Road to 24fps !! 第8回 解像度とアスペクト比 〜映画の縦横比って?〜
〜写真カメラマンから動画カメラマンを目指す〜
みなさんこんにちは。Road to 24fps!! 第8回は、解像度とアスペクト比についてです。
フォトグラファーにとって解像度や縦横比は、基本的にカメラ由来で決まっていて撮影前に設定することは殆どありません。解像度なら、3000万画素のカメラは30Mega pixel、縦横比も35mmフルサイズなら3:2のように、RAW撮影が当たり前のスチル撮影では、データをパソコンに取り込む前に、設定で解像度や縦横比を変更する機会はまず無いのではないでしょうか。
スチル撮影のベースに、カメラの最高性能で撮影をしてから後処理で最適化する、ということがあると思います。(これはあくまで押し並べての話で、大量に撮影するスナップなどは別で、場合によるとは思いますが)もちろん動画でもこのように撮影できた方が仕上がりのクオリティも上げやすく、様々な画質に対応できるのは同じですので、高画質で撮影するに越したことはありません。しかしこれは、1ファイルあたりのデータ量がそこまで大きく無いスチルだから可能なのであって、秒間何十コマも撮影する動画においては、高バジェットの撮影以外ではなかなか難しかったりします。
スチル撮影の現場では、あまり気にかける機会が少なかった解像度と縦横比ですが、動画では撮影前のカメラ設定で予め詰めておかなければなりません。
FullHD、4K、8K、、、など、スチルには馴染みのない用語ですが、動画の画面作りをする上での表現の第一歩でもあります。もちろんスチルとの共通点もたくさんありますので、是非覚えていただければと思います。
解像度
解像度が何を表しているのかについてはご存知かと思いますが、イメージを掴みやすくするために簡単にご説明します。
「解像度」とは、画面1インチ中に画素(=ピクセル)がいくら含まれるかの密度を指す言葉で、数値が高ければ高いほど画像をより高精細に表示することができます。これと近い意味で用いられるのが、カメラのセンサーに配置された受光体(画素)の数を表す「画素数」で、スチルカメラでは、この画素数をカメラスペックに何Megapixel、または何百万画素のように表記してカメラ選びの一つの大きな指標になっています。
詳しくはこちらをご参照ください。
Netflix Freaks
撮影前、まずこの設定を決めなければなりません。と言っても、カメラマンが決めるというよりは、編集者(ディレクターや監督)に決めてもらいます。最終的な編集後の納品データがどれくらいの解像度で、合成やクロップが必要なのかどうかや、編集時のマシンスペックなど、様々な条件から最適な解像度を選びます。
動画の解像度は1920×1080 、3840×2160、7680×4320のように縦横のピクセル数で表記します。また、FullHD、4K、8Kなどのように名前で書かれる事もあり、表記は機材によって違うため、ある程度正しく覚えておく必要があります。
名前にある「K」ですが、これは距離などで用いるk(キロ)と同じで、4000pixel=4kpixelから4Kと呼ばれています。この表記の時は横幅の方を用います。
例) 「4096×2160」は 横約 4000 pixel → 4K と表記
3840は正確には4Kより少ないですが、TVの解像度を表したりする時には約4Kという意味で4K UHD(TV)と表記したり、カメラの設定では他の4Kと区別するために3.8Kと表記したりします。FullHDも同様で、1920が2Kになったりします。
解像度の隣についているUHDは、「Ultra-HighDefinition」の略で、FullHD(1980×1080)解像度の2倍以上「4000×2000」pixelを超える高解像度を指しています。特に16:9の比率を表す時に用いられ、他の比率と区別する時に4K UHD(TV)、8K UHD(TV)などと表記されます。
アスペクト比
画面の縦横比のことです。スチルカメラにも35mm系カメラの3:2、中判カメラのスクエア・4:3・6:4,5・6:7など、フィルム由来の縦横比が色々存在しますし、プリントサイズではA4、B4、L判、ハガキ、六切り、四切り、、、とかなりの種類があります。しかも縦位置もあるので、この多彩な画角を操るには相応の訓練が必要でした、、、。しかし残念なことに、動画はこれらとは違う独自の縦横比で撮影を行うので、一から覚えていくほかありませんが、常用するものは限られているので、代表的なものを中心に覚えていただければと思います。
基本的には解像度のピクセル数と比率はほぼ連動しているので、1920×1080 =16:9 と、覚えてしまえば分かりやすいようになっています。
代表的な解像度とアスペクト比
・FullHD (2K) 、1920×1080 pixel、16:9
FullHD は「Full High Vision Digital」 の略で、現在のTV放送やスマートフォン・Youtubeなどで最も多く採用されている解像度です。横幅が約2000pixelであることから、2Kと表記する場合もあります。
・4K UHD 3840×2160 pixel 16:9
