Road to 24fps !! 第14回 センサーサイズとアナモフィック撮影 〜カメラ心臓部の働きと役割〜
〜写真カメラマンから動画カメラマンを目指す〜
みなさんこんにちは。
Road to 24fps!! 第14回は、動画用カメラのセンサーサイズとアナモフィック撮影についてです。
スチル用カメラにフルサイズやAPS-Cサイズといったイメージセンサーサイズがあるように、動画用カメラにもいくつか専用のサイズが存在します。
第8回記事の「解像度とアスペクト比」の中で、画面の縦横比で変化する表現方法についてお話しした内容と少し似ていますが、動画のレンズ選びや画角をより深く理解するためには、センサーの役割について知っておく必要があります。
今回はセンサーサイズやシャッター方式のご紹介と、最近流行りのアナモフィック撮影についてお話したいと思います。
イメージセンサーのサイズ
最近ではフルサイズセンサーを搭載したミラーレスカメラが主流となっているので、あまり違和感なく動画撮影をされている方が多いとは思いますが、動画モードで使用するセンサーの範囲が変わっていたり、センサーサイズの呼び方に違いがあったりします。
まずは動画でよく使われるセンサーサイズをいくつかご紹介します。

フルフレーム (36×24mm)
呼び方が若干違いますが、こちらがスチルでよく使う「35mmフルサイズ」に当たります。サイズも同じで、「フルサイズ」はフィルム時代から使われている日本特有の呼称になります。そのままではアスペクト比が3:2になってしまうので、動画モードでは上下をカットした16:9比で撮影することになります。逆にあえて3:2で撮影する場合は、OpenGateモードが設定可能な特定のカメラを用意する必要があります。元は高価なハイエンドシネマカメラにしか搭載されていませんでしたが、ミラーレスカメラをはじめフルフレーム搭載カメラは近年急速に普及しました。
スーパー 35mm (24×14mm)
映画業界では、実はこちらが昔ながらのスタンダードになります。スチルも映画も、元は同じ35mm幅のフィルムを使用して撮影されていました。映画撮影用に使用されていた35mmフィルムは縦方向に流れる様に使用されていたため、パーフォレーション部分を除く、横24mm・縦14mm (元は18mm)を使ったSuper35mmという規格が主流だったため、そのままデジタルセンサーに採用されました。
参考:ムービーのさまざまな技術(Canon)
映画用に作られたシネマレンズの、特にオールドレンズに分類されるレンズ郡は、このSuper35mm規格のものが殆どで、レンズ資産を活用するためにはSuper35mm規格のセンサーを搭載した(もしくはクロップした)カメラで撮影する必要があります。
オールドシネマレンズをレンタルなどで使用する際には、必ずどのセンサー規格に対応したレンズなのかをしっかり調べておく必要があります。
また、スチルのAPS-Cサイズとほぼ同じサイズのため混同されがちですが、Super35mmが16:9であるのに対し、APS-Cは3:2なので厳密には違いますが、イメージサークルをカバーしているためレンズの流用も可能です。
表現的にはフルフレームに比べてボケ味が少ないですが、寧ろボカし過ぎない画面の方が視聴者側としても状況理解がしやすいというメリットもあります。またフォーカスワークの難易度も下がります。
名前が35mmフルサイズと似ていますが、全くサイズが違うので注意が必要です。
参考:フルサイズとAPS-C 《名前の由来》編 (APEX)
余談ですが、このシネマ用に使われていた35mmフィルムをオスカー・バルナックが写真用に転用したことが35mmフルサイズの始まりだったそうです。 動画の方が先だったことには驚きですね!
