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「露出の難しい焼け空をフィルターワークで美しく撮る」by うさだだぬき

露出の難しい焼け空をフィルターワークで美しく撮る

Canon EOS 5D Mark Ⅳ, EF24-70 F2.8 Ⅱ, 24mm, 1/160秒, F8, ISO200, Reverse GND16

朝焼けと夕焼け=「焼け空」を見ると写真を撮りたくなりますが、空が白飛びしたり、地上が黒潰れしがちです。ここではフィルターを使った撮影のポイントを、京都の風景写真でSNSでも人気のうさだだぬきさんにお話をうかがいました。

目次

組み合わせで無限に広がる「焼け写真」の魅力

朝焼け・夕焼けの魅力は、一つとして同じものがないということです。同じ太陽でも、季節・前景・天候によって組み合わせは無限に広がります。たとえば棚田であれば、水張りした時期は太陽のリフレクションが、実りの秋には稲穂の輪郭が逆光で光り輝くシーンが狙えます。太陽の出現位置と日の出・日の入りの時間も季節によっても変わるし、焼け具合もその都度異なります。家から5〜10分ほどの近場でも、毎日全く違う写真が撮れるのが、焼け写真の楽しいところです。

「焼け空」撮影で知っておきたいこと

空が焼けることを予測して、一番きれいな状態を捉えるためにはどんなコツを押さえればいいのでしょう。うさだだぬきさんが、毎日空をチェックしながら獲得した知識を教えていただきました。

POINT 1 塊の雲ができやすい7~9月が爆焼けの狙い目

焼け空は最も美しいのは夏から初秋にかけて。7~9月頃はダイナミックな焼けが見られることが多いです。その理由は、積乱雲や羊雲など塊の雲ができやすいから。完全に晴れると、沈みかけた太陽の光を受ける雲がないので、オレンジ色の焼け空になるだけです。かといって、太陽の光を遮断する厚雲や全体を覆う薄雲があると焼けません。ある程度の塊で、なおかつ隙間のある雲が爆焼けを起こしやすいです。気温が高い夏場はそういう雲ができやすいため、焼けのチャンスが多くなります。天気予報を見て、日の出・日の入り時刻の直前が曇りのち晴れ、あるいは晴れ時々曇りといった予報だと、最高の空を見られる可能性があります。また、台風の直前・直後は強風で雲が入り乱れて隙間ができやすいので、爆焼けが起こりやすいです。雲の動きも速く、短時間でコロコロと変わる空の表情を楽しめます。

作例
作例

台風の直前の空。たった2分でこれだけ変わります。1回で全く違う表情が撮れるのが台風空の面白いところ。

POINT 2 日の出・日の入りの前後40~50分間が狙い目

綺麗に空が焼けるのは、日の出・日の入りの40~50分前後です。たとえば日没時間が19時なら、余裕をもって18時から待機して20時まで撮影することが多いです。下層の雲が厚く、日の出・日の入りは焼けなかったとしても、諦めて即撤収はせず、粘り強く待機を。少し時間が経って日が昇ってくると、意外にも焼けてくることがあるので、油断は禁物です。

作例

白髭神社で撮影していて、もう焼けないかと車に戻りかけたら、この爆焼け。日の出後もこんなに焼けることがあります。

POINT 3 Googleマップでバーチャルロケハンを

太陽と景色をどう絡めるか、障害物がないかなどをGoogleマップでロケハンをします。花の咲き具合や紅葉、雪の状態などは現地へ行ってチェック。ちなみに、爆焼けの起こりやすい7月は、太陽は北東から北西へ、9月上旬は真東から真西へと移動します。太陽に向かって正体する場合、つまり完全な逆光になる場合は、空の部分だけを減光するGNDフィルター(ハーフNDフィルター)の使用が必須です。その際、空と前景ができるだけ並行になる場所を選んだほうが、境目の後処理(レタッチ)がラクです。

作例

レタッチしやすい構図

作例

レタッチがやや大変な構図
後のレタッチを考えると、水平線がまっすぐで凸凹が少ない構図がおすすめ。GNDフィルターをかけた空部分に入り組んだものがあると、後から円形フィルターとブラシなどで部分処理が必要になります。

POINT 4 朝焼け・夕焼け撮影におすすめのアプリ

朝焼け・夕焼けを確実に捉えるためには、「日の出・日の入りの位置」と「雲の状態」を調べておくことが重要です。僕がよく使う便利なアプリやサイトをご紹介しましょう。

太陽の位置を調べる-「検索サイト」

僕の場合、アプリを使わず、検索サイトで「日の出 日の入り 大阪」とキーワードを入力し、サクッと調べることが多いです。もっと詳しく調べるなら、「サン・サーベイヤー・ライト」などのアプリを使ってもよいでしょう。

雲の状態を調べる-「Windy」

Windyは雲の状態を詳しく調べられるアプリで、上層・中層・下層に分けて確認できるのでとても便利。下層雲が広がっているときは、晴れ間のチャンスはないので撮影は断念。中層雲が広がっているときは、爆焼けの可能性があるので、雲の範囲や風向きを見ながら検討します。最もチャンスがあるのは、上層雲だけのとき。Windyでは薄雲の状態までは分からないので、他の天気予報や雨雲なども見ながら賭けに出ることもあります。数時間ごとに雲の情報が更新されるので、頻繁にチェックしてみてください。

現地の景観を調べる-「Googleマップ」

太陽の位置と雲の状態を確認したら、Googleマップでバーチャルロケハンをします。「ストリートビューと360°ビュー」で、周囲に障害物などがないかも確認しておきます。日の出前の暗い時間帯に到着するときは必須です。

撮影の流れ

現地に到着したら、以下のような流れで撮影を開始!

