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子どもの成長記録をシネマティックに撮る

我が子の姿を、成長や旅、日常の記録だけでなく、シネマティックに残したいと考えている親御さんは多いと思います。映像クリエイターの松田幸寛さんは、家族旅行の記憶を作品として残し、Youtubeで公開しています。松田さんの撮る娘さんの映像は、家族旅行でありながら、まるで映画のワンシーンを見ているよう。どのように撮っているのか、「機材」「撮影」「編集」で意識していることを伺いました。

目次

――まず、ご家族を撮るようになったきっかけを教えてください。
もともとデザイナーとして勤めていた会社で、動画の編集をやることになったんです。当時は映像そのものは撮っておらず、素材を編集するだけの仕事でした。そのうち自分でも映像を撮ってみたいと思うようになって、一番身近にいる被写体が家族だった、という感じです。いわば、仕事の練習台です(笑)。ですから、成長記録というより、作品として鑑賞し得る映像を撮っていました。

機材

表現の幅が広い24-70mmのズームレンズがおすすめ

――お子さんを撮影するとき、どんな機材で撮影していますか? またその機材を選んだ理由を教えてください。
今は仕事ではSONY α7SⅢを使っていますが、子どもの動画はほとんどSONY α7IIIで撮っています。子どもと一緒に出かけるときは、荷物も多いしフットワークも軽くしておきたいので、小さくて取り回ししやすいカメラが良いと思います。スペックももちろん大事ですが、自分のスタイルに合っているか、手に馴染むかといった使いやすさを重視して選びました。
レンズは、SIGMA 24-70mm F2.8 DG DN | Artをつけっぱなしにして撮ることが多いです。SONY FE 35mm F1.4 GMは、F1.4の世界はどんなだろう、一度G Mレンズの描写で撮ってみたい!と思って購入したものの、子どもの撮影ではあまり使わなかったです。もちろんボケ感も描写も申し分ないのですが、子どもは突発的に動くので、単焦点にこだわっていると撮り逃しをすることがあるんですよね。
24-70mmは基本の焦点距離である35mmと50mmを中心に含みながら、広角側は周囲の雰囲気を巻き込んだダイナミックな切り取り方ができるし、望遠側は圧縮効果で背景をグッと引き寄せたり、ぼかして被写体を引き立たせることができます。表現の幅が広いので、これから動画撮影を始める方なら、24-70mmくらいの標準ズームレンズがベストなのではないでしょうか。

機材
機材
機材

【お子さんを撮るときの松田さんの機材】
ボディ:SONY α7III(現在は仕事用でSONY α7SIIIを使用)
レンズ: SIGMA 24-70mm F2.8 DG DN | Art(仕事ではSONY FE 35mm F1.4 GMも使用)
ジンバル: DJI RS 2
マイク: SONY ECM-B10、Rode Wireless GO II
フィルター: NDフィルター、ブラックミスト

――SIGMA 24-70mm F2.8 DG DN | Artはシャープな印象、SONY FE 35mm F1.4 GMは柔らかい印象があります。子どもを撮るときはシャープになりすぎたりしませんか?
ぼやっとした映像は後からくっきりさせるのは難しいですが、くっきりした映像は後から編集でふわっとさせることはできるので、シャープな分には全く問題ないです。固く感じるときは、ブラックミストフィルターで光を拡散させて撮影したり、グレーディングで柔らかい描写に編集したりします。
――ジンバルやマイクは必ず必要でしょうか。
どちらもあったほうがいいですが、なくても撮れます。ジンバルは「意図しないブレ」が嫌なので使っています。ブレは歩いたり走ったり、ステップを踏むときに生じるので、ジンバルを使っていても上下しながら歩くとブレるんですよね。ですから、僕は自分が動くときは、能の摺り足のように、上下移動を極力控えてそーっと移動しています。
ジンバルがない場合は、できるだけ歩かないように工夫します。上半身だけ回転してカメラをパーンしたり、腕だけでズームするなど、ステップによる上下運動のないフレームワークにするといいですよ。
音声に関しては、子どもの笑い声や波や風の音、街の雑踏などの現場音をポイントで入れると臨場感が出るので録っておくことをおすすめします。最初はカメラ内蔵のもので十分ではないでしょうか。2,000〜3,000円の安価なマイクもあるのですが、正直、大きな違いもわからないし中途半端な印象です。
マイクにジンバルにグリップ……とフル装備をすると、もう一人子どもがいる感覚です(笑)。機材が増えるほど家族旅行には気合と俊敏な動きが必要になるので、体力と相談しながら最低限のものからスタートすると良いと思います。
――カメラの設定は何モードで撮影していますか? 基本の設定などあれば教えてください。
動画モードのマニュアル露出で、F値やシャッター速度を自分で決めて撮影しています。シネマティックな表現ではF値を開けて撮影するのがセオリーですが、僕は背景を見せたいときやシャープに見せたいときは、ガンガン絞っちゃいます。
ピクチャープロファイルはS-Log3とHLGを基本的に使用しています。静止画から動画に入った人は聞き慣れないと思うので、「肉」に例えて説明しますね。
「RAW」は生肉で、自分の好きなようにゼロから調理できます。「Log」は少しだけ火入れしたレア(S-Logはソニー独自のプロファイルです)といったところでしょうか。「HLG」は下味がついていて、「MP4(PPなし)」は味付けが完成している感じです。RAWは明暗差の情報がたくさん入っているので、編集の自由度が高い分、データが重くなります。なので僕はソニーの方式で圧縮しているS-Logを使うことが多いです。最初に撮るなら、軽めのデータで編集工程も少ないHLGが楽ではないでしょうか。HLGやMP4(PPなし)で撮影すると生のデータには戻せないので、カラーグレーディングの幅は狭まりますが、楽な編集でいい感じの映像ができます。