呼び名が色々あり、4K UHDや3.8K、たまにQFHD(Quad fullHD)と表記する事もある。1コマあたりの画素数としては、約800万画素相当になります。
・8K UHD 7680×4320 pixel 16:9
最近少しずつ8K撮影ができるカメラが世に出回ってきました。かなりの高解像度のため、画素数にすると1コマあたり約3300万画素になります。
・その他 6K 6144×3456 pixel (※Blackmagic Pocket Cinema Camera 6Kの場合)
6Kという解像度は、カメラの設定上では存在しますが、出力に対応する6KTVが無いため、あくまで撮影用に選択するための設定値になります。そのため、基準になる解像度がないので、カメラ毎に数値が違います。使用例としては、4K納品のために6Kで撮影して、解像度や画質を稼ぐ為に用います。
参考:総務省
まず覚えていただきたい比率が「16:9」です。これは、TVやスマホ・パソコンモニターなどで最も多く採用されている縦横比です。また、上記のような代表的な解像度とも連動しているので、1920×1080や、3840×2160という数字を見たら、「16:9」!と即答できるくらいが理想です。
初めに覚えるべき数字はこれら3つです。それ以外は、より映像表現を追求していく上で、順に覚えていけば良いと思います。
設定値を選ぶ時のポイント
解像度は最終の出力先(完パケ)に合わせて選択します。例えば完パケが、FullHD(1920×1080)であれば、基本的に撮影時はFullHDで撮影します。合成やクロップのために、より多くの解像度が必要な場合は、4K以上で撮影することもあります。この辺りの判断は、ディレクター(監督)と事前にすり合わせておく必要があります。
解像度とアスペクト比は基本的には連動していますので、解像度を決めてしまえば自動的にアスペクト比も決まります。カメラの設定画面には、そもそもアスペクト比が書かれていない場合もあります。注意すべきは、4Kや6Kなどはいくつかの解像度の総称である場合もあります。3.8Kや4.2Kなど、同じ4Kと呼んでいるものでも縦横比が違うものがあるからです。なんとなく設定してしまうと設定ミスに繋がることもあるので、ディレクターに確認を取る際には、16:9の4K、もしくは3840×2160の4Kのように、アスペクト比と解像度の両方を伝えるようにしましょう。
小話 8Kと人間の目
カメラの解像度は年々上がり続けています。最近ではミラーレスカメラでも8K画質で撮影できるものも増えてきました。どこまで上がり続けるのか気になりますが、対する人間の目の解像度は、5億7600万画素だと言われています。驚異的な能力と思われますが、映像の話だけで言うと海外メディアの分析では視聴画面の解像度は4Kで十分という意見もありますし、でも家電屋さんに置いている8KTVはやっぱり綺麗だなーと思うこともあれば、画面が小さいスマホくらいならFullHD画質でも全く問題無くも感じます。
人の感じ方次第と言ってしまえば元も子もないのですが、映像表現をする側としては、何か指標になるものを据えておきたくなります。調べてみると、映像視聴の代表格であるTVがどのようにサイズや解像度を決めているのかが参考になりそうです。
以下引用: SHARP
テレビを見る時に最適な距離を最適視聴距離※ といい、現在のフルハイビジョンではテレビの高さ×3倍が最適とされています。ところが8Kの場合は、画面が高精細になっていることで、近づいても画素が見えないため、テレビの高さ×0.75倍が最適と言われています。この距離の違いが視野角の違いにあらわれ、フルハイビジョンが視野角30°なのに対し、8Kは視野角が100°になります。人間の視野角は一般に120°といわれていますから。8Kならほぼ視野角全体にテレビ画面がうつることになり、映画館で大画面を見ているような臨場感や没入感を得ることができます。
※最適視聴距離:視力1.0の人が画素の荒さを感じないで視聴できる距離
上記の式を用いれば、画面を見る最適な視聴距離とサイズは割り出すことができます。もちろん映画館のようなで大画面で見る迫力は、音響も相まって圧倒的ではありますが、それよりも小さな画面で迫力のある映像表現をする上でも、距離と画面サイズは重要になってきます。
どの大きさ(デバイス)で視聴者が映像を見るのかということも、カメラの設定を決める時に頭の片隅に置いておいていただければと思います。
アスペクト比と表現
先ほどは最も代表的な16:9をご紹介しましたが、アスペクト比は他にもたくさんあります。映画基準の多彩なアスペクト比の宝庫であるシネマスコープ、通称「シネスコ」も、是非知っていただきたいジャンルです。
これらのアスペクト比は、表現手法として用いることができます。いくつか代表的なものをご紹介します。
・1:1 (インスタグラムなど)
このサイズなら、縦位置横位置の関係がないので、出力先を選ばないという利点があります。
・9:16 (スマートフォンの縦位置、駅などのデジタルサイネージ)
スマホは手持ちだと縦位置の方が見やすいですし、デジタルサイネージは、紙のポスターがモニターに変わったということもあります。逆に16:9の画面に両サイドを黒くして縦位置を表示すると、スマホで撮ったかの様に見えます。
