角型ホルダー「V7」でフィルターだけが描き出せる世界を魅せる by 中西敏貴×GOTO AKI
中西敏貴×GOTO AKI 「V7」ダブルインプレッション
シンプルで直感的な操作性となった100mm角型フィルターホルダー最新モデル「V7」。付属する「CPLフィルター」は光学系を一新し、PLフィルターの色被りを極限まで排除。今回はそんなV7を使ったインプレッションをお届けします。親交の深い2人の風景写真家・中西敏貴さんとGOTO AKIさんに、V7ホルダーと各種フィルターを使って北海道の風景を存分に切り取っていただきました。
手に伝わる操作感とロック機構による安心感
——率直に「V7」の使い心地はいかがでしたか?
中西 前モデルの「V5」から使っている感想としては、今回のホルダーフレームに採用されている「ロッキングスクリュー」で装着からロックまでの操作感が非常によくなりました。ホルダーフレームから「カチッ!」という感触が手から伝わって、しっかり装着されたということが感覚でわかるので、慣れれば暗闇の中でも問題なく付けられそう、というのが第一印象でした。一時間も使えば二人とも慣れてきて、実際にいちいち目視で確認しなくても操作できるようになっていました。
AKI 僕は今回初めてNiSiさんの角型ホルダーを使ったんですけど、ロック機構が付いているのはホントいいですよね。今回の撮影では結構風が吹いていたんですが、ホルダーが風を受けて揺られると落ちないか心配になりますが、こういうロック機構があるのはとても安心です。
中西 今回のV7はワンタッチでカチっとはめられて、そこから手を離さずにそのままロックまでできるのも良いですね。マグネット式のロック機構と比べても手数が少ないので、すぐに撮影に集中できます。
——装着との一連の動作でロックまでできるという操作感にはこだわりました。
中西 あとはなにより、CPLフィルターのちょっとのひねりで着脱できる機構は画期的だなと思いました。PLが必要なシーン、外したいシーンに出会った時にワンタッチで外せるというのは“手数が減る”という意味でとてもメリットがあります。
AKI 僕はもう少し深く回ってもいいかなぁ…と思いました。撮影現場でいいシーンに出くわすと、結構アタフタして(笑) 撮らなきゃってカメラを動かしているときにPLが外れてしまわないか、心配になるのでもう少し深くてもいいかなって…。
中西 実際には検証されているとは思うんですけど、まあ精神的な安心感ということですよね(笑)。
——そうですね。たしかにねじ込み式に比べると非常に浅いので心配になるかもしれませんが、実際には振り回しても外れないくらいしっかり装着されています。
AKI なるほど。円形フィルターを締めすぎて取れなくなる恐怖を過去に味わってるから、僕は自然とフィルターを締め付けるのを手加減する癖がついているからかもしれないです(笑)。
——「クイックマウントシステム」は、ねじ込み式と比べて操作が早いのもそうですが、フィルターを締め付けすぎて外れなくなる、ということも起きないですね。
色表現と描写で見る新設計のCPLフィルターの効果
撮影:GOTO AKI 100mm, f8, 1/800
撮影:GOTO AKI 100mm, f8, 1/640, CPLフィルター
AKI 北海道の「青い池」の写真ですね。両方とも撮ったままそのままJPEGに落とし込んだだけです。
——水の色の写り方が全然違いますね。青い池には行ったことがあるんですけど、ターコイズブルーというか、独特な青みをしていますよね。
AKI PLフィルターは、反射をコントロールすることで“色の表現”ができるフィルターなんですよね。青い池の色を撮りたいと思って実際に行ってみても、表面反射で表現が難しいんです。紅葉も、晴れている日だと葉の表面に光が反射して、色じゃなくて光の反射が映ることになっちゃいます。色を撮りたいってときにこれを使って上げると、被写体本来の色味が濁ることなく出てくれるので、目で見たものを強く表現したいっていう方や、あとで現像などで色濃くしないで、撮る時にそれができるというのも一ついいかなと思います。
撮影:中西敏貴 159mm, f10, 30秒, CPLフィルター
撮影:中西敏貴 200mm, f5, 30秒, CPLフィルター
中西 僕の方は日が落ちる寸前の暗い時間帯をアンダー気味で撮影したものです。PLフィルターを効かせることでコントラストが高まり、黒がしっかり締まってくれますね。フィルターを付けるとどうしても色がひと濁りしちゃうのですが、このTrue Color PLフィルターに関しては淡く染まる空の色も濁ることなく、抜けの良い印象でした。
高濃度NDフィルターの可能性と、ライトリークのない設計を実感する
撮影:GOTO AKI 15mm, f16, 6秒, NDフィルター2000
撮影:GOTO AKI 15mm, f16, 1分43秒, NDフィルター32000
中西 ND2000の写真は秒数でどれくらいでしたっけ?