その他センサーサイズ
スチルで次に思い浮かぶのは、やはりマイクロフォーサーズ規格ではないでしょうか。フルサイズに対し面積が1/4程度で、画角が2倍にクロップされるため望遠側が使いやすくカメラを小型化しやすいのが特徴です。
小さいながら画質やボケ味も確保されたサイズであるため、動画でも活躍しているセンサーです。
さらに小さい規格としては、ENG系カメラや小型カメラに搭載されている1インチ以下のサイズです。
テレビやライブ中継のカメラによく使われる、B4と呼ばれるレンズマウントは2/3インチセンサー(ほぼSuper16mmサイズ)用に開発されており、幅広いズーム域を生かしたカメラワークが可能です。
シネマカメラにおいても、その広いズーム域を活用するためのB4マウントへの変換アダプターも存在します。
シネマ専用の規格では、VistaVision(RED V-RAPTOR 8K VVの場合40.96 × 21.6mm)や、ラージフォーマット(ARRI ALEXA LF の場合36.7×25.54mm)などの、より大型なセンサーも存在します。
最近ではFUJIFILMが中判センサーで動画が撮れるミラーレスカメラを発売し、シネマカメラも開発中(2025年初頭現在)という話題がありました。
大型センサーはスチル同様画質が向上する分、高価な専用レンズマウントを用意しないといけないため、使用にはコストとのバランスも考慮する必要があります。
オールドレンズを使う注意点
これは、主にカメラやレンズをレンタルする場合の話になりますが、上記のようにシネマカメラのセンサーサイズはカメラによってかなり違いがあります。特にPLマウントに関しては、マウント部分が同じでも対応サイズがシリーズによって違うため、実際の焦点距離をセンサーサイズに合わせて換算する必要があります。
動画撮影も、慣れてくるとオールドレンズを使ってみたくなるものですが、
初めて使うレンズは、対応サイズをよく調べておきましょう。
ローリングシャッターとグローバルシャッター
続いて、センサーを理解する上でもう一つ重要な、シャッター方式についてお話しします。デジタルの動画撮影では、スチルと違い撮影時は実際のシャッターは開いたままになっているので、この場合のシャッターとはセンサーの読取方式のことを指します。読取方式には2パターンあり、方式によって撮れる画像が変わります。
ローリングシャッター
センサー上の画素を1列ごとに順に読み取っていく(走査)方式。
グローバルシャッター
画面全体を同時に読み取る方式。
これらの大きな違いは、1画面の読み込み(1コマあたりの光の情報をデータ化する)にかかる時間です。
グローバルシャッターではセンサー全体を同時に読み込むため、目で見たままの画像が記録されます。
対してローリングシャッターは、最初の1列と最後の1列で読込時間に差があるため、素早い動き、特に横移動の場合に歪みが生じます。
これを「ローリングシャッター現象」と言います。
わかりやすい例で言うと、電車や車に乗っている時に、横の車窓からカメラを向けたりすると、窓から近い電柱や真っ直ぐなはずの建物が斜めに歪んで映ります。
ローリングシャッター現象は読取時間が長いほど大きく歪みます。これは搭載されるセンサー(カメラ)の性能や処理能力によって変わります。
もちろん歪みは出ないに越したことはないのですが、市場に出回っているカメラの多くは、ハイエンドカメラも含めてローリングシャッター方式です。
これは製造コスト的にグローバルシャッター方式のセンサーの方が高額になることもありますが、広ダイナミックレンジや低ノイズなど、メリットが違うようです。
参考:ソニーが、グローバルシャッターとローリングシャッターそれぞれの長所を解説(デジカメライフ)
画像の歪みに関しては、絵作りの工夫や後処理技術でカバーしているというのが現状です。
グローバルシャッター搭載のカメラは今までにも販売はされていましたが、高額なカメラばかりでした。しかし最近ではミラーレスカメラも含め、グローバルシャッター方式のカメラが比較的安価な価格帯で発売され始めています。
技術の進歩によって今後はグローバルシャッター搭載のカメラがどんどんと発表されていくかもしれません。
小話:ジェロの問題
ローリングシャッター現象の種類の一つに「ジェロ」というものがあります。 これは、振動の大きい車などの振動する動力機関を持つものにカメラを取り付けた場合に起こる、画像がぐにゃぐにゃ歪んで映る現象です。 こんにゃく現象などとも言われるそうですが、発生するメカニズムはローリングシャッター現象と同じです。 ドローンでも同様のことが起こるので、ドローンの撮影業界では当たり前の知識のようです。 私もカーマウント撮影の時に(特にフロントエンジン車のボンネットへの取り付け)この現象に悩まされたことがあります。
対策はいくつかあり、シャッタースピードをできるだけ落とす、カメラ自体を振動から守る(専用スタビライザーなど)、編集ソフトでスタビライズをかける、グローバルシャッターのカメラを使う、といったところです。