・4:3 (地デジ移行前のブラウン管時代のアスペクト比)
走査線を編集で付け足して、あえてブラウン管風の表現をすることができます。レトロな雰囲気を手軽に出すことができます。
・17:9 (DCI)
Digital Cinema Initiativesの略で、デジタルシネマ規格の標準化を推進する企業団体の名称でもあります。DCIが策定したこのアスペクト比は、映画館で上映する映画の標準的なものになります。17:9は16:9より少し横長なため、TVなどで表示すると上下に黒の帯(レターボックス)が入ります。これだけでも映像が少し映画っぽく見えるようになるから驚きです。17:9の代わりにDCI 4K等と表示される事もあり、カメラ設定でも多く採用されています。
・2.35:1、2.4:1 (シネマスコープ・シネスコ)
1953年に20世紀フォックス社らが策定したアスペクト比。2:1以上の横長の画面サイズのことをまとめてシネスコ、と呼ぶことが多いです。後述のアナモフィックレンズによって撮影される、非常に横長な画面が特徴。元は、TV業界の躍進に対抗するために、より迫力が出ることを目指して開発されました。ミュージックビデオやPVなど、シネマライクな雰囲気を出すために用いられることが多いです。
・1.66:1、1.85:1 (ビスタサイズ・ビスタビジョンサイズ)
パラマウント・ピクチャーズ社がシネスコに対抗して開発したアスペクト比。35mm幅のフィルムを、通常は縦移動のものを横移動に変更し、横長の画面撮影を可能にしました。RED社のカメラなどは、V-RAPTOR 8K VV(ビスタビジョン) の様に、センサーサイズに採用しているものもある。
参考: GIGAZINE
シネマ規格のサイズなどは、映画の投影画面をより大きく高画質にするために各社がしのぎを削って開発した経緯がありますが、デジタル全盛期の現在では映画館以外で映像を見る場合はほとんどが16:9の画面で見ることになります。よって、上記の様な横長の画面を表示するには、上下に黒帯(レターボックス)が入ります。
現在においてのアスペクト比というのは、この16:9の画面内でどのサイズで表示するかということが一つの表現方法になっていると思います。横長の画面になって上下に黒帯が入ると、それだけでもシネマ画面っぽく見えるから不思議ですよね。それぞれの見え方を比べて、表現に合ったアスペクト比を探してみてください。
アナモフィック(anamorphic)レンズ、アナモフィック撮影
シネマスコープ画面をデジタルで作るには、2つの方法があります。1つは16:9などの画面の上下を黒帯で隠して編集すること。もう一つは、アナモフィックレンズ(アナモルフィックレンズ)を用いて、撮影することです。
アナモフィック撮影は簡単にいうと、画面の左右をレンズでぎゅっと縮めて撮影し、編集で元のサイズに戻すことで、限られたフィルム(センサー)の中により広い画面を書き込むことができるレンズのことです。アナモフィックレンズで撮った映像を見ると、縦に長体がかかった様に映ります。
画面の上下をカットして作るシネスコサイズでは、使用しない面積が無駄になってしまいますが、このレンズを使えばセンサーを目一杯使えるので、より高画質なシネスコサイズが撮影可能になります。
少し前までは、アナモフィックレンズは非常に高価な代物でしたが、近年急激に安価なものが開発・販売されるようになり、アナモフィック撮影がとても身近なものになりました。アナモフィックデスクイーズという、映像を元に戻してモニタリングできる機能を持ったカメラやモニターも出てきているので、手軽にシネスコ撮影が行えます。また、アナモフィックレンズで撮影した画面には、特有のボケ感やフレアが発生します。新しい映像表現を求めている方は、是非一度体験してみることをお勧めします。
小話 シネスコで撮って
筆者も、撮影現場ではよく「シネスコで撮って」とオーダーを受けます。シネスコ撮影は、仕上がりもカッコよくなるので撮っていて楽しいのですが、まだ今ほどアナモフィックレンズも手軽でなかった頃は、チェック用のモニターの上下にテープを貼ってシネスコサイズを作ったり、急いでいる時などは少し広めに撮って大体で見当を付けて撮影したり、色々と大変でした。今では、様々なアスペクト比のガイド表示ができる高性能なモニターもありますし、アナモフィックデスクイーズができるカメラなら、アナモフィックレンズでも簡単に撮影ができます。良い時代になりましたねー
次回は、動画には縦位置はないけどワークがある!画角とカメラワークの話です。
北下 弘市郎(KOICHIRO KITASHITA)
映像・写真カメラマン・撮影技術コーディネーター
1986年 大阪生まれ。大学では彫刻を学び、写真スタジオのアシスタントを経て独立。
2020年 株式会社Magic Arms 設立。
音楽・広告・ファッション・アートなどを中心に、ムービー・スチル撮影を行う。
撮影現場の技術コーディネートや機材オペレーターなど、撮影現場に関する様々な相談に対応する。
古巣の株式会社 六本木スタジオにて、映像撮影の講師にも従事。