Road to 24fps !! 第10回 手持ち撮影と手ブレ補正・リグの話 〜ブレの乗りこなし方を考える〜
〜写真カメラマンから動画カメラマンを目指す〜
みなさんこんにちは。
Road to 24fps!! 第10回は、カメラワークシリーズ第2弾!手持ち撮影と手ブレ補正とリグについてです。基本のカメラワークを知ったら、カメラを持ち出して一番手軽に撮影できる「手持ち撮影」をやってみましょう。
カメラさえあれば誰でもどこでも撮れてしまうからと言って、侮ってはいけません。ちゃんと撮るには手持ち撮影の「できること」と「気を付けること」を押さえておく必要があります。それらを理解した上でカメラを握れば、手持ち撮影の楽しさや難しさが見えてくると思います。
手持ち撮影の醍醐味
手持ち撮影の醍醐味は、カメラがあればすぐ撮れる手軽さ!、、、ではありません。それは「息遣いを表現できること」です。
「息遣い」と一言で言っても、そこには様々な感情があります。喜び、怒り、悲しみ、緊張感、浮遊感、などなど、人の吐く息のリズムから感じ取れる感情はたくさんあります。これを動画でどう表現するのでしょうか?
それは画面の揺れ、つまり「手ブレ」です。手でカメラを持つ、もしくは肩に担いだり体に装着したりして、人の体の揺れが画面に反映された動画には息遣いが宿ります。と言っても、揺れていれば表現できているわけではありません。その揺れを的確にコントロールすることが大事です。激しい怒りを表現したいからと激しく画面を揺らしても、観る側にとってはただ見にくく辛いだけの映像になってしまうこともあります。
実際にフォトグラファーで動画撮影を始めたばかりの方に多いのが、写真感覚で手持ち撮影をしたら、手ブレが酷くて使えるカットが少なかったという話を耳にします。これはある意味仕方ない話で、ファインダーを覗く自分の息遣いの中で、チャンスが来たらすかさずシャッターを切る、というフォトグラファー特有のリズムがあると思いますが、動画ではREC中は映っている全てが1カットに収まってしまうため、その撮影のリズム感が動画と写真では違ってくるのです。
動画の手ブレについて
ここでご理解いただきたいのが、手ブレは「起こる」ものではなく、制御して意図的に「起こす」ということです。つまり、意図した表現になるように、カメラの揺れをコントロールするのです。
そこでポイントになってくるのが、撮影時の「呼吸」です。私の個人的な感覚で言うと、鼻から息を吸ってカメラに振動が伝わらないようにゆっくりと息を吐きながら(場合によっては息を止めて)構え、必要な量の揺れをコントロールする、という感じです。もちろん、その状態で被写体は画面内に捉え続けなければなりません。これは、特に望遠側になればなるほど難易度が上がります。
揺れを巧みにコントロールできるとどの様な結果になるのか、わかりやすい例をご紹介します。2019年に公開された「JOKER」という有名な映画があります。この映画は、どこにでもいる一般人のタクシードライバーであった主人公が、狂気の犯罪者JOKERへと徐々に変貌していく様が描かれていますが、その主人公の狂気具合に合わせて、徐々に画面の揺れが増していくという撮影手法が使われています。序盤は寄り目のレンズで落ち着いた画面構成で、特に母親の入浴を手伝っているシーンなどは、母への愛情が伝わる様な優しい手ブレ感が感じられます。しかし、映画後半になるにつれて徐々に広角レンズでの手持ち撮影が目立ち、主人公が部屋で1人でいるシーンでは、感情に連動する様に大きくカメラが動く様になります。まるで主人公の息遣いで画面が揺れいているように錯覚する様な、素晴らしい手ブレ技術がふんだんに盛り込まれています。
また、アクション映画の「タイラーレイク」シリーズは、監督自らカメラを握り、アクションシーンの多くはカメラを両手で持ってブンブン振り回すように撮影されています。このスタイルが、臨場感と緊張感溢れる戦闘シーンを観客に観せてくれます。
この様に、揺れをうまくコントロールできれば表現の幅が大きく広がりますが、思い通りに揺れをコントロールする為には練習も必要ですし、重いカメラを手持ちでキープし続けることは相応のフィジカルも求められます。それらを踏まえて、自分に合った機材選びをしていただければと思います。
しかし、手持ち撮影ばかりが撮影ではもちろんありません。ブレを抑えた滑らかな映像も、映像表現には欠かせません。そこで次に考えるべきポイントは、カメラの振動を抑える方法です。
