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スローシャッターで引き波の魅力を写し出す

スローシャッターで引き波の魅力を写し出す

長時間露光で海を撮ると、波の軌跡が線として描かれます。寄せ波、引き波、岩に当たり砕け散る波、それぞれ表情が異なります。とくに軌跡が美しいのは、引き波の表情。Katsuraさんに、撮り方のポイントをうかがいました。

目次

芸術的な線を描く引き波を捉えたい

海の写真を手持ちで普通に撮ると、波の一瞬の動きが止まって写ります。ところが長時間露光で撮影すると、波の様々な動きが1枚の写真の中に納められ、情報が整理されます。波には寄せ波と引き波がありますが、とくに私は引き波に魅了されます。寄せ波は岩場などにぶつかると飛沫が飛び散り迫力のある描写になりますが、引き波は滑らかな曲線や直線を描き、静かで芸術的な描写になります。砂浜の魅力をいちばん引き出せるのは、引き波ではないかと感じています。

美しい引き波を切り取る3つのポイント

引き波は季節を問わず、1年中撮影できる被写体です。ただし、夏場は海水浴客が多く、夜に現地に到着しても駐車場が混んでいるので、あまりオススメしません。撮影する時間帯は早朝か夕方がほとんどです。昼間は明るすぎるので、よほど雲の表情が良いなどの特別な理由がない限り、滅多に撮影しません。美しい引き波を撮るためには、次のようなポイントを意識しています。

POINT1 直線は砂浜、曲線は岩場を探す

引き波の軌跡を直線で長く表現したい場合は、遠浅でなだらかな砂浜を選びます。岩場は波が回り込んで曲線を描くので、変化に富んだ動きのある表現になります。直線を描く緩やかな砂浜でも、流木や石・岩、流氷などの障害物があると、波はそれらを避けて回り込むため、曲線が生じてアクセントになります。何もない場合は移動して流木を置いたりしますが、小さいものだと波に揉まれるうちに埋まってしまうこともあります。最初の頃はGoogle マップなどで場所を探していましたが、最近は伊豆や千葉にある定番スポットに向かうことがほとんどです。

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岩やテトラポットなどに回り込むとユニークな軌跡になります。NIKON D7000, AF-S DX NIKKOR 10-24mm f/3.5-4.5G ED, 10mm(15mm相当), 1/2秒, F22, ISO100, ミディアムGND16

POINT2 強めの風で白波があること

長時間露光で撮る波は、空気を含んで白くなった部分が線として描かれるので、白波の存在が非常に重要です。白波は少し風があったほうが立ちやすのですが、かといって強風で荒いと真っ白でペタッとした表現になってしまいます。やや強めの風が出ているときが理想で、無風のときは何時間待っても撮れないこともあります。

POINT3 曇りで雲があること

長時間露光にすると雲も流れるので、快晴よりも曇りの日のほうが表現の幅が広がります。曇天で雨が降りそうなときほど、嬉々として撮影に行きます。長時間露光は曇りの日が好きになる撮影方法です。

台風

台風が近い日はドラマチックな空が撮れます。NIKON D7000, AF-S DX NIKKOR 10-24mm f/3.5-4.5G ED, 11mm(16mm相当), 1/2秒, F16, ISO100, ミディアムGND16

雲のない日

雲のない日は空の表情が少なく優等生な感じ。NIKON D7000, AF-S DX NIKKOR 10-24mm f/3.5-4.5G ED, 11mm(16mm相当), 1/2秒, F22, ISO100, ミディアムGND16