プロファイルを当てる前の画像

プロファイルを当てる前の画像

「S-Log」のプロファイルを当てた画像

「S-Log」のプロファイルを当てた画像

「HLG」プロファイルを当てた画像

「HLG」プロファイルを当てた画像

撮影

撮影前に決めておくのは「最初」「最後」「サビ」の3つ

――家族の動画を撮る前は、プランニングはしますか? 
お子さんの成長記録として撮影される場合、自然体をありのままに残したいケースが多いと思うのですが、僕はシネマティックに見える「嘘」をつきたい(笑)。なので、ある程度のプランニングはします。娘も1人の女性モデルさんとして客観的に見て、普段の顔とは違った雰囲気で撮影しています。 
プランニングといっても細かいシナリオを決めるわけではなくて、オープニング(最初)とエンディング(最後)、その間の盛り上がりそうなカット(サビ)を考えておくくらいです。あとは撮った映像を見ながら編集していく感じです。 例えば沖縄の映像では、オープニングは海の俯瞰から波のアップ、海を背景に娘の後ろ姿を撮ろうと思い、絵コンテまで描きました。

動画場面
動画場面
動画場面

オープニングは海の引きと寄りから娘さんの後ろ姿へ、と予めプランニング

――松田さんの映像を見ていると、お子さんの目のアップや何気ない風景が入っています。意識しないとなかなか撮れないと思うのですが、撮影するときに構成をイメージしているのでしょうか。
そうですね、撮りながら頭の中で編集しているというか、現場である程度「ここは盛り上がる場面で使おう」「次はこのカットを入れよう」と決めながら撮っているかもしれません。
現場で「わーっ、綺麗!」「すごい!」と思ったらそこはサビのカットに入れますし、「なんかいいな」と感じたり、動きや場所を連想させるものはサブカットに入れます。サビのカットは長めに撮っておき、サブカットは静止しているものなら5秒程度、動いていれば10秒程度、簡単に撮っておきます。

動画場面
動画場面

サビの映像。曲の盛り上がりに合わせて映像を選ぶ

――野暮ったくならないための、これだけはおさえておきたいアングルや構図のコツはありますか?
1つ目は「子どもの視点」を入れて、視点を増やすことです。娘が歩きながら見ているもの、例えば歩いている足元や、ふと見上げた空、建物、雑踏などを盛り込むようにしています。
親の目線を入れる場合は、子どもの目線に合わせて低い位置から撮影するといいと思います。屈んでローアングルから撮ったり、子どもを少し高い場所に立たせたり座らせたり。立ったまま親の目線で撮影すると、上からの視点になって背景や表情が見えにくいんですよね。低いアングルを取り入れることで、表現に変化もつきます。
子どもの目線、親の目線、第三者の目線と、さまざまな視点を入れることでリズミカルな映像になります。
2つ目は同じ被写体をいろいろな角度・アングルや距離感で撮っておくことです。「角度・アングル」は前から、横から、後ろから、見上げる、見下ろす、正面といったことです。「距離感」は寄って撮る、引いて撮るといったことで、これは思ったより近い距離、思ったより引いた距離から撮るのがコツ。「角度・アングル」と「距離感」を組み合わせれば、同じ被写体でも変化がついて飽きない映像になります。
3つ目は「画面内の情報をしっかりと整理する」ことです。例えばチープな看板が写っている、妙に目立つ知らない人が映り込んでいるとか……。これらを避けるだけで映像のクオリティーが高く見えます。 
また、これは編集のところでもお話しますが、一つの動作や被写体をいろんな角度やパーツごとに撮影しておくと変化がついていいですよ。

