コンテンツに進む
MAGAZINE

Road to 24fps !! 第7回 データ記録方式 〜なんとなくでは勿体ない!〜

〜写真カメラマンから動画カメラマンを目指す〜

Road to 24fps !! 第7回 データ記録方式 〜なんとなくでは勿体ない!〜

目次

みなさんこんにちは。Road to 24fps!! 第7回は、なんとなく設定していませんか? データの記録方式についてです。
カメラにメディアを入れて電源ONで、撮影前の設定項目をいじる時、フレームレートや解像度を選ぶ同じタイミングで、データ記録の方法も設定しますよね? 例えばSONYだとXAVC SとかI、L 、4:2:2、4:2:0、 10bit、50M、200M、、、など色々書かれていて、よくわからないからなんとなく高画質なものでいいや!と決めてしまっている方も多いのではないでしょうか? 最近は、ミラーレスでも設定項目が色々あって、どれに設定したらよいか分かりづらいこともあると思います。もちろん、高画質に設定するに越したことはないと思いますが、様々な撮影状況に対応するには、ある程度細かく設定を理解しておくことも、バックアップ時間やメディアの節約につながります。
まずは、動画が収録されているデータファイルが、どのような構造になっているのかお話しします。

収録データの構造

皆さんがパソコン上で見ている動画ファイルは、音声と動画のデータが1つのファイルにまとめられたものです。そして、それらは「コーデック」と「コンテナ」の関係によって成り立っています。下図を見ていただくと理解しやすいかと思います。

収録データの構造

コーデック

データを圧縮する技術・方式のことで、音声・動画データにはそれぞれ違ったコーデックが使われます。撮影されたデータは、再生する機器やソフト・目的に応じてサイズを小さく圧縮する必要があります。その圧縮を「エンコード」、再生可能状態に戻すことを「デコード(解凍)」と言い、動画を再生・編集するにはそれぞれに対応したコーデックがインストールされた環境が必要になります。基本的に圧縮率が高いデータは、その分データを間引いているため画質が荒くなりやすいのですが、技術の進歩とともに圧縮率が高くても高画質を維持できる圧縮効率の良いコーデックが開発されてきました。これによって、より多くのデータを小さなメディアに書き込めたり、高画質データの配信ができるようになりました。
圧縮率が高いものはファイルサイズはその分小さいですが、エンコードやデコードにマシンスペックを要するので、パソコンへの負荷も高まります。(再生負荷の大きさは種類によって違いますが)
※「圧縮率が高い→データ量が小さい=再生・編集がしやすい」と勘違いしやすいので注意が必要です。

動画撮影に関係する代表的なコーデック

H.264 (MPEG-4 AVC)

最も汎用性が高いコーデック。画質が高く、パソコンへの再生負荷とのバランスが良いので、カメラ・PCソフト・スマホなど、再生可能なメディアが多い。2003年に誕生してから20年経つが、未だに主流として扱われている。

H.265 (MPEG-H HEVC)

H.264の後継コーデック。H.264よりも2倍圧縮効率が良く、同じ画質でも半分のファイルサイズに収めることができる。圧縮率が高い分、再生時のPCへの負荷はH.264に比べて大きい。8K/300fpsまで対応しており、今後の主流になっていくと思われる。

ProResシリーズ (422 、LT、HQ 等)

Appleが開発した編集用、特に編集ソフトのFinal Cut用に作られたコーデック。現在ではAdobe Premiereをはじめ、その他殆どの編集ソフトで対応している万能型。中間コーデックとも言われるこのコーデックは、データ量はカメラ本体の収録データに比べて大きいが、編集作業を前提としているためパソコンへの負荷が少なく、編集ソフトのタイムラインに載せると、H.264やH.265より動作が軽い。

その他

VP9

AOMedia Video 1(AV1)

Motion JPEG

etc..