波を撮る機材とアクセサリー

長時間露光で波を撮るためには、カメラとレンズのほかに、いくつかの装備やアクセサリーが必要になります。私は以下のようなものを準備しています。

  • カメラ
    Nikon D 7000を8年ほど使っています。安くてちゃんと撮れるカメラなので気に入っていて、今では同じカメラを3台目です。
  • レンズ
    雲と波の流れをダイナミックに切り取りたいので、広角レンズの10-24 mm F3.5-4.5を使うことが多いです。10mmで35mm判換算だと15mmくらい。手前から奥までピントを合わせる目的と、光量を抑える目的でF16程度まで絞るので、開放絞り値が小さいレンズはとくに必要ありません。
  • GNDフィルター
    GNDフィルターを使う理由は2つあります。1つは空に雲がある場合、陰影が出て迫力のある空を表現することができるからです。後からレタッチするより、現場でモニターを確認したほうがテンションが上がり、表現を追い込むこともできるので、結果的にいい写真が撮れます。2つめは、シャッター速度を遅くするためです。減光することで光量を調整できるので、日が昇った状態でも1/2〜1秒のシャッター速度にすることができます。ミディアムGNDは濃さやグラデーションのバランスが良くて使いやすく、フィルターを上下すれば濃度を微調整できます。
  • 三脚
    波打ち際に入ったりすることも多く、波風の影響を受けてぶれやすいので、できるだけ堅牢で太い三脚が理想です。ローアングルにもスムーズに対応できる開脚タイプがオススメ。
  • レリーズ
    シャッターボタンを押し込んだときのブレが生じないよう、レリーズを使用します。

撮影の流れをチェック!

朝日が昇る前から現地に行き、やや明るくなってきた頃から撮影を開始。まずは構図を探します。流木や岩など障害物がある場所を見つけてフレーミングし、三脚・カメラ・レンズ・フィルターをセットします。明るくなってきたら露出を調整して、シャッター速度を上げすぎないようにフィルターで調整します。

POINT1 シャッター速度は1秒前後で撮影する

引き波の軌跡は、長時間露光で描きます。シャッター速度は1/2秒〜1秒程度が基準。風が弱く波があまりないときはシャッター速度をやや長めにし、荒波で波の動きがダイナミックなときは短めに調整します。

POINT2 低めのアングルから撮影

迫りくる波の迫力を出すため、できるだけ波に近づいて撮影したいので、波打ち際ギリギリに三脚の脚を目一杯広げてローアングルにセットしています。波が荒いときは、三脚にカメラを装着した状態で持ち運び、大きな波がきたら素早く退散できるようにしています。

POINT3 ピントは無限遠から少し戻した場所に設定

強い波がくると急いで退避したりと慌ただしく撮影しているので、いちいち繊細にピント合わせをしている余裕がありません。そのため、いつでも感覚的にサッと合わせられるよう、ピント位置は無限遠からやや戻した位置に決定。テープで固定しても移動するうちにずれてしまうので、決めたピント位置にすぐに戻せることが最善策です。絞りはF16程度まで絞っているので、手前から奥までピントが合います。

POINT4 雲と波を入れるなら縦構図がオススメ

波と空の両方を入れようとすると、自ずと縦構図を選択することが多くなります。海外の長時間露光作品に縦構図が多いことや、SNSに投稿してスマホで見る際にできるだけ大きく見せたいことも縦構図を選ぶ理由です。とはいえ、可能な限りバリエーションを多く撮りたいので、シーンによって縦横両方撮ることもあります。その都度波が描く線が違うので、何枚もシャッターを切ります。

POINT5 波が引いてちょっと遅れたタイミングでシャッターを押す

波が引く時に白い軌跡が出るので、シャッターを押すタイミングが肝になります。イメージとしては、波が引く瞬間からワンテンポ遅れたくらいにシャッターを押します。

COLUMN

RAW現像はPhotoshopのCamera Rawを使っていますが、露光量とホワイトバランスを少し調整する程度で、大きくは調整しません。GNDフィルターを使って現場で雲の表情をしっかり出しておけば、レタッチで強調しなくても見応えのある写真になります。海外の作風が好きなので、PhotoshopでOrtonエフェクトなどのレタッチを加えています。マットな質感のほうが滑らかに見える気がします。

シーン別/撮り方のポイント

その1 引き波の方向で視線誘導をする

中央へ

中央に向かって真っ直ぐに引いていく波が未来に視線を誘導するかのようです。NIKON D7000, AF-S DX NIKKOR 10-24mm f/3.5-4.5G ED, 11mm(16mm相当), 1/2秒, F22, ISO100, ミディアムGND16

画面の外へ

画面の外へと波が向かい、壮大な海の存在を感じさせます。NIKON D7000, AF-S DX NIKKOR 10-24mm f/3.5-4.5G ED, 11mm(16mm相当), 1/2秒, F20, ISO100, ミディアムGND16