シャッタースピードを落とすのは、あくまで目立ちにくくする程度ですので、あまり根本的な解決ではありません。
専用スタビライザーは、カーマウント機材を購入することになるのでお金はかかります。
比較的簡単にできるのが編集ソフトでスタビライズをかけることですが、
これも、状況やカメラの設定によって結果がかなり変わります。
なので一番結果が良いものを事前にテストしておくことをお勧めします。
私の場合は、SONYカメラをよく使うのですが、純正ソフトのCatalyst Browseで処理するとかなり良い結果が出ました。こちらもカメラ設定などによって結果がかなり変わります。
手振れ補正機能なども、高速で振動するものには効果が薄いです。
もちろん、グローバルシャッター搭載カメラを使えば完全に回避できます。2013年発売のSONY F55というシネマカメラがあり、ヘリに搭載しての空撮などでは今も現役で使われています。
アナモフィック撮影の効果
続いて、センサーを理解する上でもう一つ重要な、シャッター方式についてお話しします。デジタルの動画撮影では、スチルと違い撮影時は実際のシャッターは開いたままになっているので、この場合のシャッターとはセンサーの読取方式のことを指します。読取方式には2パターンあり、方式によって撮れる画像が変わります。
アナモフィック(Anamorphic、アナモルフィック)撮影は、
4:3比率のフィルム(センサー)の撮像範囲に対して、専用のレンズを用いて映画用のワイドスクリーン(2.39:1、2.35:1、2:1、などのシネスコサイズ)の横長の画面を光学的に圧縮して撮影する、フィルム時代に考案された撮影手法です。
この話題に関しては、
第8回 解像度とアスペクト比 でも軽くご紹介しましたが、デジタル時代のセンサー活用の観点からも有効な撮影手段です。
映画用35mmフィルムは縦方向に流れていく(横方向のビスタサイズは除く)ので、横長なシネスコサイズをそのまま収めるには上下を犠牲にするしかありません。
しかも隣には音声データも書き込まれるため、撮像可能な面積の半分近くが無駄になってしまいます。
そこで考案されたのが、アナモフィックレンズという横方向のみを圧縮できるレンズを使い、4:3のフィルム面積目一杯に焼き付ける方法です。
撮影された画像は縦方向に歪んでいるため、映写の段階で同じ比率のレンズを使って投影することで、元の横長サイズに戻して観ることができます。
これにより余っていた上下の面積を有効活用でき高画質化されます。
またレンズ周辺の独特な収差やフレア表現、ボケ味など、アナモフィックレンズ特有の光学的効果が表現手法としても評価され、機材システムも専用のレンズを用意するだけなので、コストが少なく瞬く間に発展していきました。
このシステムはデジタルセンサーになった今でも同様の有効性はあり、特有のレンズ表現も利用できます。
アナモフィックレンズには、シリーズによってフルフレームやSuper35mmのイメージサークルが設定されており、4:3、6:5、16:9などのアスペクト比をベースに、仕上がりサイズに合わせて横幅の伸長倍率が選べます。
代表的な倍率は「×1.33 、 ×1.8 、 ×2 」などがあります。
具体的なワークフローとしては、例えばフルフレーム4:3(※1.33:1)センサーで撮影して、仕上がりを2.39:1で想定する場合、フルフレーム対応の2倍率のレンズシリーズを選択し、編集時に両サイドの余分な範囲をカットする、という流れです。
※「1.33 : 1」と補足を入れているのは、映画のアスペクト表記が、縦を1として横の比率を変えるというルールがあるためで、レンズの表記などもこれを元にしていることが多いため。

また、16:9センサー範囲で2倍のレンズを使えば、相当な横長の画面が撮影でき、編集時に画質を落とさず左右の画角移動も可能になります。
このような面白い映像表現が、現在では非常にリーズナブルに手が出せる環境になってきておりますので、もしご興味が出ましたらレンタルからでもお試しになることをつよくおすすめします。
また、NiSiからも「Allure Streak Filter」というアナモフィックレンズの光線効果が出せるフィルターも発売されておりますので、写真表現に取り入れていくのも楽しいと思います。
個人的にはNiSiのシネマレンズラインにアナモフィックシリーズも加えていただきたいですね!笑
アナモフィック撮影に限らず、動画の撮影現場はモニタリング環境が非常に大事です。
ということで次回は、現場のモニター選びについてです。
北下 弘市郎(KOICHIRO KITASHITA)
映像・写真カメラマン・撮影技術コーディネーター
1986年 大阪生まれ。大学では彫刻を学び、写真スタジオのアシスタントを経て独立。2020年 株式会社Magic Arms 設立。音楽・広告・ファッション・アートなどを中心に、ムービー・スチル撮影を行う。撮影現場の技術コーディネートや機材オペレーターなど、撮影現場に関する様々な相談に対応する。古巣の株式会社 六本木スタジオにて、映像撮影の講師にも従事。