コンテナ

対してコンテナはその名の通り容器、つまりデータの入れ物になります。動画・画像・音声・テキストなどのデータをまとめて格納し、1つのデータとしてパソコンなどで読み込めるように、ファイル形式(フォーマット)を決定する役割を果たします。またコンテナは、動画と音声ファイルを一つにまとめる役割の他に、ファイルに機能を持たせることができます。例えば、字幕情報の有無やWindowsやMacへの対応、ストリーミング再生の可否などです。格納できるコーデックもそれぞれ違います。
少しややこしいですが、同じコーデックが入ったデータでも、コンテナ(フォーマット)の種類によって機能が違ったり、同じデータフォーマットでも中身が違うと、対応コーデックが入っていないパソコンでは再生できなかったりもします。

コンテナ名 拡張子 格納可能な動画コ一デック 格納可能な音声コ一デック 特徴
MP4 .mp4 .m4a H.264・H.265・MPEG-4 AAC・MP3 Windows・Apple・スマホなど、様々なブラウザ・デバイスに幅広く対応。 ミラ一レス力メラなどのデ一タもこのフオ一マットが多い。
MOV .mov H.264・MPEG-4・ProRes AAC・MP3 Appleで再生可能な形式。Pro Resもこのフオ一マット。
AVI .avi H.264・MPEG-4・WMV AAC・MP3・リニアPCM・WMA Windowsで再生可能な形式。
MPEG2-TS .ts .m2ts H.264・MPEG-4・MPEG-2 AAC・AC-3・MP3 Blu -rayや地上波デジタル放送などで使用されている形式。
MXF .mxf 多数 多数 様々なコ一デックに対応している他、メタデ一タも格納できる。Canonや SONYのシネマ力メラで収録されたデ一タがこのフオ一マットで収録される ことが多い。

※よく間違えるポイント
MP4 とMPEG-4は別物です。MP4はコンテナのファイルフォーマットの表記であるのに対し、MPEG-4はコーデックを表しています。
これらから、撮影用のコーデック選びのポイントは、データをどの位のクオリティとサイズで納品するか、現場でのデータバックアップのスピードはどの位必要か、などを考慮する必要があるということです。写真ではあまり馴染みが無いように思いますが、画像データもこの「コンテナ」と「コーデック」という関係で成り立っています。

小話:現場のProResの扱い

先ほども出てきた「ProRes」という収録形式ですが、編集に特化したコーデックのためよくディレクターからProRes422HQ形式での撮影を依頼されます。ある程度の長尺映像や、複雑なエフェクトや合成をするにあたって、MP4形式などではマシンスペックを食いすぎる為、このような中間コーデックでの作業は必須となる場合があります。
基本的には、MP4やMXFフォーマットで撮影したデータは、バックアップ後に編集ソフトでProResに変換して編集タイムラインに載せるのですが、私はAtomos製のモニターレコーダーをよく利用していて、これは撮影時のモニタリングと同時にProRes形式に変換してSSDに直接書き込んでくれるという優れもので、特に、撮影翌日からすぐに編集に入らないといけないような、急を要する案件では重宝します。
また、カメラ本体とは別で収録できるため、本体の圧縮データをサブデータとしてバックアップできるところもメリットです。動画撮影に慣れてきた方は、ぜひ一度導入されてみてはいかがでしょうか?

データ記録方式

データファイルの構造がご理解いただけたら、今度はデータ記録方式(カメラの設定)のお話です。記録方式の名称はメーカー毎に違っているので、いくつか代表例で見てみましょう。

fc73d1948c993f0e72455369b56b010d__PID:bdb559c1-3bc5-4d99-b894-14e37ed50188

例)

SONY

XAVC S、XAVC S-I、XAVC HS、XAVC-I など

Canon

Cinema RAW Light、XF-AVC (H.264)、MP4 など
※上記はシネマカメラ限定の表記で、ミラーレスなどでは特に名称なく設定値のみを変更する場合が多い。

BlackmagicDesign

Blackmagic RAW、ProRes 422 など

Nikon

N-RAW 12-bit (NEV)、ProRes RAW HQ 12-bit (NEV)、H.265 10-bit など

解像度

写真でも解像度はありますが、撮影前に選択することはあまり無いですよね。動画では、4K、8K、FullHDなど決まった規格を事前に設定する必要があります。出力先・納品先の解像度と同じ、もしくはクロップや合成がある場合はそれ以上の解像度を撮影前に設定します。

フレーム間圧縮方式 (LongGOP とALL-I)

