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Road to 24fps !! 第9回 画角とカメラワークの話 〜動画には縦位置はないけどカメラワークがある!〜

〜写真カメラマンから動画カメラマンを目指す〜

Road to 24fps !! 第9回 画角とカメラワークの話 〜動画には縦位置はないけどカメラワークがある!〜

目次

みなさんこんにちは。Road to 24fps!! 第9回は、カメラワークシリーズ第1弾! 画角とカメラワークについてです。
フォトグラファーが、動画を撮る時に戸惑いがちなポイントの一つに、カメラワークがあります。(以下よりワークと略します)1カットの中に、カメラの動きが入ること自体が動画特有の考え方のため、フォトグラファーにとっては未知の領域になるのかもしれません。
カメラワークは仕組みを知らずに適当にやっても、上手く効果が引き出せずカットの魅力が半減してしまったり、意図が伝わりにくい映像になってしまう事もあります。正しく使えばシーンの説得力が何倍にも上がったり、様々な撮り手側の意図を反映させる事ができたり、編集と併せて更に美しく昇華させることもできる強力な武器になります。つまり、ワークは動画撮影の醍醐味であり、その分奥深い世界でもあります。
今回から数回に分けて、ワークに関わる情報を機材も交えてお伝えしていきます。今回はワークの基本的な考え方や、効果や種類などをご紹介しながら、動画撮影の醍醐味を知っていただければと思います。

カメラワークの役割

カメラワークの種類

フィックス(固定)

三脚などでカメラを固定して行うワーク。画面が固定されているので、視聴者の視線を動くものに集中させやすく、また画面の隅々まで見渡せるので、被写体以外の情報も読み取らせることができます。落ち着いた画面なので、状況説明をしたり、場面を俯瞰的に見せたりすることに向いています。無理にカメラを動かさなくても、いくつかの方向から撮影したフィックス動画を繋ぐだけでも映像に動きを出すことができます。

フィックス

パン(パンニング)

最もシンプルな基本ワークの一つで、三脚などでカメラを軸に左右にカメラを振るワークのこと。左から右を右パン、その反対を左パンなどと言います。
これ以降の、カメラを動かすワーク全般に言えることですが、動かない被写体でも画角(カメラ)が動くことで画面に時間の流れができます。被写体の魅力をゆっくりと見せたり、主観的な視線の左右移動を表現することもできます。画角に収まり切らない広い景色を映し出せるので、情景や複数の登場人物の位置関係を丁寧に説明できます。
また、横切る被写体を追従したり、画面外の被写体をカットの途中から画面に写し込んで登場させたり、その逆を行うことで主題が際立ちます。わかりやすい例として、ホラー映画でよくある振り向くとお化けがいた!みたいな感じです。

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チルト(ティルト)

横方向のパンに対して、縦方向の動きがチルトです。パンと同じくカメラを軸に、上下方向に首を振る動きです。上に向かう動きがチルトアップ、下がチルトダウンと呼びます。「チルト」と言いにくいからか、縦パン・パンアップ・パンダウンなどと言ったりもします。
動きとしてはパンの縦バージョンなのですが、より心理的表現に向いたワークになります。左右の動きは景色を見渡したり状況把握という意味合いが強いですが、上下の首の動きはとても心情的な表現が可能です。
上方向への動きは状況が好転していきそうな希望感を出したり、天井や広い空を見上げる時の「今後どうなっていくのだろうか、、、」という漠然とした感情表現にも有効です。逆に下方向は、気分の落ち込みをわかりやすく表現できます。
高い建物を広角で下から上にチルトアップしていくと、その巨大さを演出したり、威圧感も表現できます。TV番組的な動きでは、空からチルトダウンして「はい!ということで、今日は〇〇にやってまいりました!」というような場面切り替えにも使われますよね。

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ズーム(ズームイン・ズームアウト)

