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Road to 24fps !! 第16回現場のモニター選び 後編 〜複雑なモニタリング環境の構築に向けて〜

〜写真カメラマンから動画カメラマンを目指す〜

Road to 24fps !! 第16回現場のモニター選び 後編 〜複雑なモニタリング環境の構築に向けて〜

目次

みなさんこんにちは。
Road to 24fps!! 第16回は、前回に続き現場のモニター選びの後編です。 現場でのモニター出しの重要性や接続の考え方をお話しましたが、今回はより複雑なモニタリング環境を構築できるように、もう一歩踏み込んだ規格の話をお伝えします。

コンバーターを活用しよう

撮影に参加するスタッフにとって、モニターが必要な数・場所・大きさで設置されていれば、それだけスタッフが絵作りに集中でき、作品のクオリティアップに貢献してくれるので、現場のモニタリング環境の充実はとても重要です。 実際にモニターに繋いでみると、HDMIとSDI(BNC)の長所と短所が見えてくると思います。 HDMIとSDIを混在させる場合に必要な「コンバーター」をご紹介します。

HDMIとSDIの信号を変換することを「クロスコンバート」と言い、機器同士の接続の際にコンバーターを介することで、HDMIやSDIケーブルを混在可能にします。 コンバーターは、メーカーや年式によって異なる規格のモニターや機器同士を接続するための必須アイテムで、用いる際には以下のような伝送規格を理解しておく必要があります。

SDI伝送規格

SDIはSerial Digital Interfaceの略で、非圧縮のデジタル映像と音声データを同軸ケーブルでどの位のデータ量(速度)を伝送可能かを示す規格です。名称によってデータ量・速度が異なります。 コンバーターのスペックや、モニター入出力のデータ表示などに用いられます。

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プログレッシブとインターレース

こちらは、映像をモニターに表示するための、表示方式(走査方式)を表します。

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画面表示は、左上から順に横列ごとに表示(走査)していきます。この方式を「プログレッシブ方式」と呼びます。 液晶モニターはこの方式が当たり前ですので違和感はありませんが、ブラウン管TV時代には違った表示方法がありました。

「インターレース(飛び越し走査)方式」と呼ばれる、1つのフレームを奇数列と偶数列の2つのフィールドに分けて、交互に走査していくことを繰り返す方式です。 モノクロTV放送を開始するにあたって、放送用電波の帯域幅の関係で、画像全体(1フレーム)のデータを1度に送ることが技術的に困難だったことから、フレームを分割して伝送するという方式が考案されました。 人の目の錯覚を利用したこの方式は、30コマ分の情報量で60コマに見えるため、映像が滑らかなことがメリットです。

参考:インターレース(SynApps)

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このデータ形式の表記にはインターレースの頭文字をとって「i」、を解像度やコマ数の後に付けます。1920×1080の解像度の場合は「1080i」や「1080 60i」といった感じです。 ※ちなみにこれはFullHDまでの話で、4K以降のTVにはそもそもインターレースは採用されていないので、2160 60iなどという表記は存在しません。

対して、順次走査のプログレッシブ方式のデータ表記は「1080 30p」や「1080p」、「2160 24p」等となります。 この場合、1080 60i(1080i)と1080 30pのデータ量は同じということになります。

この「p」や「i」という表記は、カメラの撮影設定にもよく出てきます。 特にモニタリングに際しての外部出力設定にはとても重要で、カメラとコンバーターや業務用モニターを接続する場合、これらの規格を相互に見比べる必要があります。 (当たり前ですが、機器の出力設定が入力機器側で対応可能でないと映像が表示されません。)

コンバーターの使いどころ

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コンバーターにはさまざまな種類があり、HDMIとSDIを変換するクロスコンバート機能の他に、信号を複数口に分配(スプリット)したり、複数の入力を1画面にまとめて表示(マルチビュー)できるもの、解像度を変換(アップ/ダウンコンバート)できるものなど、現場や状況によって異なるニーズに合わせて選ぶことができます。

コンバーター利用の具体例としては、 撮影用モニターの出力端子は大体一つで、通常接続は数珠繋ぎにしていくのですが、モニター自体に出力端子が無い場合や、配線の都合上ケーブルを分配した方が良い場合は複数出力ができるスプリッターを使用します。 また、ドラマやインタビューでマルチカメラ撮影をする場合は、画面を分割して1画面に複数の入力を表示できるマルチビューを使用します。

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クロスコンバート機能のついたモニターもコンバーターとして考えることができます。 特にこの機能の付いたオンカメラモニターは、ミラーレスカメラなどのHDMIに出力端子が限定されている場合に、限りなくカメラから近い場所でSDIに変換できるので、カメラ以降のモニターへの接続にはとても有利です。 クロスコンバーターは所有機材の変換はもちろん、現場にある備え付けのモニターを使う際にも使えるので、いくつか持っておくと便利です。

