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Road to 24fps !! 第15回現場のモニター選び 前編 〜クライアントワークで大切なこと〜

〜写真カメラマンから動画カメラマンを目指す〜

Road to 24fps !! 第15回現場のモニター選び 前編 〜クライアントワークで大切なこと〜

目次

みなさんこんにちは。
Road to 24fps!! 第15回は、作品のクオリティにも関わってくる、現場のモニター選びについてです。

スチル撮影の現場モニターと言えば、ノートパソコンや24〜27inchくらいの少し大きめの外部モニターを1〜2台用意して、カメラとのテザリングでスタッフみんなでチェックをすることがよくあります。 (白ホリスタジオ出身の私は、その環境が当たり前でした。)

これにより、進捗がモニター上でリアルタイムで表示できるため、撮れ高をその場にいる全員で即座に共有でき、より正確でスピーディな撮影進行が可能となります。 現場づくりにおいて、モニターの設置は作品のクオリティを左右する極めて重要な要素です。

関わる人員が多くなりがちな動画撮影においては、さらに多くのモニターが必要になります。 映画やCM等のメイキング映像を見ていても、演者や監督用のモニターをはじめ、色々な所に違ったサイズのモニターが多数設置されているシーンを目にすることがあると思います。

今回は、動画用モニターの設置方法についてお話したいと思います。 使い方によってはスチルの現場にもフィードバックできるものもありますので、是非読み進めていただければと思います。

クライアントワークのモニター配置

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動画の現場においても、スチルと同じようにモニタリング環境を構築しますが、大きな違いは大小様々なモニターを複数用意するということです。

5インチ前後の小型オンカメラモニターから始まり、中型の7〜17インチ程度の中型、24インチ以上の大型モニターに至るまで、様々なサイズ・種類の撮影用モニターが販売されています。 そして撮影の規模や現場のスタッフ数に応じて、複数のモニターを使い分けます。

動画は分業のため、撮影現場には多くの役職の人が集まります。 出演者を始め、監督、照明、特機、ヘアメイク、スタイリスト、クライアント、タレント事務所、コレオグラファー、フードコディネーター、、、等々、規模が大きいと数十人以上の規模になります。 総じて、スチル撮影より人数が多くなりがちです。 それら全ての人が、小さなモニター1台で同時にチェックすることは非常に効率が悪くなります。

また撮影データは簡単にレタッチができませんし、多くのシーンを撮るため都度スタッフ間で確認し合うことが、作品のクオリティを上げるための必須条件です。

そういった理由から、動画撮影の現場には必要分のモニターを設置する必要があります。ざっくりとした現場の例を挙げますと、

  • 案件:商品販売のためのWebCM撮影
  • 場所:10m× 10m 程度の広さの白ホリゾントスタジオ
  • 機材:小型シネマカメラ1台
  • 人員:
      演者×1
      カメラマン(カメラオペレーター)×1名
      撮影助手×2 (内フォーカスプラー ×1)
      監督×1(助監督×1)
      照明部×3
      録音部×1
      ヘアメイク×1
      スタイリスト×1
      制作部×3
      クライアント(代理店含む)×5

といった感じの撮影があったとします。 (こういった撮影に馴染みのある方は、この文字情報だけでも具体的な状況が頭に浮かぶ方もいるかもしれません。)

私の場合は、この内容だと以下のようなモニターを用意します。

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  • 24inchモニター ×1〜2台 (クライアント確認用)
  • 17inch モニター×2 (監督用×1、演者確認用×1)
  • 9inchモニター ×1 (照明部用×1)
  • 7inchモニター ×2(カメラマン用×1、フォーカスプラー用×1)

他、確認が必要なヘアメイク・スタイリストには監督用もしくは演者用モニターを兼用。制作部(プロデューサーなど)には監督用もしくはクライアント用を兼用。

このように、動画撮影では1つの現場に対して複数のモニターを持ち込みます。 あくまでこれは一例であり、これが必ずしも正解というものではなく、予算や撮影内容によって増減させることもあります。 要するに、確認を必要とするスタッフに不足なく行き渡ることが重要だということです。