動画場面
動画場面

いろいろな視点を入れる。親が見ている視点と、子どもが見ている視点を織り交ぜていく

動画場面
動画場面
動画場面

子どもの目、手元、少し引いたカットと、1つの被写体をさまざまな角度や距離感で撮影しておく

――なるほど、視点を変えて撮っていくのですね。子どもへの声掛けや指示出しはどのようにしていますか?
子どもですので、指示を出してもうまくいかないこともあります。ですので、大人のモデルさんへの指示出しとは違った工夫をしています。例えば右に向かせたいときは、「あ、あれ何?」と子どもが興味を引きそうな言い回しをしています。

編集

同じカットが続かないように「変化」をつける

――編集ソフトは何を使っていますか?
デザイナーでもあるのでAdobe CCに加入しており、そのままAdobe Premiere Proを使っています。
――カットを選ぶとき、何を基準に採用していますか?
ブレとピントは気にしますね。手ブレには「狙った良いブレ」と、「狙っていない良くないブレ」があります。意図せず「ぶれちゃった」映像は弾きます。あとは、しっかりと狙ったところにピントが合っているかを重視しています。
――記録動画から抜け出すために必須の編集テクニックを教えてください!
1カット目と2カット目で、「何かが違う」ことが大切です。角度、距離、寄り引きなど、同じようなカットが続くと、なんとなく野暮ったく見えます。
撮影のところでもお話しましたが、1つの動作や被写体をいろんな角度やパーツごとに撮影しておき、3カットほど繋げるとプロっぽくなります。例えば、歩いている様子であれは、パーツごとに足元→目元→全体と撮って繋げていく感じです。このとき、角度も変わっているとさらに変化がつきます。右斜め→左斜め→前から、といった具合です。

動画場面
動画場面
動画場面

1つの被写体のパーツを変えて3カット撮影。「足元」「横顔のアップ」「全体」と展開していく

動画場面
動画場面
動画場面

1つの被写体を「前」「後ろ」「横」のアングルから、「引き」「ミドル」「寄り」の距離感を組み合わせた例

――BGMはどのタイミングでどうやって選んでいますか?
子どもの動画は、撮った素材を見ながら決めることが多いですね。映像を流しながら、完成イメージや映像に合うかを見て決めます。子どもの動画にゴリゴリのEDMやHipHopは合いません(笑)。メインのテーマに合ったものをヒントに、海なら南国っぽい曲、古い街並みなら和っぽい曲といった具合に絞り込んでいきます。候補の曲をバーッと聞いて、あっ、これかも!と直感的に感じたものをじっくり聞いてみる感じです。
ボーカルがあるものだと、歌詞が合わないものがあるので注意が必要です。ファミリー動画なのに失恋ソングだったり。歌詞がよくわからない場合は、ボーカルはないほうが無難ですね。
音楽サイトは仕事でも使うので、有料のArtlistを使用しています。無料のものでもクオリティーの高いものもあるので、最初はいろいろ試してみると良いと思います。
――動画にBGMを入れる時に意識していること、注意していることを教えてください。
音楽には、「Aメロ」「Bメロ」「 サビ 」 というように、起承転結があります。映像も曲に合わせて起承転結を活かしながら編集していくと、見ている人を飽きさせません。BGMがゆったり目のときにはスロー、サビのところではインパクトのあるカットを持ってくるなど強弱をつけると良いかと思います。
また、現場の音を残すのもポイントです。沖縄の動画であれば、波の音、鳥の鳴き声、風の音、子どもの声など。現場音があると没入感がアップするように思います。音楽のボリュームはとくに下げる必要もなく、微かに聞こえる感じで十分です。意識しなくても、映像とリンクしている音は心地よく感じるので、すっと入ってきます。 
あとは、とにかく撮ってみることです。たくさん撮って編集していくうちに、撮り方のコツや自分の好み、効率の良い撮り方などがわかってくるので、とにかくたくさん撮って動画に慣れることが第一です!


松田 幸寛

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