もっともベーシックなのは、引いていく波を細い直線でとらえる撮り方です。波の状態はその都度違うので、何枚も撮ってもっとも白い筋のバランスがいいものを選びます。

●撮影のポイント

POINT1 波の筋で視線を誘導する

構図は波と雲の方向性で、視線誘導をすることを意識しています。左の写真は上下左右にシンメトリーで、シンプルに中央の明るい部分に向かって視線が向かうような構図、右の写真は左の方向に向かってややカーブを描き、フレームから外れている太陽の存在を想像するような構図にしています。いずれも、雲の動きと合わせて視線誘導の相乗効果を狙います。

波の軌跡
波の軌跡

波の軌跡で見る人の視線を誘うことができます。

POINT2 ミディアムGND16を使用

引き波は空の部分にGNDフィルターをかけて、空との輝度差を少なくし、雲のコントラストを出します。GNDフィルターのグラデーションのかかり方はソフト、ミディアム、ハードがありますが、ソフトとハードの中間のミディアムが使いやすく気に入っています。フィルターを上下することで濃度を調整できます。

PONT3 1/2秒の長時間露光

1/2秒はもっともよく使うシャッター速度です。絞りはスローシャッターを得るために、F16~22に設定することが多いです。

その2 岩を入れて曲線をアクセントにする

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早朝に朝日が差し込んでいる状態です。NIKON D7000, AF-S DX NIKKOR 10-24mm f/3.5-4.5G ED, 10mm(15mm相当), 1/2秒, F20, ISO100, ミディアムGND16

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天気が悪く、高波の暴風で大変な思いをして撮った1枚。NIKON D7000, AF-S DX NIKKOR 10-24mm f/3.5-4.5G ED, 11mm(16mm相当), 1/2秒, F16, ISO100, ミディアムGND16

波は岩や石などの障害物を迂回するので、軌跡は曲線になります。ただ真っ直ぐに引いていく波に比べ、曲線がアクセントに入っていたほうが写真に変化が出ます。

●撮影のポイント

POINT1 引き波が障害物に当たった時にシャッターを押す

最初は白波をよく観察しましょう。引いていく波を何度も見ていると、流れ方のパターンがわかってくるので、その上でシャッターを押すタイミングをつかみます。引き波が岩や石などの障害物に当たった時にシャッターを押す感じです。

POINT2 雲と波の方向性を合わせる

左の写真は引き波の方向と雲の方向が並行になり、明るい方向へと視線が誘導されるのがわかります。右の写真は暴風であまりじっくり撮る余裕がなかったので、岩を中央に配置してうねりを主役にフレーミングしました。荒々しさが主役になっています。

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雲の流れと波の流れが並行で、時間の流れを感じさせます。

COLUMN 寄せ波の場合は迫力を切り取ろう

構図は波と雲の方向性で、視線誘導をすることを意識しています。左の写真は上下左右にシンメトリーで、シンプルに中央の明るい部分に向かって視線が向かうような構図、右の写真は左の方向に向かってややカーブを描き、フレームから外れている太陽の存在を想像するような構図にしています。いずれも、雲の動きと合わせて視線誘導の相乗効果を狙います。

作例
作例

雲の陰影を出すために、GNDフィルターを使用。フィルターを使って減光することで、雲の陰影と、青空を同時に見せることができます。NIKON D7000, AF-S DX NIKKOR 10-24mm f/3.5-4.5G ED, 11mm(16mm相当), 1/2秒, F18, ISO100, ミディアムGND16

岩場などでは寄せ波を狙うこともあります。静かな引き波に比べて、荒々しく迫力のある写真になります。手前にある岩に波が当たって流れる瞬間を長時間露光でとらえることで、砕ける波と、岩を這うように流れる波の、両方の描写を躍動感と共にとらえることができます。当たる波の様々な動きをとらえるために、シャッター速度は1秒前後に設定。シャッターを押すタイミングは、波が岩に当たって流れ落ちる瞬間です。タイミングが合うと、滝のような描写になります。長時間露光により、飛沫と陰影のある雲が生まれ、迫力のある写真が撮れます。


Hiromasa Katsura

SNSコミュニティ LONG EXPOSURE JAPAN 運営代表。空と海のある風景が好きで、一眼レフカメラを購入し風景写真を撮り始める。その後、海外写真家の長時間露光写真を見たことがきっかけで、長時間露光の世界に魅了され、関東近郊の海岸で撮影をしている。

Hiromasa Katsura