モニターのサイズと役割

上記でモニターのサイズと台数を書きましたが、大きさによって役割が違います。 もちろん、大きいほど見易くはなりますが、取り回しの関係などから適したサイズを割り出すことができます。 以下にサイズと特徴をご紹介します。

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5〜7 inch

オンカメラモニターと呼ばれる、主にカメラに装着することを前提に作られたモニターです。 カメラと一緒に取り回すため、小型・軽量であり、小さなバッテリーでも駆動できるようになっています。 マジックアームやモニターマウントを介して装着できるように、¼inchネジ穴が付いています。 小さいですが、モニタリングに必要なフォーカスピーキング、ウェーブフォーム、アスペクトガイド、LUTなどの機能が付いていて、屋外ロケ向けに輝度が高いものもあります。

9 inch

小型で機動力を生かした取り回しが可能な万能型サイズです。 モニタリングに必要な機能が備わっているのはもちろん、ライブ収録の現場では(大型のアームが必要ですが)オンカメラモニターになったり、AC電源だけでなくVマウントバッテリーなどで長時間運用ができ、ケーブルレスでスタンドに装着して現場のあちこちに設置できるので、移動の多いロケや咄嗟に出せるモニターとして活躍します。 最近は7inchにそのお株を奪われがちで、新規の製品があまり出ていないのが残念ですが、私の現場ではほぼ出ずっぱりのモニターです。 現在は新規に購入するのは難しく、レンタルか中古になるかと思います。

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15〜25 inch程度

スチルの現場で、24〜27inchのキャリブレーションモニターを外部接続で出しているものが、この辺りに当てはまります。 撮影者が人に見せるために設置する前提のもので、大き過ぎず中型のローラースタンドなどにブラケットを介して装着することもできます。 AC電源だけでなくVマウント系バッテリーでも使用でき、運搬もしやすいので、ロケやスタジオ問わずしっかり確認するメインモニターに向いています。 モニタリングに必要な機能も充実していて、種類によっては複数入力のマルチカム表示に対応したものもあります。

30 inch以上

現場では大型に分類されるモニター群です。 人数が多い現場で活躍します。業務用モニターではかなり高価になるので、このサイズが必要な場合は家庭用TVを持ち込んだりもします。 機能としては15〜25inchクラスと同程度になります。

色味とキャリブレーション

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ここまで読んでいただいた方の中には、カラーマネジメントモニターを所有していて、レタッチなどのために頻繁にモニターキャリブレーションを行なっている方は「こんなに色々モニターを持ち込んで、カラーの管理はどうしているの?」と疑問に思う方もいらっしゃると思います。 このモニター色味問題は動画ではよく発生します。 モニター毎に違うメーカーのものが混在することはよくあり、全てのモニターの色味を正確に揃えることは非常に困難です。

オーソドックスな方法としては、マスターモニター(通称マスモニ)を現場に持ち込んで色味を判断し、カラコレの場にも同じモニターを使用して色味を確認する、というものがあります。 マスモニは、ブラウン管時代からテレビ制作系の現場で主に用いられてきたもので、正確な色再現が可能なモニターとして作られていますが購入するには非常に高価で、レンタルの場合も同じ機体をカラコレの場に用意しないといけないので、ワンオペや小規模な映像制作に用いるには不向きです。

上記のような経緯があり動画のモニターカラーマネジメントはスチルほど環境が整ってはおらず、完全に整えるには非常に高額な投資が必要になります。

もちろん、スチル同様のキャリブレーションセンサー内蔵で調整結果を保存できるモニターを用意するという方法も有効ですが、そういったモニターには波形やLUT表示機能などのモニタリング補助機能が付いていなかったり、バッテリー装着も不可な場合が多いので、結局色味以外の機能を求めてモニターを増やさないといけなかったりと、ロケ撮影には不向きです。