ズーム可能なレンズを用いて、録画中に焦点距離を変えて画角を変化させるワーク。
望遠側に動かすズームインでは、画面内の特定の箇所(被写体)に意図的に視線を誘導することができます。逆のズームアウトでは、徐々に画角が広くなり周りの状況が映り込んでいくため、俯瞰的に状況を見せることができます。素早いズームワークは、状況の急激な変化を表現する時などに有効です。
ズームレンズはスチルにもありますので、抵抗は少ないと思いますが、大きく違うところは動画用のズームレンズでないと綺麗なズームワークが難しいというところです。スチル用のレンズでは、ズーム中の動作まで想定して作られていないので、動かす時にモタついたり、一定のスピードで動作させ続けることは難しいと思います。子供の運動会などを撮影する時の、ハンディカムを扱ったことがある方はその違いが判りやすいと思います。ハンディカムのようなレンズ一体型のカメラ以外では、シネマレンズにズームレンズがあり、これを用いればとてもスムーズなズームワークが可能です。スムーズなズームワークというのは、動き出しと動作終わりを違和感なく行うことです。ソニーやキャノン製のレンズにはパワーズームという電動ズーム機能が備わったものもあります。

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トラック(トラッキングショット)

移動する被写体を撮影する際に、カメラが一定距離をキープして追従して撮影を行うことをトラック(トラッキングショット)と言います。被写体を後ろから追従することを「追っかけ」、正面からカメラが後ろ向きに捉え続けることを「引っ張り」と言ったりもします。
カメラの手持ちやジンバル、レールやクレーンなどの特機を用いて撮影を行います。最近ではドローンによるトラックワークもかなり多用されるようになりました。
被写体を捉え続けながら背景が変化していくので、臨場感が増し、リアルタイムでのストーリー進行を体感させることができます。動きの速い被写体のトラックは、より迫力が強調されます。
トラックの極端な例だと、ワンカット撮影と呼ばれる、途中でカットを割らずに(割ってないように見せる)長い1カットで被写体を追い続ける手法で、目まぐるしく変化し続ける状況を視聴者に見せ続けることで、まるでそこに自分がいるかのような感覚を味わわせてくれます。
最近では「1917 命をかけた伝令」という映画がこの手法で撮影されていて、話題になりました。

私も何度か撮影で短い1カット撮影をやったことがありますが、カットが長ければ長いほど、関わっているスタッフ全員にかかるプレッシャーが大きくなり、現場の緊張感と重圧がものすごかったです。でも、OKが出た時の達成感と、仕上がりの満足感は他に類を見ないものでした。

トラック

ドリー イン/アウト

被写体に対して、カメラ自体が寄っていくのがドリーイン、遠ざかっていくのがドリーアウトです。ドリーとはカメラを載せて撮影する移動車のことで、ドリーを使って行うワークはドリーワークと呼ばれます。(ドリーを使わなくても、ワーク自体の名称として使われています)
撮れる映像はズームワークと似ていますが、決定的な違いは画面の立体感の変化です。カメラと被写体の距離が変化せず、焦点距離のみで被写体への寄り引きを行うズームワークでは、背景の圧縮効果などはありますが、被写体の見た目はほぼ変化しません。対して、物理的にカメラが自体が動いていくドリーワークでは、画面全体の被写体の見た目が少なからず変化しながら画面が動いていきますので、人の目の情報に近いよりリアルな状況説明・表現が可能です。
このワークでは、望遠レンズより広角側のレンズでより効果が実感できます。「運動視差」による立体的な効果が付与されるためです。これについては特機の回で詳しくご説明致します。
また、ズームワークとドリーイン/アウトを組み合わせた、「ドリーズーム」というワークもあります。使い所は結構限られますが、被写体のサイズが一定で背景のサイズだけが変化するという面白い効果が得られます。実際はドリーワークをしながらズームワークをスピードを合わせて同時に行わないといけないので、結構難易度が高いワークなのですが、高解像度で撮影しておいてズームは編集上で行うというのでも同様の効果が得られます。ご興味ある方は是非調べてみてください。

私も何度か撮影で短い1カット撮影をやったことがありますが、カットが長ければ長いほど、関わっているスタッフ全員にかかるプレッシャーが大きくなり、現場の緊張感と重圧がものすごかったです。でも、OKが出た時の達成感と、仕上がりの満足感は他に類を見ないものでした。

オービットフォロー(サークルショット)

