Road to 24fps !! 第11回 動画三脚のススメ 〜動画の三脚は高いけど、理由がある。〜
〜写真カメラマンから動画カメラマンを目指す〜
みなさんこんにちは。
Road to 24fps!! 第11回は、カメラワークシリーズ第3弾!動画の三脚についてです。
動画用三脚は、最も基本的な機材で最も重要な機材です。
写真撮影においての三脚は、カメラを任意の角度で固定するという補助的な意味合いが強く、高性能な手ぶれ補正やカメラの高感度化によって昨今では出番が少なくなってきている様に思います。
しかし動画ではそこに「カメラワーク」の要素が入ってきます。それはつまり、補助的な機材ではなく、主要なカメラの一部と捉えて扱わないといけないということでもあります。三脚の形状や雲台部分の構造も写真と動画では全く違うものになりますので、適当に選んでしまっては、撮影のクオリティにも影響します。
当回では、そんな三脚を使ったカメラワークや、三脚選びやセッティング方法についてご紹介していきたいと思います。
写真用三脚と動画用三脚の違い
では、これら2種類の三脚の違いを各パーツ毎にご説明します。
雲台
写真用と動画用三脚の最大の違いが表れているのが、この雲台部分です。
固定できれば良い写真用は単純なパン・チルト・ロールが調整可能な3way構造が基本です。物撮り用のギア雲台などもありますが、全て撮影前の角度調整が目的の構造となっています。
対して動画用雲台は、上にカメラを乗せて録画しながら動かすことが前提のため、雲台内部がスムーズに可動する為に必要な様々な機構が組み込まれています。
※ちなみにこの内部構造に関しては、各メーカーによって全て違うため、詳しい説明は割愛致します。
可動領域は、ロールがないパンとチルトのみで、角度調節可能なパン棒と呼ばれる持ち手を掴んで操作を行います。
ある程度の価格以上の製品は、雲台底部が半球型の構造になっていて、その底部に付いているネジを緩めることで雲台の水平を瞬時に調節可能な、「ボール雲台」という種類の機構が採用されているものもあります。プロ用三脚はほぼ全てこのボール雲台です。ボール雲台には水平確認用のレベラーが標準搭載されています。
また、カメラワークをスムーズに行うために欠かせない機能が、「カウンターバランス」です。これは、カメラを乗せて雲台をチルト方向に倒していく時に、反発するように組み込まれたバネの様な機構で、これによってゆっくりカメラを前後に倒す動きをしても反発の力が補助してくれるので安定したスピードで動かし続けることができます。
トルク(ドラッグ)と呼ばれるパンとチルトの粘り機能もあり、これはハイクラスな雲台には段階調節機能が付いています。カメラを動かす時の粘り具合の強弱を設定できるので、素早く動かす場合は弱く、ゆっくり精密な動きの場合は強く設定します。
三脚
三脚部分も構造が異なります。
写真用は機動力と軽量化が重要なため、太い1本の足のパイプの中に数段分のパイプを格納していて、それが連なって各足を延ばします。対して動画用は、根本部分から2本のパイプを延ばし、その間にもう1本のパイプを配置して、2本ずつで延ばしていくツインパイプ機構が主流です。これは雲台部分を動かす時に、脚部にかかる捻れの力に強い構造となっています。動画では雲台の精密な動きが重要なため、この捻れによって三脚が動くことを最小限にするためにこの様な構造が採用されることが多いです。
三脚部にはハイハット、ベビー、ビッグのような、大きさの違う種類のものがあり、必要な高さを得る為に三脚部分を交換するという作業が発生します。これは特にワンマンオペレートではなく、アシスタントのサポートが必要な大きめのカメラを扱う撮影の場合に行われます。
スプレッダー
スプレッダーは動画三脚特有のパーツで、足同士を繋いでいる三叉のパーツのことです。足を開けばこのスプレッダーのサイズにピタッと開くようになっています。中途半端に開いてしまうと、雲台を動かす時の安定性が悪くなるためです。また、動画の脚部は、写真の様に開いたところで止まるロック機構などは付いていません。なので、このスプレッダーがないと開きっぱなしになってしまいます。足の中間部分に着くのが「ミッドスプレッダー」、地面に設置する位置にあるのが「グランドスプレッダー」と言い、前者は足場の悪い屋外向き、後者はスタジオなどのある程度地面が整備された場所での使用が前提ですが、安定性は抜群です。現場の状況に合わせてスプレッダーを付け替えます。
正確なワークは三脚選びから
美しいカメラワークを行う為には、正しい三脚選びは必須です。とはいえ、動画用三脚の種類はとても多く、品質もピンからキリまで様々です。高いものは雲台だけで数百万なんてものもあります。
自分の撮影内容に合った三脚選びができるように、ここではいくつか選び方のポイントをご紹介します。まず各製品のスペック表を見比べてみましょう。
耐荷重