ではどのようにモニタリングしているかということですが、こちらでは私の場合の例を参考に挙げさせていただこうと思います。

所持しているモニターの中で、一番正確な色味のものを事前に覚えておく

→これが一番お手軽でよくある方法です。
RAWやLog収録はカラコレ前提なので、現場モニタリングは露出や大まかな発色の管理をメインに行うことが多い為です。 カラーマネジメントモニターを持っている場合は、撮影前に比較できるので便利です。 選ぶモニターはモニタリング補助機能が付いたものが望ましいです。 監督やクライアントには予めどのモニターの色味が良いのかを伝えておく必要もあります。 また、DITがいない現場ではあまり細かく色味まで確認できないことが多いので、特別指定がなければメーカー純正の標準的なLUTを当てて評価をすれば基本的に問題ありません。

メーカーにキャリブレーションを依頼する

→外付けのキャリブレーションモニターが付かないものは、メーカー側で有料で引き受けてくれる場合もあります。 私のメインモニターやオンカメラモニターはこの方法でキャリブレートしてもらいました。(たまにイベントなどで無料キャンペーンもやっていたりします)

自分でキャリブレーションする

→外付けのセンサーを用いてキャリブレートができる機種もあります。以前私も何度か試したのですがうまくいかなかったため、自分でやるのは諦めました。 これが自分でできるようになればスチルカメラマンとしては一番しっくりくるので、今後の商品開発に期待したいところです。

端子(ケーブル)の種類

動画の現場では複数のモニターを用いる関係上、数珠繋ぎにケーブルを接続する必要がありますが、接続の際によくある問題が差し込む端子を間違えて、映像が映らないということがあります。 差し口自体はIN/OUTの2種類しかありませんが、 業務用モニターには同じ端子が複数あったり種類が違うものが付いていたりと、慣れていないと混乱しがちです。
また、モニターの数が多くなると映らない原因を探るのも一苦労ということもありますので、代表的な2種類の端子(ケーブル)をご紹介します。

映像に関する端子

HDMI
家電量販店でも買える、家庭用テレビやパソコンモニター・カメラに至るまで、広く普及している説明が不要なくらい汎用性の高い端子です。ロック機構は無く差し込むだけで繋がるので扱いは簡単です。
 端子の形状は以下の3種類が用意されています。

  • Full(Type A)→最も広く採用されている規格。テレビ・モニター・カメラなど
  • Mini (Type C) →カメラやノートパソコンに採用。かなり限定的。
  • Micro (Type D) →スマートフォンや小型のカメラなど、小さい機器に採用されている。

※他にType B、Eがありますが用途が違うので割愛

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また、伝送できるデータ量はケーブルによって変わるので、高解像度の場合は対応を確認しておきましょう。

  • ウルトラハイスピード (HDMI 2.1) 8K 60p、4K 120p まで
  • プレミアムハイスピード (HDMI 2.0) 8K 30p、4K 60p まで
  • ハイスピード (HDMI 1.3〜1.4) 4K 30p まで
  • スタンダード (HDMI 1.2 以前) 1080i、720p 程度

小型の機器にも採用しやすく、一般家庭での使用も想定していることから、高画質な映像伝送が手軽にできることが魅力です。 ミラーレス系のカメラに標準装備されており、距離の近いモニターにはこのケーブルを使用します。

しかし端子が貧弱なため、頻繁に抜き差しを行うとケーブルの脱落や接続不良を起こす可能性があります。また、データの伝送可能距離は5〜10m程度と短く離れた場所へのモニター出しやハードな業務使用には不向きです。 光ファイバータイプのケーブルであれば長距離伝送も可能ですが、端子の形状が同じだと取り回しはしにくいです。

BNC(SDI)
HDMIと同じく映像と音声のデジタル信号を一緒に伝送可能な同軸ケーブルに、金属製のロック機構を備えた端子規格です。 採用されている同軸ケーブルは、耐久性・柔軟性の高い素材で信号の損失も少なく、リピーターなしの一本のケーブルで100m近く(実際はもう少し短いかも?)伝送することが可能です。 また、金属製のロック機構は差し込んで少し右に回せばカチッと強力に固定でき、ハードなカメラの取り回しに対しても安心して使用できるため、シネマカメラをはじめ業務用の撮影機材に広く採用されています。 動画の撮影現場ではこちらの端子規格がメインで使用されていて、BNC・SDI・同軸(ケーブル)などと呼ばれています。(SDIは信号の種類を指します)
 複数のモニタリング環境の構築には必須の規格となります。