私の場合、ミラーレスカメラのオンカメラモニターは必ずクロスコンバート機能の付いたものを使いますし、液晶テレビにHDMI入力したりすることもよくあるので、現場には常に複数のコンバーターを持ち込んでいます。

小話:とにかくややこしい出力形式たち

コンバーターの有用性をご紹介しましたが、これらも万能ではなく対応する入出力形式はバラバラです。 特にカメラに関しては、収録設定に対して出力形式が変わることも多く、これがモニタリング環境を構築する上でよく混乱を招きます。

例えば、4KやFullHDの混在や、フレームレートの対応です。 収録は4Kで行うのに、出力先のモニターが4K対応していないためFullHDで出力しないと映らない、またはモニターが60iには対応しているが、60pには非対応などという感じです。LUT出力などが入るとより複雑化します。

 私の困った経験としては、データ形式は対応の範疇なのに特定のモニターを間に挟むとなぜかうまく映らなくなる、とか、ライブ映像では問題なく映っているのに再生画面にすると画面が真っ暗、、、なんてこともあります。 前者は機材同士の相性が関係すると考え、その配列では接続しないように注意書きしています。 後者はシネマカメラあるあるで、4K収録時等にライブ出力はFullHDになっていても、再生時は収録データそのままで出力されてしまう場合があるため、非対応のモニターが再生時だけ映らないということですので、4K→FullHDダウンコンバート機能のついたモニターなどを間に入れて対応します。

これらの他にも問題は無数にあり、重要なクライアント用モニターが映らないために現場が押すということもたまにあります。

そういった事故に対する対策としては、いつも使うモニター達でカメラの外部出力のパターンを試しておき、確実に映るスタンダードな配置を幾つか覚えておくことです。 またレンタルなどで機材を構成する場合も、事前に本番仕様で接続テストをしておくことを強くお勧めします。

実際の設置事例

最後にモニター設置のヒントとして、私が行っている事例を幾つかご紹介したいと思います。

スタンダード構成
 オンカメラモニター 5 or 7inch
監督用 9inch
クライアント or 出演者用 17inch

小〜中規模の人数に対応する構成です。 撮影場所を移動しないスタジオワークを前提としており、ワンオペでも少ない負担で設置できるので、ベースの設置事例にしています。 基本的には10mくらいのBNCケーブルで数珠繋ぎにしていますが、必要に応じてワイヤレス化したりモニターを増やしたりします。

ロケ構成
 オンカメラモニター+ワイヤレストランスミッター
監督用 7inch +ワイヤレス受信機
クライアント用 17inch or 9inch +ワイヤレス受信機

移動の多いロケ撮影用の構成です。 監督にはディレクターズモニターとして首から下げてもらい、 クライアントにはスタンドに付けた9inchくらいのモニターで見てもらいますが、アシスタントがいる場合は17inchのモニターで見せることもあります。 フォーカスプラーが必要な時は、モニター用スタンドに小さいモニターを増設して、オペレートしてもらいます。

映画・MVなどの大人数用構成
オンカメラモニター 7inch
監督用 17inch
フォーカスプラーや特機部 7inch
照明部用 9inch
クライアント用 24 inch

人数や役職が多ければ多いほど、モニターの数は増えていきます。 この規模になるとHDMIのみでの設置はほぼ不可能ですので、BNC接続が前提 になります。 もちろん1人ではコントロールできないので、アシスタントやDITに任せましょう。

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これらはほんの一部の例に過ぎませんが、現場の地形や人数に合わせて多種多様な設置方法があり、その分トラブルの例も無数にあります。 こればかりは経験を積むしかないところもあるのですが、私から言えることは、とにかく事前準備でしっかりチェックを行っていただきたいということです。

何度も言いますが、モニタリング環境をしっかり構築できれば確実に作品のクオリティアップに繋がります。 ぜひ現場作りの参考にしていただければと思います。

次回は、沢山あって目が回る・・・撮影用バッテリーについてです。


北下 弘市郎(KOICHIRO KITASHITA)

映像・写真カメラマン・撮影技術コーディネーター
1986年 大阪生まれ。大学では彫刻を学び、写真スタジオのアシスタントを経て独立。2020年 株式会社Magic Arms 設立。音楽・広告・ファッション・アートなどを中心に、ムービー・スチル撮影を行う。撮影現場の技術コーディネートや機材オペレーターなど、撮影現場に関する様々な相談に対応する。古巣の株式会社 六本木スタジオにて、映像撮影の講師にも従事。

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