雲台や三脚部には、それぞれ耐荷重があります。特に雲台部分の耐荷重はかなり重要です。この耐荷重の範囲に収まるカメラが搭載可能になります。範囲を超える重さを載せると、雲台の動きがぎこちなくなったり、最悪転倒の恐れなども出てきますので、事前に自分のセッティングにあった荷重の三脚を選ぶ必要があります。
耐荷重の調べ方ですが、まず載せるカメラ全体の重さを調べましょう。カメラ本体とレンズ、モニターなどを組んだ状態で測りなどで測れれば理想です。私の場合は、トラベル用の吊り下げタイプの計測器(5千円くらい)を使っています。小さいのでいつも機材バッグに入れています。
手元に無ければ商品のWebサイトなどに書いてある重量を足して、ざっくり計算するのでも大丈夫です。ご自分の持っているシステムで、一番重い状態と一番軽い状態の重量を出します。
次にWebなどに掲載されている雲台の耐荷重を調べます。耐荷重には最大と最小の積載重量があり、機材がその範囲に収まる雲台を選びます。
4kg未満の軽量なカメラなら、そこまで神経質にならなくてもある程度はどの三脚でも対応可能ですが、5kgを超える重量が大きいカメラになってくると、少ししっかりと重量を把握しておくことが必要になってきます。
材質
三脚部分の素材は、主にアルミとカーボンタイプがあります。アルミは安価ですが、カーボンよりも重いです。その重さを利用して、スタジオワークでは安定性を確保することができます。逆にカーボンは、軽量で耐候性も高く丈夫なので屋内から屋外まで幅広く利用することができます。難点は、アルミより値が張るということです。この辺りは、予算との相談になってくるかと思いますので、どちらを選択しても問題ないと思います。
価格
一番みなさんが気になるところだとは思いますが、ちゃんとした動画用三脚は残念ながら写真用三脚に比べて高額です。ただ写真と同様、すぐ壊れたりするものでもないので、一度良いものを買ってしまえばある程度長く使えるということもあります。とはいえ、どのくらいの価格のものが最適なのか初めは判断つきづらいと思います。
そこでざっくりとですが、私が市場調査した価格帯ごとの性能差をご紹介します。
数千円〜2万円
→2kgくらいまでの軽いカメラ用。雲台は基本一体型。雲台の動きの精密性は期待できない。
2〜5万円
→5kg位までの耐荷重。雲台はスムーズに動く。カウンターバランスがあるものと無いものがある。
5〜15万円
→5kg以上の耐荷重のものも出てくる。ビデオ雲台の機能としては一通り揃っている。材質がアルミのものが多いので、全体重量が少し重かったりする。
20万円〜
→動作安定性や堅牢性、精密性が高くなる。付いている細かな機能の違いで価格が変動する。
100万円〜
→シネマクラスの標準価格帯。10kgを超える大型のカメラはこのクラス以上のものを使用します。
私の偏見も多少入っているかもしれませんが、総じてこの様な感じではないかと思います。初めて動画用三脚を購入される方は、2〜5万円くらいのものでも割と品質がいいものがありますので、その辺りから始めてみても良いと思います。
※もちろんいきなり高額なものから入っても全く問題ありません。
次のステップ
ある程度使用に慣れてきたら、次は細かい機能にもこだわってみましょう。
雲台のトルクやカウンターバランスをかける方式が、無段階のものや、ギア式の段数を区切ったタイプのものなどがあります。また三脚部分も、上のロックを外せば下の足が一気に延びるスピードロックタイプのものがワンオペにはおすすめです。
それ以外のベーシックな機能の違いもかなり重要です。
雲台の耐荷重が大きいものは単純に金額も上がりますが、高額なものの特徴として、堅牢性、カウンターバランスの精度、対応する三脚ワークのスピードなどが挙げられます。堅牢性は、三脚自体の頑丈さもありますが、気温差が激しい場所に持ち出しても同じ様に動作してくれるか、というポイントもあります。カウンターバランスの精度は、ミラーレスより大きいシネマカメラや大型のレンズを装着した場合でも、任意の場所でピタッと静止してくれるかどうかに関わってきます。この精度が高ければ高いほど、より精密なカメラワークが可能になります。対応する三脚ワークのスピードというのは、素早く、もしくは非常にゆっくりと三脚ワークを行う場合に、写りに違和感無く動作してくれるかどうかということです。トルク調節がついているものは、トルク(粘り)をかけた状態での動作もよく確認したいところです。
この辺りは自分で違いを実感できないと正しく使いこなすことができないので、自分の持っている三脚よりも上の価格帯のものと比較するとわかりやすいと思います。比較の際は必ずカメラを載せて写りを確認しましょう。
その他、撮影の効率を上げてくれる便利な機能が種類毎に色々用意されています。できれば店頭で直接触って使い心地をしっかりと確かめて、吟味して購入していただければと思います。
動画用三脚でできるワーク
三脚で行うカメラワークは、動画の基本中の基本の動きです。
できるワークは、固定、パン、チルトのみです。
