クローズアップレンズで静物を撮る Vol. 01
クリップオンストロボを使った身近な被写体での静物マクロ撮影
クローズアップレンズを使って、身近なものを被写体とし、静物マクロ撮影をより楽しく、また「物」をより魅力的に見せる撮り方をご紹介します。少し頑張れば誰もが真似できて静物写真がワンランクアップする、クリップオンストロボを使ったシンプルな撮影方法です。
写真:北郷 仁
vol. 02 雑誌の表紙を飾れる静物マクロ撮影
クリップオンストロボを使った簡易ライティングでの撮影
身近なものに迫ってみる
Nikon D850, AF-S NIKKOR 70-200mm f/4G ED VR + クローズアップレンズNCキット, 200mm相当, 1/125秒, F16, ISO 64
冷蔵庫に入っていたオレンジをカットして撮影してみました。手のひらに乗る程度のサイズのフルーツをこんな風に大きく捉えたい場合、マクロレンズが必須になりますが、いまお持ちのレンズにクローズアップレンズNCキットを装着するだけでカジュアルにマクロ撮影が楽しめます。また、自然光や室内の人工光でも、マクロ撮影は十分できるのですが、クリップオンストロボを使うことでよりみずみずしく鮮やかな表現ができます。
実際の撮影状況
仕上がった写真をどんな風に撮影したのか、実際の状況を見ていきましょう。大型のストロボではないので、とてもシンプルな構成となっています。
01:Nikon D850、AF-S NIKKOR 70-200mm f/4G ED VRにクローズアップレンズNCキットを装着して撮影しています。
02:被写体を置く台に乳白色のアクリル板を使用しています。これはバックライト用のディフューザーを兼ねています。
03:被写体を描写する照明です。ニコンのスピードライトSB-800(*1)を使用しています。カメラのホットシューに装着するクリップオンストロボですが、発光ヘッドは少し左(奥)に振って、手に持ったアクリル板(05)に当たるようにして、光をディフューズしています。
04:バックライトです。背景を明るく飛ばすための照明で、01の撮影台と被写体の台との間に入れています。こちらも03同様にニコンのスピードライトSB-800を使用しています。
05:手に持ったアクリル板です。03のメインライトのクリップオンストロボを直射ではなく、ディフューズして被写体に当てています。
*1 ニコンの「スピードライトSB-800」は販売終了品です。現行品である「スピードライトSB-5000」でも上記と同じように撮影できます。
クリップオンストロボは1台でも十分にライティングが可能ですが、オレンジの果肉のように半透明の被写体は、裏側からも照明をあてることで、背景の白をより白く、被写体のオレンジをより美しく撮影することができます。
静物マクロ撮影の基本的な流れ
実際の撮影状況を知った上で、シャッターを切るまでの流れを4つのステップに分けて説明します。
STEP 1 撮りたい物の「どこを見せたいのか」を決める
メインとなる被写体がどんなものでも、まず自分自身が被写体に対して感じたことや、どんな部分が魅力的なのかをじっくり観察して考えてみましょう。たとえば自分の気に入っている物なら、どんなところが好きなのか、それが物の表面上に現れない部分なのであれば、どんなイメージなのかをじっくり考えることが大切です。驚いたり、感動したりしたときの自分の心持ちをイメージに落とし込む作業で、写真を撮る際にはここがいちばん大切なことでもあります。
STEP 2 写真の仕上がりのイメージを決める
被写体の「どこ」を、「どんな風に」見せたいかを決めたら、仕上がりのイメージが自ずと決まってきます。最初は難しいことを考える必要はなくて、かっこよくクールに見せたいとか、柔らかく優しく見せたいとか、そういった漠然としたイメージで構いません。
STEP 3 ライティングを決める
実際の撮影状況で解説したとおり、プロフェッショナルの静物マクロ撮影では、基本的に照明を使って被写体に対してライティングを行います。自分の見せたいところをよりよく見せるために、実際に被写体を置いてファインダーを覗きながら、どこにどんな風に光を当てていくかを決めていきます。
STEP 4 クローズアップレンズを使って撮影する
STEP 3までの段取りができたら、いよいよ撮影します。クローズアップレンズを使う際は、被写体とピントの合う距離が変わるので、マスターレンズがズームレンズの場合には、どの焦点距離で撮るのかというところも、事前に決めておけるとスムースに撮影に移行できます。
POINT
クローズアップレンズNCキット未使用 / ライティングなしではこう違う
クローズアップレンズ未使用
Nikon D850, AF-S NIKKOR 70-200mm f/4G ED VR, 200mm相当, 1/125秒, F16, ISO 64
今回の撮影では中望遠域をカバーするAF-S NIKKOR 70-200mm f/4G ED VRを使用しています。このレンズのテレ端200mmを使い、最短撮影距離である1mで撮影したカットがこちらです。円形のオレンジの輪切り全体を入れることができましたが、ここからさらに被写体に迫りたい場合、マクロレンズが必要になってきます。
ライティングなし
Nikon D850, AF-S NIKKOR 70-200mm f/4G ED VR, 200mm相当, 1/30秒, F4, ISO 1600