1. 三脚とカメラをセット

焼けのピークを捉えるために、撮影場所には日の出または日の入りの1時間前に到着するようにします。撮影場所を決めたら、三脚とカメラをセットして構図を詰めます。日の出・日の入りの撮影は、空と地上の輝度差を埋めるためにGNDフィルターを使います。ピントは大体中央付近の遠景、無限遠より少し手前です。絞りはF8~11くらいに設定することが多いです。

*コラム1 落ち着いてセッティングするためにも余裕は大切!

時間に余裕を持って現地に行くことは、焦ってレンズやフィルターを落とす、といった事故を防ぐためにも大切です。とくに日の出前は暗くて手元が狂いやすく、きちんと固定されていなかったガラスフィルターを落下して割る…といった事態が起こりかねません。

2. カメラの設定とフィルターのセット

太陽が地平線より下にある場合
日の出前(日没後)は、フィルター越しの空の明るさに合わせて露出を決めます。強い光源(太陽)がない場合は、前景より空が少し明るい程度なので、GNDフィルターを装着した状態で空の明るさに合わせれば、前景の明るさも確保することができます。

作例

日の出前の写真。太陽が出ていないときは、輝度差はそこまで大きくないので、露出は空の明るさに合わせます。

太陽が地平線よりも上にある場合
太陽が地平線に近いほど太陽光は弱く赤くなりますが、全体が地平線よりも上に出ると一気に光量が増加。そのときこそGNDフィルターが真価を発揮します。太陽部分の白飛びをできるだけ抑えるように少しアンダー気味の露出にすることで、後で綺麗に編集できます。

作例

日の出後の写真。太陽が出ているときは、暗めの露出で白飛びを抑えます。

*コラム2 フィルターがない場合はどうする?

GNDフィルターがない場合は、前景が黒く潰れすぎず、なおかつ空が白飛びしないギリギリの露出を狙います。太陽に合わせた露出にすると前景は黒潰れになり、前景を残そうとすると太陽とその周辺が飛んでしまうためです。最近のカメラのダイナミックレンジは優秀なので、フィルターなしで撮影しても、編集である程度前景のシャドウを起こすことはできます。ただし、色ノイズや輝度ノイズが生じて画質が大幅に低下することは免れません。太陽の光だけを減光できるGNDフィルターは、前景のディティールを残した明るさを確保できるので、ノイズレスの綺麗な画質を得るために必須なのです。

作例

GNDフィルターあり

作例

GNDフィルターなし

GNDフィルターを使わずに後からシャドウを起こすこともできますが、色のりやノイズの出方が全く異なります。GNDフィルターを使ったほうは暗部も綺麗!

作例集

棚田に沈む夕陽を綺麗な画質で切り取る

作例

険しい山々と日本海に挟まれた扇状地の棚田。海に沈む夕陽と棚田へのリフレクションが狙える場所です。撮影日は5月の下旬。水が張られた棚田の稲はやや育っていますが、ギリギリ水面への映り込みが見られました。

撮影のポイント

POINT 1 GNDフィルターでハレーションを防ぐ

太陽を中央に入れた構図なので、フィルターなしで撮影すると棚田が黒潰れを起こしてしまいます。編集でシャドウを上げることもできますが、紫色の偽色が出るので、クオリティはどうしても劣化してしまいます。棚田の前景をノイズレスの美しい画質で仕上げるために、空部分の露出を減光するGNDフィルターを使用しました。また、太陽を直接レンズの画角内に入れるとフレアやゴースト、ハレーションが出ますが、GNDフィルターで減光すると、それらを抑えることもできます。

作例

GNDフィルターありで撮影(現像前)。GNDフィルターを使って輝度差を少なくすると、映り込みまで再現して捉えることができました。

作例

GNDフィルターなしで撮影(現像前)。太陽が飛ばないように空に露出を合わせて撮影すると、手前の棚田は黒く潰れてしまいます。

GNDフィルターあり

GNDフィルターありで撮影(現像後)。減光効果でゴーストが抑えられています。

GNDフィルターなし

GNDフィルターなしで撮影(現像後)。岩場に赤いゴーストが生じています。かなり目立ちます!

