたのですが、ありきたりな構図でいまひとつ面白くありません。やはり、桜の花びらだけで画面全体を構成したいと考えて、速いシャッター速度で止まっている花びらと、流れている花びらを多重露出で重ねることを思いつきました。カメラ内の多重露出機能を使い、1枚目は速いシャッター速度で止め、2枚目は長時間露光で流し、2枚を重ねました。

⑥トリミングで余計な情報を排除

RAW現像では、花びらの流れだけに意識が向くように、モノトーンにして色の情報をなくしました。上には黒っぽい色の流れがあり、悪目立ちしていたのでトリミング。横長のアスペクト比に仕上げています。

撮影のテクニック

テクニック1 多重露出で「静」と「動」の写真を重ねる

6秒と60秒の画像を多重露光した例

6秒

6秒

60秒

60秒

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テクニック2 水と風でシャッター速度を決める

花びらなどの軌跡を何秒で描いたら良いかは、水の動きと風の強さによって異なってきます。桜の花びらのように池やお堀に溜まって、風の流れでゆっくりと動くようなシーンでは、長めの15秒前後からスタートして様子を見ながら、シャッター速度を調整します。軌跡の予測が難しい時は、1秒、2秒、4秒、8秒、16秒・・・とシャッター速度を倍にして、大まかな雰囲気を見ていきます。絞りは固定、ISO感度と可変式NDフィルターの調整でシャッター速度を変えます。

5秒で撮影

5秒で撮影すると、花びらの形状は写し止められます。

30秒で撮影

30秒で撮影したほうは流れの軌跡が描かれます。花びらは形が見えません。

COLUMN

お堀など流れが遅い場所では描写が変わりますが、川など水の流れが速い場合、シャッター速度を一定以上に遅くしても、描写は変わりません。露光時間内にフレームから出てしまう場合、画面の端から端まで通過する線として描かれるからです。図で示すと、下記のような説明になります。

説明

テクニック3 トリミングを意識してフレーミング

右上の黒っぽい部分が気になったので、トリミングを想定して撮影。仕上がりイメージがわかるように、カメラの背面液晶パネルにパーマセルテープなどの黒いテープを貼って、トリミングでカットする部分を隠します。

トリミング

黒い部分に視線が誘導されて、花びらの流れの妨げになってしまいます。


長瀬正太 Shota Nagase

1975年生まれ 群馬県前橋市在住デジカメ教室 主宰フォトグラファーWEBマガジンXICO クリエイターNiSi Filters オフィシャルアドバイザー

個展

2014年 HKU SPACE(香港)

2014年 Ⅶ International Tashkent Photobiennale(Uzbakistan)

2014年 長瀬正太 和紙写真展 ’心’(東京新宿)(RICOH IMAGING SQUARE SHINJUKU)

2018年 長瀬正太 和紙写真展 ’心’(前橋市)阿久津画廊

合同展

2013~2016・2019年 CP+(パシフィコ横浜) 阿波和紙ブース

2014・2016年 Photokina World of imaging(GERMANY)阿波和紙ブース

2014年 Creative Japanese Artist in Milan 2014(ITALY)

2014年 Onward-Navigating the Japanese Future 2014(Los Angeles)

2019年  International photo competition ART OLYMPIA (東京都美術館)

2019年  1st Armenian International Photo Festival(Armenia)

パブリックコレクション

2018年 平山郁夫美術館Caravanserai(UZBEKISTAN) 収蔵

2019年 在アルメニア日本国大使館(Armenia)収蔵

実績

2019年 CP+(パシフィコ横浜)NiSiブース登壇

2019年 International photo competition ART OLYMPIA(日本) ​佳作​

2019年 1st Armenian International Photo Festival(Armenia) 名誉審査員

2019年 1st Armenian International Photo Festival(Armenia)Master Class セミナー講師

長瀬正太