AKI 6秒だったかな? ND32000で1分40秒とかでしょうか。15段分も減光する高濃度NDなので色被りがどれだけ出るのかちょっと懸念していたんですけど、全然使えるレベルどころか…。
中西 比較してみてもほぼ気にならないくらい非常にニュートラルですよね。
——調整はされているんですか?
AKI Canonの「Digital Photo Professional」を使って補正してます。この写真は一番極端な例で、基本は大体2.0~4.0の間でマゼンタからグリーンにちょっとふるだけ。2秒で終わります(笑)。ムラで出ないですし、作業が楽でした。
—じゃあお二人の作品撮りにも使えるレベルだということで…?
中西 問題ないどころか、逆に二人してびっくりした感じです。
AKI そもそもこれまでフィルターを重ねて使うってことをなるべく避ける傾向にあったから、今回も最初はPLフィルターとNDフィルターを同時に使って良いものかって思ってましたけど、途中から気にならなくなりました。
中西 そうですよね。透過率が高いんでしょうか?
——そうですね。重ねても解像度への影響はプロの方でも気にならないレベルだと思います。
中西 解像度に関しては等倍にしてじっくり見比べて、ちょっと差があるかな? 程度だと思いますよ。レンズむき出しに比べたら物理的になにかしらの影響はでるわけで、それでも別の表現をするっていうのがフィルターの役目という中で、解像度や色かぶりを最小限の影響で留められているところはすごく立派だなと思いました。
AKI あと、NiSiさんの角型フィルターには遮光ガスケットがついているじゃないですか? 以前使った角型フィルターが斜めからの光にすごい弱くて、それで円形フィルターをずっと使っていたんですけど、今回NiSiさんのフィルターを使わせていただいて、そういったことの有害光みたいなものが防がれていたのがすごくありがたかったです。
——ライトリークが無い設計で、長時間露光をしても光漏れによるフレアが写真に出ないと思います。
中西 実は最初AKIさんはフィルターを斜めに差し込んじゃってたんですよ。「中西さん、なんか光漏れるんだけど~」って。それでちゃんとはめたら光漏れがピタッとなくなったんです。
AKI 二人して「なるほどね」って。失敗したおかげでこのガスケットの効果がよく分かりました(笑)。
フィルターで“肉眼では見えない世界”を描く
撮影:GOTO AKI 35mm, f16, 1/250
撮影:GOTO AKI 15mm, f16, 8秒, NDフィルター2000
撮影:GOTO AKI 35mm, f16, 2分11秒, NDフィルター32000
中西 相当質感が変化していきますよね。
AKI ND32000を使って昼間でこの写真が撮れるのはなかなか良いなと思いましたね。
中西 かなり暗く見えるんですけど、日中のかなり明るい時間に撮ってるんです。この表現ができるのは、ちょっと武器になるかもしれないなぁという気になりました。
撮影:GOTO AKI 114mm, f11, 1/500
撮影:GOTO AKI 114mm, f11, 6秒, ND2000
撮影:GOTO AKI 114mm, f11, 30秒, ND32000
AKI ND2000やND1000でも結構スローシャッターになるイメージだったんですけど、ND32000を使ったあとだとまだまだ質感が残ってるって思っちゃいますね。アマチュアの方で1000くらいまでは使っているのを見かけますけど、それ以上は使っている人絶対少ないですよね。だけど、僕は使います(笑)。めちゃくちゃおもしろかった! 作品作りでこれからND32000は積極的に使いますよ、ホントに。一枚で昼間にこれだけ長くシャッター開けられるフィルターは他にないですから。
——AKIさんに使っていただいて「これどうやっているんだろう?」って思ってもらえたらND32000を使ってくださる方も増えると思います。
中西 この写真の山肌を見てもらえればわかると思うんですけど、明らかに昼間なんですよね。なのに、これだけ(雲が)流れているということは、少なくとも30秒~1分以上は流しているってことだから、それって通常のフィルターではなし得ないことなので、人と違う、自分にしか見えない世界を描くっていう意味では「人の使ってないフィルターをください!」っていうのが良いかもしれないですね(笑)。
撮影:GOTO AKI 238mm, f8, 1/125
撮影:GOTO AKI 238mm, f11, 30秒, ND2000