わかりづらい設定値の一つ。これらもデータ圧縮方式の一種なのですが、コーデックなどとは別ジャンルのものです。
その名の通り動画の各フレームにかける圧縮の方法を選択できます。フレーム毎に全て圧縮を行っているのがALL-I(ALL-Intraの略)、複数フレームにまたがって圧縮を行っているのがLongGOP (CanonではIPBと表記)で、データ量が多くなり易いが編集時のレスポンスや自由度はALL-I圧縮が優れていますが、圧縮効率はLongGOP(IPB)の方が優れています。特にLongGOPは図のように、2枚目以降のフレームに動きが無い箇所は最初のデータを流用して、異なるデータの差分のみを記録していくことでデータ量を削減しています。つまり、三脚固定などで画面に動きが少ない動画では、データ量に大幅な違いが出るということになります。これらは画質に大きく影響する違いは無いため、撮影対象によって切り替えればうまくデータを削減することもできます。
ただ、LongGOPは編集時には本データに復元するためにPCのレスポンスを食うため、編集への負荷も考慮して選択する必要があります。

図

ビットレート

カラーサンプリングとビット深度

今回ご紹介するなかで、一番複雑で難しい項目が、この「カラーサンプリング」と「ビット深度」です。カラーサンプリングが「4:2:2や4:2:0」、ビット深度が「8bitや10bit」などの部分に当たります。Log撮影についてより深く理解するために必要な知識なので、後の回でもっと詳しくご説明したいと思いますが、今回は設定値の選択に関してなので、概要だけご紹介します。

カラーサンプリング(クロマサブサンプリング)

写真はCMYKやRGBといった色空間を使いますが、動画カメラの内部処理ではYUV(YCbCr)という色空間を使います。これは、画像のデータ量削減が容易にできるからです。
Logの回でも説明しましたが、人間の目は明るさの変化に比べて、色の変化の認識が苦手です。その目の特性を利用して、認識しづらい色情報を削ってデータ量を減らそうとする圧縮技術がこのカラーサンプリング(クロマサブサンプリング)ということです。4:2:2などと表記しているものがこれに当たります。左から輝度信号(Y)、青の色差信号(Cb)、赤の色差信号(Cr)で、それぞれの色数の比率を表しています。この色数の比率を人の目の認識に合わせて削減していくのですが、4:4:4をRAWのような削減前の状態として、4:2:2、4:2:0という表記になります。情報量としては、4:4:4が1に対して、4:2:2は1/2、4:2:0は1/4となります。恐らくみなさんが実際カメラの設定で目にするのはこの、4:4:4、4:2:2、4:2:0の3種類くらいなので、覚えるのは簡単です。
具体的にどのような違いが出てくるかというと、数値が小さいほど被写体のエッジ部分がボケてきます。しかし人の目は色差には鈍感なため、4:2:2や4:2:0の違いをぱっと見で見分けることは難しいです。
現場の例としては、グリーンやブルーバックの合成など、色情報が特に必要な撮影では4:2:2以上は絶対に必要となります。
ちなみに、こちらもコーデックやフレーム間圧縮などとは別のジャンルの圧縮方式になります。

ビット深度(色深度)

1ピクセルあたりに割り当てられる階調数のことで、数値が高いほど表現色が増える(グラデーションが滑らかになる)ということになります。8bit、10bit、12bitなどと表記されています。

dbcbecca3c73f07b55211c02d68957ae__PID:80994166-7354-4d15-99a0-85224aa2a5fc
d6f7e44c2d0e9b540f461578c4671591__PID:41667354-4d15-49a0-8522-4aa2a5fc4bcc

北下 弘市郎(KOICHIRO KITASHITA)

映像・写真カメラマン・撮影技術コーディネーター
1986年 大阪生まれ。大学では彫刻を学び、写真スタジオのアシスタントを経て独立。
2020年 株式会社Magic Arms 設立。
音楽・広告・ファッション・アートなどを中心に、ムービー・スチル撮影を行う。
撮影現場の技術コーディネートや機材オペレーターなど、撮影現場に関する様々な相談に対応する。
古巣の株式会社 六本木スタジオにて、映像撮影の講師にも従事。

profile__PID:74539462-8bdd-456c-ae0c-4caf282d272c