ブレを抑える方法
カメラのブレ(振動)を抑えることは、カメラマンの腕前だけでは叶いません。ブレの種類や、撮影内容によっても防振の方法は変わりますので、幾つかご紹介します。
カメラやレンズの手ブレ補正を使う
ボディ内手ブレ補正付きのカメラや、手ブレ補正内蔵のレンズを使用することで、撮影時の細かな振動を抑えることができます。ただし、あくまで手持ち程度のブレにしか効果はなく、大きく動く揺れや、車などの速い振動には効果があまりありません。ちなみに、GoProのようなアクションカムの手ブレ補正は別格です。乗り物に装着したり手で持って走ってもかなりの補正効果が得られます。(もちろん、これはアクションカムならではの特徴ですが)
もしお持ちのカメラにこの機能がついているなら、是非ON/OFFを切り替えながら撮影して、どのくらいの効果があるか確かめてみましょう。
ジンバルなどの防振装置を使う
電動のブラシレスモーターを使ったジンバルは、モーターが揺れを吸収してカメラを常に水平に保つように補正してくれるので、移動を伴う撮影には特に有効です。弱点はモーターの軸数分の補正しかできないので、一般的な3軸ジンバルでは走った時などの激しい上下の揺れは多少拾ってしまいます。対策としては、上下動が出にくい忍足のような歩き方(所謂ジンバル歩き)や、縦揺れを抑えるアームを追加するなどの工夫が必要です。ジンバルを使用すると、独特の浮遊感が出て面白く、ブレも抑えられた見やすい映像が撮影できます。ただ、うまく制御しないと機械的な不自然な動きもするので、滑らかな映像を撮るには多少の訓練が必要です。
ジンバルと組み合わせても使える機材として、EasyRigというベスト型の機材や、Tilta Floatシステムというアームで支えるものもあります。頭上から吊り下げたり、バネ式のアームでカメラをサポートするため、長時間の保持や移動撮影がしやすくなります。
編集ソフト(後処理)を使う
編集ソフトにはブレ軽減機能が入っているものも多く、揺れ具合も後から調整できることがメリットです。デメリットは、ブレが大きいとその分画面がクロップされてしまうので、画質低下に繋がる可能性があることです。
ここで少し、ブレの種類についてお話しします。上記のように、細かなブレ、大きいブレ、の他にジェロと呼ばれる画面が歪む現象があります。これは、カメラを車に装着したり、ドローンのようなモーター振動を拾うような場面で発生します。原因はCMOSセンサーの読み出し速度より振動のスピードが早いため画面が歪んでしまうもので、ローリングシャッター現象と似ています。カメラによりますが、センサーの読み出しスピードが遅い機種はジェロが大きく出やすくなります。これに関しては、カメラのメタデータに格納された補正情報を正しく読み出して補正してくれるソフトでないと、綺麗に取ることはできません。(補正情報も機種やメーカーによって違います)
余談ですが、私はSONY製カメラをよく使うのですが、経験上SONYのジャイロ補正情報はかなり精密で、純正アプリであるCatalystBrowseを使用すると、このジェロもかなりの範囲で取り去ることができました。もちろん、取りきれないブレの種類もあるので、車載撮影や特殊な振動を伴う撮影に関しては事前にソフトとの連携も確認しておきましょう。
リグについて
カメラの防振方法についてお話してきましたが、ここで話を手持ち撮影に戻します。
先ほどは手持ちでブレを抑えるためには、撮影者の技術が必要という話でしたが、カメラ自体の形を保持しやすいように変化させる、という考え方もあります。カメラは形も様々で、必ずしも手持ち撮影をしやすいように作られているわけではありません。そこでそのカメラを保持し易くするためのサポートアイテムが「リグ」です。
リグはカメラサポート用オプションの総称で、種類がとても多くカメラを保持しやすくするだけでなく、様々なオプションをカメラに増設したり、取り回しを楽にしたりと、その役割は多岐に渡ります。またリグは、ハイエンドカメラを除き、純正で出しているところは少なく、リグ専門メーカーのものを購入して自分でカスタマイズする形になります。なので、車のようにカスタムが好きな方には沼のようにハマりやすいものですが、そういうのがあまり得意でない方もいらっしゃると思います。ここでは標準的なリグをご紹介しますので、必要そうな物だけを取り付けて少しでも撮影が快適になる一助にしていただければと思います。
