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「 PLフィルター × 曇天 」で革新的長時間露光撮影を

「 PLフィルター × 曇天 」で革新的長時間露光撮影を

普通なら撮影を諦めてしまう曇天でも、個性的な作品を作るチャンスがある。フィルターの特性を把握し、上手に活用することで、積極的な表現効果を狙うことができるのです。今回は「長時間露光 × PLフィルター × 曇天」をキーワードに、PLフィルターによる反射のコントロールで独特な質感を演出。その撮影手法を、北海道在住の写真家・久保陽平さんが解説します。

目次

PLフィルターがもたらす新しい表現

PLフィルターは、青空を濃く描写したい、大気中の霞を除去して風景をくっきり描写したい、花の色を濃くしたいなどの場面での使用が一般的だと思います。しかしもう一歩進んで、湖や海などの水面の反射をコントロールして表現を工夫し、作品性を高めるといった使い方も可能です。今回は、水面の反射をコントロールすることで実現できる面白い表現を、みなさんに提案したいと思います。
キーワードは「長時間露光 × PLフィルター × 曇天」。長時間露光は現在、とてもポピュラーな表現の方法で、すでに取り組んでいる方もいらっしゃると思います。しかし、PLと組み合わせて、しかも一般的には旨味の少ない曇天を狙って撮影する方はあまりいらっしゃらないのではないかと思います。今回は、そんな条件でも撮影できる、一味違う長時間露光作品を生み出すヒントをお渡ししたいと思います。

効果的なロケーション

まずロケーションですが、水がある場所、効果を最大限活かして作品にするのに適した場所は、海か湖になります。さらに言うと、水面から近い場所ではなく、崖の上や展望台などの水面から離れている場所だと、より効果的です。
また、時間帯は夜以外であればいつでも狙う事ができます。天候に関しては、危険がおよばなければどんな天候でも問題ありませんが、快晴すぎるとPLの効果が薄いので要注意です。今回のキーワードは「長時間露光 × PLフィルター × 曇天」ですので、日中の曇天を積極的に狙いましょう。そうする事で、通常は撮影が楽しくない天候や時間帯でも、楽しく撮影ができるようになると思います。

フィルター効果の比較

それでは具体的に、ND+PLフィルターを使った効果を見て行きましょう。JPEG撮って出しと、RAWデータを現像・レタッチしたものを、PLの有無に焦点を当てて紹介します。まずは、単純なPLの有無からです。

作例
作例

(左) PL無し (右) PL有り

PL有りの方は、水面の反射や大気中の反射が取れ、コントラストがPL無しに比べ高くなっています。水面の反射が取れたことによって、積丹ブルーと呼ばれる北海道積丹半島周辺の海の青さが、曇天にもかかわらず浮き出ています。肉眼では、曇天のグレーが海面に反射してしまい、海の青さはわかりづらいのですが、PLを使用する事で、その問題を解決する事ができました。
さらにここから、長時間露光とRAW現像とレタッチを加えたものが次の写真になります。

作例
作例

(左) PL無し長時間露光 (右) PL有り長時間露光 ※レタッチのパラメータは同じ設定です。

海面の反射が抑えられたことによって、積丹ブルーをより鮮やかに表現できました。さらに、撮影している間に太陽が出てきたことによって、コントラストがグッと上がり、ドラマチックな景色になってくれました。
続いて、完全な曇天の時に今回の方法で撮影したものが、次の2枚になります。

作例
作例

(左) NDのみ (右)ND+ PL ※レタッチのパラメータは同じ設定です。

作例

F8, 121秒, ND+PL

どちらの写真も、積丹半島の付け根部分にあたる場所になります。
そのため、海の青さも積丹ブルーに通ずるものがあり、非常に美しい青色をしているのです。そんな海の風景を、あえて曇天の日にPL +長時間露光で撮影することにより、通常の長時間露光では得ることのできない、海の反射を抑えたマット感のある独特な表現になりました。
この写真を撮影した時も、PLと長時間露光を組み合わせることによって、時化ている曇天の海を、静けさを感じる穏やかな海に変貌させる事で、一味違った面白さのある写真表現ができました。
このようにPLを使い反射をコントロールする事で、表現の幅をグッと広げる事が可能なのです。

NDの濃度と露光時間

長時間露光を日中や曇天で行うために使用するNDフィルターは、基本的には濃度の高いものを使用します。最低でもND1000、私は日中だとND32000を使用しています。日の出や日没の時間帯にはND256、曇天の日の出や日没の時間帯はND16からND32位を目安としてください。
露光時間は、最低でも1分は欲しいところです。1分間の露光で、海や湖の水面は非常にスムーズになりますが、可能であれば2分以上の露光が望ましいです。2分以上の長時間露光では雲も大きく流れていくため、幻想的な描写が可能になります。

作例

f11, 423秒, ND+PL

上の写真は、室蘭市の地球岬にて撮影しました。みなさんあまりイメージはないと思いますが、室蘭市が面している噴火湾も実は美しいブルーをしています。
この時は、PLとND32000を組み合わせ、7分間の露光を行いました。曇天だった空の切れ間から太陽がのぞき、ドラマチックなコントラストを生み出し、海のブルーも非常に美しいグラデーションを描くという嬉しい誤算もあり、どこか不思議な地球岬の写真になったのです。
また、7分間という露光時間が生み出す雲の大きな動きも、この写真に非常に良い影響を与えたと思います。写真右奥には駒ヶ岳が見えますが、これもPLで大気中の反射を抑えたことによってはっきりと認識できるようになったのです。
私は、ポピュラーな場所であればあるほど、他の方が撮影した写真と違って見えるように、自身の作風をいかに表現する事ができるかを楽しみにしています。この時の撮影は、そんな手応えを強く感じさせてくれるものでした。

撮影方法:まとめ

  • 狙うのは「曇天」
  • あまり水面に寄りすぎるとPLの効果がわかりづらい
  • NDフィルターは濃度の高いものを使用する
  • 露光時間は最低1分、2分以上を推奨

フィルターの組み合わせとアイディアで広がる可能性

今回は長時間露光にPLと曇天という2つの要素を追加する事で、新しいビジュアルの風景写真を生み出す事ができたと思います。
曇天という、撮影には不向きな条件ですら守備範囲にする事で、さらに多くの決定的瞬間や、美しさに気づけるようになるかもしれません。そうすれば、さらに撮影が楽しくなるはずです。単にカメラの性能を補うためのフィルターワークではなく、アート表現としてのフィルターワークを積極的に取り入れることによって、他の人とは一味違う、自分だけの写真表現を生み出してください。


久保 陽平 Yohei Kubo

1990年北海道札幌市在住。
大学卒業後、広告会社とブライダル写真館にてカメラマンとして従事。2019年9月に独立をし、フリーランスフォトグラファーに。現在は井上浩輝氏のアシスタントを行いつつ、北海道の風景を撮影、雑誌への寄稿、その他の撮影を行っている。

久保 陽平