クローズアップレンズNCキットを装着すると、ここまでグっと被写体に迫ることができます。自然光での撮影の場合でも、明るめに仕上げることでオレンジ色の鮮やかさを見せることはできますが、ワンランク上の仕上がりを目指し、クリップオンストロボを使ってライティングをしてみましょう。
クローズアップレンズ×クリップオンストロボ撮影の魅力
カメラのアクセサリーシューに取り付けることのできる外付けのストロボは、カメラメーカーの純正品からサードパーティ製までさまざまな製品が販売されています。屋内外を問わず使用できますし、静物撮影だけでなく、ポートレート撮影などにもとても重宝しますので、光量違いなどでひとつ、ふたつ持っているととても便利です。ストロボを使うだけで、自然光での撮影とは違った画作りが可能になり、クローズアップレンズとの掛け合わせでは、フォーカスしたい部分をよりクリアに切り取ることができます。
クローズアップレンズで広がる静物撮影
お持ちのレンズにクローズアップレンズNCキットを加えることで、単なる「静物写真」ではなく、いつも目にしている状態とは違う被写体の魅力を発見できます。また、真正面から被写体を捉えた場合にはテクスチャーのように、少し斜めから捉えた場合にはふわっとした美しいボケとともに立体感と奥行き感も見せることができ、写真としての表現の幅が広がります。さまざまな被写体にトライして、マクロ撮影のフィールドを広げてみてください。
Nikon D800, AF Micro-Nikkor 60mm f/2.8D + クローズアップレンズNCキット, 1/125秒, F7.1, ISO 100
プラスチックのポットに熱いお湯を注ぎ、しばらくしてからポット内に水滴がたくさんついている状態を撮影しました。
プラスチックのポットも水滴も、そのままでは無色透明で味気ないので、意図的に色温度(ホワイトバランス)を下げて、青みがかるようにして撮影しています。フォーカス位置を調整するため、NiSiフォーカシングレールNM-180を併用しました。光源はニコンのスピードライトSB-800を1灯。プラスチックのポットの奥から逆光になるようにセットしています。光量はマニュアル発光です。
Nikon D810, PC Micro-Nikkor 85mm f/2.8D + クローズアップレンズNCキット, 1/60秒, F17, ISO 64
規則的に並んだ模様のように見えるこちら、何か分かりますか? 実はこれ台所用のスポンジなんです。ザラっとした表面の繊維を撮影しています。ニコンのスピードライトSB-800を1灯使用し、白い紙にバウンスさせて光質を柔らかくしています。こんな風に、クローズアップレンズを使った撮影では、普段目にしているものから新しい写真表現ができます。
Nikon D810, AF Micro-Nikkor 60mm f/2.8D + クローズアップレンズNCキット, 1/60秒, F9, ISO 64
一見すると金属のようにも見えますが、クローズアップレンズキットNCに付属するキャリングポーチのグレーの繊維にグっと迫って撮影したものです。これもニコンのスピードライトSB-800を1灯使用して撮影しています。
Nikon D850, AF-S NIKKOR 70-200mm f/4G ED VR + クローズアップレンズNCキット, 200mm相当, 1/125秒, F4, ISO 64
誰かが使ってくれるのを待っている真新しいクレパスをAF-S NIKKOR 70-200mm f/4G ED VR+クローズアップレンズNCキットで等倍に近いマクロ撮影。被写界深度が浅く、ピント合わせはジャストの位置が難しいため、撮影してはモニターを拡大してチェックします。通常ならライブビュー撮影で一発OKでしょう。ニコンのスピードライトSB-800を1灯使用しています。
Nikon D850, AF-S NIKKOR 70-200mm f/4G ED VR + クローズアップレンズNCキット, 200mm相当, 1/125秒, F16, ISO 64
こちらは使いふるした料理用の木製のヘラです。身近なものでも、新品でなくてもマクロ撮影は楽しめるものです。新品ではない木目に味があります。こちらもニコンのスピードライトSB-800を1灯使用しています。
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北郷 仁 Jin Hongo
1975年東京都生まれ。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業後、同大学大学院芸術学研究科メディア・アート専攻修了。雑誌、書籍、webなどで小物の商品撮影や複写など「地味な撮影」を得意とする。プライベートでは鉄道や花を撮影している。カメラとレンズのみならず、ストロボや三脚などの周辺アイテムも大好き。(公社)日本写真家協会(JPS)会員。
学生時代から30年来愛用するのはNikonのカメラ、レンズ。歴代のNikon機はほぼ網羅しているほど。ここに写っているもの以外にも、ニッコールレンズは単焦点からズームレンズまで130本ほど所有し、各種撮影の依頼に応えている。マクロ撮影においてはPCマイクロニッコール85mmや60mmF2.8、105mmF2.8を駆使することが多い。