中西 なんでも無いといったらあれですけど、こういう景色もND2000を使うとこうなってしまうわけです。
——抽象画みたいですよね。夕焼けの空みたいです。
AKI 時間は30秒くらいです。水面が揺れているのでそのくらいのスローシャッターでもこういった写真になります。
中西 こういう感じで写真でしか描けない世界を体験させてくれるので、NDフィルターの効果は大きいですよね。
AKI NDフィルターを使う時、ND1000までの数値は頭に入ってるんですけど、32000となるとさすがに(笑)。そうしたら中西さんからアプリがあるって聞いて、使ってみたらアプリで出てきた秒数はほぼ適正露出。長くなるとズレてくる傾向にあるじゃないですか? 現場の光量の増減があるのでそういう可変的な要素を差し引いても、出てくる数値が信頼できるアプリだったので、めちゃくちゃ助かりましたね。
中西 高濃度NDを使う人はこれである程度目安がわかるじゃないですか? 1分露光なのか3分露光なのかは、32000とかになると予想もつかないんですよね。このアプリのおかげでおおよそ外さず撮れるというのは…まあまた“手数”の話になっちゃうんですけど(笑)。結局3分露光したら3分のノイズ低減がかかるから合計6分かかるんですよね。ノイズ低減をオフにしてしまうと、現像の手数が増えるので、なるべく現場で収めておきたいんです。失敗しないためにも、このアプリを起動しておけば、6分が無駄にならなくて済みますよね。
撮影:中西敏貴 98mm, f11, 1/20, GNDフィルター
中西 これは別日で撮ったものなんですけど、GNDフィルターを使った写真です。GNDの8かな? 空の部分だけグラデーションフィルターをかけて地上部分はそのままの露光。上に濃さをだして、露出差を縮めたという感じです。
AKI このぐらいだったらいいですよね~。使っているのに使ってないように見せる! さすがプロだな~(笑)。
中西 3年使ってますから(笑)。僕がGNDを使う理由は、現像でゴリゴリ触りたくないだけなんです。シンプルに“手数”を減らすために現場で仕上げておくってことですよね。ある程度露出差を縮めておけば現像が楽だなって。ただそれだけです。
——今回お二人同時に現場にいっていただいて、お互いやっていることをみて、32000面白そうだなとか、GNDも使ってみたいと思っていただけたのが良かったなと感じました。
中西 同じ現場でも見ている方向によって使うフィルターって変わるんだなって。一人で使ってると、こういう場面はこれだなって決め込んじゃう傾向にあるんですけど、横でぜんぜん違う使い方をしている人がいるとかなり刺激にはなりましたよね。AKIさんは光のないところで32000を使っていて、僕は光のある方で1000を使うと当然秒数も変わってきて表現が変わってくるので、その辺はフィルターの使い分けっていう意味でも、差は見せられたかなと思います。この企画継続したいなって話をしていたんです。
AKI 今度は中西さんを関東の山につれていきたいですね。僕がガイドしますよ(笑)。
中西敏貴 Toshiki Nakanishi
1971年大阪生まれ。1989年頃から北海道へと通い続け、2012年に撮影拠点である美瑛町へ移住。農の風景とそこに暮らす人々をモチーフに撮影を行う。近年は大雪山とその麓に広がる原生林にも意識を広げながら、自然の造形や、生命、人間との関わりへの視点を深化させ、理想とする風景のあり方を探っている。2020年9月、キヤノンギャラリーSにおいて写真展「Kamuy」を開催。日本写真家協会会員、日本風景写真家協会会員、日本風景写真協会指導会員、Mind Shift GEARアンバサダー
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GOTO AKI
1972年 川崎市生まれ。1993年の世界一周の旅から現在まで56カ国を巡る。風景撮影に自然科学の視点とスナップ撮影の手法を取り入れ、新たな日本の風景写真を生み出している。2015年「キヤノンカレンダー」にて第66回全国カレンダー展日本商工会議所会頭賞受賞。2019年「terra」(写真展/キヤノンギャラリーS ・写真集/赤々舎 )にて、2020年日本写真協会賞新人賞受賞。武蔵野美術大学造形構想学部映像学科・日本大学芸術学部写真学科 非常勤講師
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