下の作例をご覧ください。今回は、三脚と雲台のセットで3万円程度で買える、耐荷重4kg程度のものを使用しています。カメラはレンズ付きで2kg弱の特に何もつけていない状態のミラーレスカメラで撮影しました。
パン・チルトの動きは、動き出しと動作終わりをよく見てください。少しゆっくり動き出してゆっくりと止まる、という動きをしていると思います。こうすることで、視聴者も動きに違和感を感じづらい映像になっています。
いやいや流石にこれは簡単でしょ!と思ったそこのあなた!この基本の動きがとても重要なのです。カメラワークの基本動作として、「動き出し」「動作終わり」はものすごく神経を使います。理由は簡単で、「動画のREC中は全てが素材になり得る」からです。動き出し・動作終わりがぎこちない動きをすると、その部分は素材として使えなくなってしまいます。
もし動画用三脚をお持ちでしたら、85mm以上の望遠気味の画角で試してみましょう。綺麗に動き出してスッと止める、という簡単な動作ですが、違和感なく行うのはなかなか難しいことがご理解いただけると思います。
これは三脚やレール・クレーンなどの直線的な動きをするものに共通することです。動きの練習と共に、どの様なワークが美しいのか、どのくらいの速度が良いのかなど、見る目を鍛えることも重要です。色々な映像作品を見て、好きなカメラワークを研究していただければと思います。
三脚のセッティング方法
撮影前 (バランスのセット)
- 三脚を立てる。
- ボール部分のネジを緩めて水平を取る。
- カメラを載せて、前後のバランスを取る。
※以下、カウンターバランスやトルク調節機能の付いた三脚の場合 - カメラの重さに合わせてチルトの反発負荷をかける。
カメラと負荷が釣り合って途中で止まるまで負荷をかける。 - パン・チルトのトルク(粘り)を加える。この時、特別な理由が無ければパンとチルトのトルクは同じ数値(負荷)に設定します。
数値が違うと、斜めに動かした時(パンとチルトを同時に行う時)に動きがカクつきやすくなります。 - カメラを傾けてもピタッと止まるかを確認。
カウンターバランスとトルクがきっちり設定できると、指一本で動かしてもとても滑らかに動作し、手を離してもスッと違和感なく静止します。
撮影中 (画角のセット)
- 画角を目視でアタリをつける。
- アタリの高さに三脚の高さを調整。
- ボール部分のネジを緩めて雲台の水平を取る。
三脚の置き方・立ち方
写真用カメラは、ファインダーがカメラの背面にある関係から、後ろ側に立ちやすいように三脚の足を設置しますが、動画用カメラのファインダーは、基本的には左側にあるため、三脚の横に立てるように足を設置します。
余談ですが、大型のシネマカメラの場合、アシスタントはカメラマンの反対側(カメラの右側)に立ってサポートするため、この三脚の置き方はアシスタントも立ちやすくなります。また、カメラのメインのボタン配置も、アシスタント側で操作しやすいように設計されています。
片付け
- カメラを外す。
- 三脚の高さを下げる。
- ボール部分のネジを緩めて雲台の水平を撮る。
- カウンターバランスを最も強く、トルクを最も弱くする。パン・チルトの固定ネジはやんわりと締めておく。
※こちらのやり方は、現場の声といくつかのWebサイトの情報を総合した結果の私個人が普段行っている収納方法です。
人によってはやり方が違う人もいますので、この辺りはご自分の判断で行ってください。 - 三脚を閉じてバッグに収納する。(バッグにはヘッドの向きが決まっているものがあります。)
小話 ボール雲台の5秒ルール
撮影部のルールとしてまことしやかに囁かれているのが、「ボール雲台のセッティングは5秒以内に!」という話があります。これは撮影をサポートするアシスタントに対してよく言われるのですが、ボール雲台の水平を取るのにもたついて、三脚の設置が完了せずなかなか撮影が進まないということを危惧して言われるようになったのだと思います。
※水平を取っている間はカメラ操作ができず、ファインダーも覗けないため。
慣れると3秒でもできるようになるのですが、カメラが重くなったり(20kg近くの時もあります)雲台の癖があったりもするので、案外初めは5秒で設置するのも難しかったりします。現場のスピードアップのためにも、ボール雲台を手にしたら、是非この5秒ルールにチャレンジしてみてください!
次回はカメラワークシリーズ第4弾。使いこなせばあなたもシネマトグラファー!特機についてです。
北下 弘市郎(KOICHIRO KITASHITA)
映像・写真カメラマン・撮影技術コーディネーター
1986年 大阪生まれ。大学では彫刻を学び、写真スタジオのアシスタントを経て独立。
2020年 株式会社Magic Arms 設立。
音楽・広告・ファッション・アートなどを中心に、ムービー・スチル撮影を行う。
撮影現場の技術コーディネートや機材オペレーターなど、撮影現場に関する様々な相談に対応する。
古巣の株式会社 六本木スタジオにて、映像撮影の講師にも従事。