POINT 2 雲の映り込みを入れてポイントに

棚田へのリフレクションを狙っていましたが、焼けの赤みがさほど強くなかったので、雲の映り込みを入れてアクセントにしました。太陽を中央に入れたシンプルな日の丸構図は、「前景をどこまで入れるか」がとても重要になってきます。空と棚田の両方を見せたかったので、上下は完全なシンメトリーとなる二分割構図に。棚田のラインは入れ方が難しいところですが、山の稜線と棚田のラインがなんとなく対角線を描くような、気持ちのいい構図を意識しました。

構図

朝日・雲海・紅葉ー「全部盛り」で豪華に見せる

作例

Canon EOS 5D Mark Ⅳ,EF24-70 F2.8 Ⅱ, 33mm, 1/13秒, F8, ISO200, Reverse GND16

京都大江山の鬼嶽稲荷神社は、車で近くまで行くことができる雲海の名勝。撮影日は11月9日、夜中まで雨が降って冷え込んだので、雲海が出やすい条件でした。この日は朝日よりも雲海狙いで撮影に向かっています。雲海の出現情報を調べるのに便利なのが、「雲海出現NAVI」というサイト。立体的な地図で雲海の出現予想と確率を確認することができ、気分盛り上がります。さらに時期的に紅葉も期待できたのでGoogleマップを使ったロケハンで色づき具合もチェック。

POINT 1 GNDフィルターで朝日を減光する

朝日が昇ってくる状態だったので、フィルターなしで朝日に露出を合わせて撮影すると紅葉が黒く潰れてしまいます。輝度差を埋めて紅葉の色合いを出すためにGNDフィルターを装着し、空の部分を減光しました。

作例

編集前のRAWデータ。太陽が白飛びしないよう、このくらい暗めの露出で撮影しておきます。

POINT 2「構図」  額縁構図で全ての要素を入れる

太陽を真ん中にして、額縁構図にしています。右の松を入れるかどうか悩み、望遠で切り取ってみましたが、いまひとつパンチの足りない構図になってしまいました。太陽、雲海、紅葉の全てを入れるのがここでの構図の正解と判断し、あえて右の松を入れた構図に整えました。

作例

望遠で太陽と雲海、V字の前景だけを切り取ってみました。すっきりしすぎて何か物足りない。

近所の河原を非日常的に切り取る

作例

Canon EOS 5D Mark Ⅳ, EF24-70 F2.8 Ⅱ, 24mm, 1/20秒, F8, ISO200, Reverse GND16

家からほど近い河川敷で撮影した夕焼けです。会社にはいつもカメラを持って行きますが、フィルターを使ってしっかり撮りたいときは三脚が必須なので、一度帰宅してからカメラリュックを背負ってフル装備で撮影に向かいます。

POINT 1 中洲のグリーンを出すために夕陽を減光する

ここでも焼け空に必須のGNDフィルターを使っています。フィルターのある・なしでは、画面中央から右側にある中洲の樹々の色とクオリティが違ってきます。フィルターがないと、シャドウを持ち上げてもザラザラで立体感に乏しいディテールになります。川面への映り込みも、現像前からきれいに見えているので、無理にシャドウを持ち上げる必要がありません。

作例

GNDフィルターあり(現像前)

作例

現像後

フィルターを使って撮影すると、川面への映り込みまできれいに見えます。中洲のグリーンも再現されてノイズも少ない写真に。

作例

GNDフィルターなし(現像前)

作例

現像後

フィルターなしでアンダー気味で撮影すると、輝度差が大きく、川面への映り込みはあまり見えません。シャドウを持ち上げると色ノイズが目立ちます。

POINT 2 「美味しいところ」をフレームに入れる

リフレクションを狙うときは、上と下の対比が大事です。上の焼けのボリュームと、下のリフレクションのボリュームが異なると、今ひとつバランスの悪い、パッとしない構図になりがちです。最も焼けている見せ場を、リフレクションにも入れて切り取るようにします。

作例

一番焼けている部分のリフレクションを切ってしまうと、頭でっかちな印象です。

POINT 3 レタッチで理想の焼け空に仕上げていく

RAW現像とレタッチは、ほぼAdobe LightroomCCで完結します。見たときの感動を伝えたいので、記憶に残っている印象色に仕上げていきます。流れは、①焼け用に作ったプリセット(シャドウを上げ、ハイライトを下げる)を当てる→②フィルターの境目を円形フィルターや段階フィルターで調整する→③全体を微調整する、といった感じです。②の作業をラクにするためにも、地平線や水平線と空の境目が凸凹していない構図で撮影しておくことが重要です。

作例

Before RAW現像&レタッチ前

作例

After RAW現像&レタッチ後

作例

空の明るい部分の色を引き締めるために、円形フィルターを大きめに使って、ハイライトを下げてシャドウを上げるなど微調整します。

作例

夕焼けの赤みを強調するために、ホワイトバランスをやや暖かめに調整します。

作例

境目が凸凹しているときは、ブラシツールで1つ1つ選択して調整していきます。


うさだだぬき

1991年生まれ。2014年から景色写真を撮り始め、2016年にハウススタジオのカメラマンとして勤務。その後ブライダルフォトグラファーを経験し現在は広告系スタジオに勤務しつつ、SNSで景色写真を公開している。

うさだだぬき