リグの種類
ここでは、リグの代表的なものをいくつかご紹介します。
カメラケージ
ネジ穴やコールドシューなど、カメラにオプショナルパーツを取り付け易くするためのパーツ。カメラを覆うように付けるため、カメラ自身を傷やスレから守ることもできますし、グリップもしやすくなります。
ちょっと小話 動画は2点留め
私が動画撮影をする場合は必ずこのケージを付けるのですが、最大の理由が三脚用プレートのネジの2点留めができることです。動画ではカメラ周りに様々なオプションパーツを付けることが多く、特にカメラ下の三脚プレートのネジにかかる荷重が大きく、ずれ易くなります。なので動画撮影現場の暗黙の了解として、カメラプレートネジは2点留めが推奨されています。
特にミラーレスなどのスチル系カメラの底部には、1/4サイズの小ネジ穴が大抵1つしか空いていません。これでは外部モニターなどを取り付けた時の荷重増加に対して、長いスライディングプレートを固定するにはあまりにも心許無く感じます。ここでカメラケージを装着すると、ケージ自体は2点以上のポイントでカメラに固定され、ケージの底部には2つ以上のネジ穴が空いているので、2点留めが可能になります。
ケージを装着するとその分の重量は加算されてしまいますが、カメラワークを快適に行うためのフォローフォーカスやハンドルなどのオプションパーツを追加するのにもケージが必要になってきます。動画撮影を本格的に行うなら、まずはカメラケージを購入することを強くお勧めします。
ハンドル
カメラ本体外に増設できる持ち手。カメラ上につけるのがトップハンドル、カメラ横がサイドハンドルなどと呼称されます。
トップハンドルは腰だめに構えたり、腰より下のアングルをサポートします。ハンドルにモニターやアクセサリーを装着することもできますENG系業務用カメラや、中型以上のシネマカメラには標準で採用されていることが多いです。ミラーレスでは、SONY FX3、FX30がトップハンドルを標準装備しています。
サイドハンドルは、カメラのグリップ力を高めて長時間運用に向いています。また、ショルダーリグと組み合わせて、カメラを肩乗せスタイルにすれば、さらに長時間カメラを構え続けることが可能になります。
マジックアーム
周辺アクセサリーを装着するための補助アイテム。三脚や担ぎ仕様での運用に向いた機材です。ネジを緩めると自由に位置を変更でき、ネジを締めるとピタッとその場所でキープしてくれます。1/4、3/8ネジの他、コールドシュー型、NATOレール型、ARRIロゼットなど様々なマウントに対応したものがあります。メーカーによって耐荷重が変わってくるので、重いものを付ける場合は金額が高い大きいものが必要になりますが、大体は7inchくらいまでのモニターは装着できます。
これを付けると結構大掛かりな見栄えになってくるので三脚や担ぎに向いていると書きましたが、モニターを手持ち仕様に付けるなら、アーム部分が端折られた向きを変えるだけに特化したモニターマウントブラケットという小型のアイテムがあるので、そちらの方がコンパクトに装着できます。
完全に余談ですが、私はマジックアームが好きすぎて会社の名前にしていまいました(笑)どの現場でもだいたいこの機材が出てきます。一つ持っていても損は無い便利な機材です。
ロッドサポート・ショルダーリグ
ロッドサポートは、ロッドと呼ばれるパイプを基軸に様々なオプションを取り付けられるようにしたパーツ規格のことです。ショルダーリグはカメラを肩乗せ仕様にしてくれるパーツです。
映画の現場ではほとんどのカメラが、ロッドサポートで運用されています。ロッドサポートをカメラに装着すれば、両手ハンドル、フォローフォーカス、マットボックス、バッテリープレートなどを強固に取り付けることができます。長いロッドにショルダーリグを合わせると、担ぎスタイルになります。担ぎスタイルにすれば、腕だけで保持するより数段ブレが抑え易くなります。
ロッドの太さは15mmと19mmがあり、15mmは小型〜中型カメラ、19mmは大型シネマカメラ級で使用します。
ロッドサポートは運用幅が広く便利ですが、カメラが大型化しやすいのでミラーレスカメラでは小型のメリットが失われます。しかし安定性は抜群で、望遠レンズなどの大型レンズを使う時などは真価を発揮してくれます。