被写体を中心に捉えながら、周りをぐるぐる回り込むワーク。
中心にいる被写体は、周囲の背景から隔絶させるような効果が出るため、何かに集中・没頭している様なシーンで効果を発揮します。アクション映画での1対1で向き合ったシーンで迫力を出す時に使われることが多いですが、演者が1人で考えを巡らせている様や思考停止しているようなシーンでこのワークを行うと、画面は動いているのに、逆に時間が止まったりゆっくり流れているような表現ができます。
本来は円形レールのような機材を使って、被写体との距離を一定に保って動くことで効果が出やすいのですが、高性能な電動ジンバルが手に入りやすくなって、大掛かりな機材を用いなくても撮影できるようになってきたため、最近急激に普及してきたカメラワークでもあります。手持ちでやってみても良いのですが、画角に被写体を捉え続けながら回り込むのは中々難しく、手ぶれがひどいと臨場感が損なわれます。
ジンバルでも、被写体と距離を保ちながら綺麗に回り込むのは割と練習が必要ですが、できるようになるとスキルが上がった実感が大きいワークでもあります。ジンバルをお持ちでしたら、是非トライしてみてください。

オービットフォロー

そして最後に、ワークを行う時のとても大事な約束があります。それは、ワークを行う前後はたっぷり5秒以上の静止時間を設けることです。(場合によってはもっと)これは主に編集のための話ですが、RECボタンを押した直後にワークを始めてしまうと、カットの繋ぎ目に遊びが無くなってしまい、トランジションなどの効果を入れることができなくなったり、カメラの微振動が残っている状態でワークが始まってしまって、そのカットが使えなかったりします。これは動画撮影初心者で結構やりがちな行為です。なので、カメラワークを行う前後は数秒の静止時間を必ず意識して設けるようにしましょう。

小話 ワークに苦手意識がある方へ

ここまでいくつかワークをご紹介してきましたが、慣れないワークという概念に苦手意識を持たれる方も少なからずいらっしゃると思います。そんなフォトグラファーの方々にお伝えしたいお話があります。
私が様々な動画の現場を見てきた中でよく耳にした話ですが、フォトグラファーが動画を撮るとカット毎の構図がとても綺麗!と言われることがあります。動画でも構図はきっちり考えて撮るものですが、写真はワークが無い分、構図構成をより精密に行っているということがあるからではないでしょうか。(動画カメラマンの構図が悪いということでは全くありません。フォトグラファー目線の違った美しい構図があるということです。)なので、ワークに苦手意識がある方も、怖がらずにまずは三脚でも手持ちでも良いので、構図を決めたらゆっくりと上下左右に画面を動かすところから始めてみましょう。それだけで素材を繋いでみても、かなり表現の幅が広がります。
ただ、綺麗なワークをするには練習も必要です。構図から外れたところから動き出して、美しい構図でスッと静止する、という単純なワークでも初めはかなり難しいと思います。(良い三脚も必要です)ワークの感覚が掴めてきたら、今度はスライダーやジンバルなどを使って、立体感を感じるワークを試してみてください。きっと今までに無いワークの楽しさが発見できると思いますよ!(使い方はまた別の回でお話しします)
撮った動画の確認は、カメラモニターよりできるだけ大きい画面で確認するようにしましょう。効果の実感が違います。また、カメラワーク自体は練習すれば上達はしますが、どのシーンでどのカメラワークを使うのが適切かなどの判断は、正直編集とセットで考えないとわからないところもあります。一番良いのは、撮影したものを自分で編集して効果を検証するというのが、地道ですが最も効果的な練習方法です。
カメラワークはとても奥が深く経験値も必要ですが、動画撮影の醍醐味でもあるので、是非たくさん練習して一つでも多くワークの引き出しを作っていっていただければと思います。
カメラワークの話はまだまだ続きます。今後は必要な機材もご紹介していきます。次回は、最も手軽にできるカメラワーク「手持ち撮影」についてです。より撮影を快適に行うためのアイテム、カメラリグについても触れていきます。


北下 弘市郎(KOICHIRO KITASHITA)

映像・写真カメラマン・撮影技術コーディネーター
1986年 大阪生まれ。大学では彫刻を学び、写真スタジオのアシスタントを経て独立。
2020年 株式会社Magic Arms 設立。
音楽・広告・ファッション・アートなどを中心に、ムービー・スチル撮影を行う。
撮影現場の技術コーディネートや機材オペレーターなど、撮影現場に関する様々な相談に対応する。
古巣の株式会社 六本木スタジオにて、映像撮影の講師にも従事。

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