BNCケーブルの規格
 ケーブル選びの際には、幾つか規格を確認する必要があります。 まずインピーダンスがあり、映像用は75Ωになります。 次にケーブル太さがあり、1.5C、3C、5Cなどの名称で太さが分かれます。 規格と実際の太さはメーカーによって違いがあるようですが、5m以上のケーブルは、3C、5Cが一般的です。

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参考:同軸ケーブルの種類・規格・一覧表(トーコネ)

オンカメラモニターに使用する短いものは、3C未満の太さでも問題ありませんが、6G/12G (4K30〜60p位)のデータ量になるとある程度太いものでないとノイズが入ったり、途切れたりする可能性があります。 特に4K時の外部収録機器への接続の場合は注意が必要です。
私の場合、チェック用モニターはFulHDタイプなので、軽くて取り回しのしやすい3Cの10mケーブルを多く所有しております。

参考:BNCケーブル [はんだ式](CANARE)

参考:BNCケーブル |動画の学校 #01(PANDA TIMES)

※他にも規格がいくつかあるので、慣れていない場合の購入は撮影機器の専門店に相談することをお勧めします。

モニターを繋いでみよう

では実際にモニターをカメラと繋いでみましょう。 初めての場合は、カメラからの出力データとモニターの対応画質を確認しましょう。 お持ちのカメラがミラーレスカメラなどの小型機種の場合は、出力はHDMI規格だと思いますので、接続先のモニターにもHDMIケーブルで接続します。

もし、BNC端子が付いているカメラをお持ちの場合は、同じくカメラの出力端子にBNCケーブルを接続(複数ある場合はとりあえず端子1のような数字の若いものに接続)し、モニター側の「IN」の端子に繋ぎます。

業務用モニターへ接続の際には、BNC端子が沢山付いているものもあり、複数入力のIN/OUTやGENLOCK・コンポジット(アナログ信号)用もあるため、表記をよく確認しましょう。

BNC規格は長距離の伝送に向いていますが、シネマカメラや業務用機器にしか付いていませんので、HDMIと混在させるには「クロスコンバート」可能な機器を用いる必要があります。こちらに関しては、次回お話しします。

画像の乱れなど無く映れば成功です。

ちなみに、ケーブルの抜き差しに関しては、特に機器の説明書に注意書きがなければ電源を入れたまま行っても問題ありません。

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小話:モニター接続あるある

現場あるあるで、カメラとモニター単体を接続するにはIN/OUTのどちらかなので問題ないのですが、カメラ→モニター複数台になってくると、差し込む端子で混乱することがよくあります。

カメラから順に接続していけば間違いにくいのですが、途中のモニターから繋いだり、撮影中にモニターを追加で設置したりする場合には結構慣れていてもわからなくなることがあります。

そこで覚えていただきたい考え方が、「信号の流れの認識を持とう」ということです。

例えばカメラ1台、モニター3台があったとします。 映像信号はカメラを出発して、順にモニター①〜③まで接続していきますが、端子を差し込む時は「信号が入るからIN」「信号を出力するからOUT」という感じで、信号の流れを意識しながら差し込む端子を確認します。

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当たり前の事のようですが、コンバーターの種類によっては端子の分配器もありますし、マルチカメラやワイヤレストランスミッター等が入ると、よりややこしくなりますので、この意識で順に確認していけば映らない場合の原因究明に役立つと思います。

混乱しそうだと思ったら是非この考え方を思い出してください。

次回は、より複雑なモニタリング環境を構築するために必須の、コンバーターのご紹介と伝送データの規格を知っておきましょう。


北下 弘市郎(KOICHIRO KITASHITA)

映像・写真カメラマン・撮影技術コーディネーター
1986年 大阪生まれ。大学では彫刻を学び、写真スタジオのアシスタントを経て独立。2020年 株式会社Magic Arms 設立。音楽・広告・ファッション・アートなどを中心に、ムービー・スチル撮影を行う。撮影現場の技術コーディネートや機材オペレーターなど、撮影現場に関する様々な相談に対応する。古巣の株式会社 六本木スタジオにて、映像撮影の講師にも従事。

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