最近はカメラケージがあれば、短いロッドを付けることができるパーツも出ているため、フォローフォーカスやちょっとしたオプションの追加もし易くなりました。ロッドサポートは色々とやりたいことが出てきた、中級者向けのリグになります。
マットボックス
一見するとただのフードに見えますが、フィルターをレンズ前に装着するためのリグです。これを付けると、とたんにシネマカメラっぽくなるから不思議なアイテムですよね。
4”×4” (100×100mm)、4”×5.65”などの角形フィルターを挿入でき、ロッドサポートやクランプ式でレンズに装着することができます。大きなフード部分は、フィルター面への入射光をカットするためです。最近では独自の回転式NDやPLフィルターを装着したり、ねじ込み式の円形フィルターを装着できたりと、様々な大きさ・種類が各メーカーから出ています。
映画の現場では複数のフィルターを重ねてレンズに様々な効果を加えることが多いので、レンズを交換しても全く同じフィルター効果を与えることができるようにマットボックスには複数のフィルターホルダーが内蔵されています。
シネマレンズに限らず、DSLR系レンズでもねじ込み式のフィルターは交換に手間取りますが、クランプ式のマットボックスなら交換が楽に行えます。(予め各レンズにアダプターリングを付けておく必要はあります)フィルターワークには必携アイテムです。
NiSiからもマットボックス+フィルターの豪華なセットが出ています。
フォローフォーカス
DSLR系レンズは付いていませんが、後付けのギアリングを巻き付ければ同様にフォーカス送りを行うことができます。フォローフォーカスにフォーカス位置をマーキングすることができるので、A地点からB地点へのフォーカス送りの再現性を求められるような状況で役に立ちます。また、単焦点レンズはフォーカスリングの回転範囲が広いため、直接手で回したりすると結構大変ですが、ギア比を調整すれば少ない回転域でフォーカスを送ることができます。
ワイヤレスフォローフォーカスは、離れた位置からフォーカスを送ることができるので、カメラの両手持ちやジンバルなどのオペレーションで、カメラマン自身がフォーカスを送りづらい場面でアシスタント(もしくはフォーカスマン)にフォーカス送りを任せることができます。シネマライクな現場に向いた機材になります。
フォーカス送りをサポートするアイテム。ギザギザのついたギア同士を噛み合わせてフォーカスリングを回す機構になっており、手動のものと、電動でワイヤレス方式のものがあります。シネマレンズには予めこのギアが付いています。
小話 リグとわたし
ここまで色々な種類のリグが出てきましたが、まだまだご紹介し足りないものもたくさんあります。正直リグの世界は沼なので、あまりのめり込みすぎると際限なく欲しくなる危険性があります(笑)一つ一つがカメラやレンズに比べて手を出しやすい金額であるということもあり、ついつい余計なものもついでに買ってしまったりもします。私もこの沼の住人になって結構経ちますが、まだまだ収集欲求は絶えません。私の場合は撮影のジャンルがかなり幅広く、現場ごとにアクセサリーや装備を組み替えて最適化する必要があるため、リグはあればあるほど現場がやりやすくなるということもありますが、選択肢が多い分1つの装備を組み上げるのに何時間もずっとリグと格闘している時もあります。(子供の頃からプラモデルとかレゴブロックが大好きだったので、こういったことが苦にはならない特殊な例とお考え下さい。)
初めての方は一気に色々揃えようと思わず、少しずつ増やしていくことをお勧めします。パーツの役割を確認しながら必要そうなものを徐々に買い足していけば、無駄が少なく現場でも役に立つと思います。上記でご紹介したものの、2つか3つくらいあればかなり撮影がやりやすくなります。ぜひご参考にしていただければと思います。
次回は、カメラワークシリーズ第3弾!動画撮影の基本中の基本。三脚についてです。
北下 弘市郎(KOICHIRO KITASHITA)
映像・写真カメラマン・撮影技術コーディネーター
1986年 大阪生まれ。大学では彫刻を学び、写真スタジオのアシスタントを経て独立。
2020年 株式会社Magic Arms 設立。
音楽・広告・ファッション・アートなどを中心に、ムービー・スチル撮影を行う。
撮影現場の技術コーディネートや機材オペレーターなど、撮影現場に関する様々な相談に対応する。
古巣の株式会社 六本木スタジオにて、映像撮影の講師にも従事。