「ゆる鉄にもS L撮影にも使えるGNDフィルター」by 中井精也
鉄道写真家・中井精也
旅情を感じる鉄道写真を得意とする中井精也さん。とりわけ優しくて温かい「ゆる鉄」の作風は、中井さんの人柄そのものです。ここでは「ゆる鉄」と、ダイナミックで重厚な「SL」の2つの作品について、GNDフィルターを使った撮り方を教えていただきました。
撮り方1 ハイキー+GNDフィルターで空の色を出す
GNDで空の青と雲のディテールを出す
新しくできた単線のローカル線、鹿島臨海鉄道で撮影をしてきました。高架線がないので、空にかかる鉄橋を列車が走るような、幻想的な写真を撮ることができます。鉄橋のカーブを表現するために、16mmの広角を使って伸び伸びとした構図にしようと考えました。
僕は明るめの露出で優しく温かい感じに仕上げる「ゆる鉄」という作風を好んで撮るのですが、ハイキーにすると空が飛んでしまうのが悩みどころです。比較カットを見るとわかるように、1.3段明るくすると空が真っ白に。情報のない大きな白い空間は間延びしてしまうので、僕は「白い空は親の仇」とよく言っています(笑)。この場合、空が飛ばない程度の露出で撮影しておき、RAW現像で段階フィルターをかけ、地上の部分だけを明るく起こすといった編集が必要になります。しかし、明るく持ち上げれば画像が劣化してしまいます。そこで撮影段階でGNDフィルターを使って空の部分だけ減光すると、青い空の色と雲のディテールが出てきます。シャドウを上げることと、ガラスによる光の劣化は、比べ物にならないほどフィルターのほうが綺麗。以前、プラスチック製のGNDフィルターを使ったことはあったのですが、補正が必要なくらい紫色の色被りが出現したため、それ以来使っていませんでした。NiSiのGNDフィルターはガラス製なので劣化がほぼなく、明暗差をうまく使って普段は撮れない写真が楽しめます。
フィルターなし
フィルターあり
GNDフィルターの境目と、鉄橋のカーブが合うように角度を調節するのがコツ。地面の部分をカットすることで、空に鉄橋がかかっているような雰囲気に。
ハードGNDフィルターで境目を明確に出す
最初はグラデーションの境目の幅が広いソフトGNDフィルターを使ってみたのですが、こうしたシーンでは境目が広すぎて効果が薄かったので、ハードGNDフィルター を使いました。鉄橋の近景と、フィルターの角度を合わせるのがコツです。フィルターの境目をPhotoshopで自然に馴染ませることもできますが、GNDフィルターを使っていることがあえてわかるのが面白く、そのまま残しました。画質のクオリティーを下げずにゆる鉄を仕上げられるのが新しい発見でした。
撮り方2 ローキー+GNDフィルターでSLの煙の迫力を魅せる
フィルターなし
フィルターあり
その時に感じた感覚を閉じ込める
大井川鉄道の千頭駅でSLを撮影しました。僕が好きなもう1つの撮り方に、太陽をギラリとさせた渋くてローキーな表現があります。ここでも太陽ギラリとSLの重厚な質感の両方を見せたかったのですが、真っ黒なSLに露出を合わせると、もれなく空が飛んでしまいます。SLのディテールを出すために、明暗差を埋めるカメラの階調補正機能をONにすると、2段分程度のプラス補正をすることになります。そこからさらに露出補正で2〜3段上げれば、4〜5段分も補正していることになりますから、画像の劣化は免れません。
鉄道写真でのG N Dフィルターのライバルは、LightroomやPhotoshop Camera Rawの「シャドウ」や「段階フィルター」になると思いますが、画質のクオリティを保てるという面では、GNDフィルターに軍配が上がります。また、現場で微妙な露出を調整して、自分が感じたイメージを作り上げていくことは、レタッチではできない作業です。目で見た景色と違っていても、重厚さを感じたなら暗めの露出に、遠い記憶のようなはかなさを感じたら明るい露出にすることで、その時に感じた自分の感覚を閉じ込めることができます。
逆光で煙を魅せる
S Lの迫力を演出する煙は、逆光で光を透過させると強調できます。高架線が邪魔にならず、SLを逆光で捉えられる位置を探しましょう。GNDフィルターを使って明暗差を小さくするとディテールも出やすくなるので、モノクロ表現も良い雰囲気におさまります。
こんなシーンもGNDフィルターを使いたい
その他にも、さまざまなシーンでGNDフィルターが重宝しました。僕の写真は風景と列車の両方を入れるため必然的に明暗差が大きくなりがちなので、常にバッグに忍ばせておくようになりました。
フィルターなし
フィルターあり
フィルターなし
フィルターあり
フィルターなし
フィルターあり
上のほうが濃い部分。GNDフィルターのグラデーションは、これだけの減光効果があります。
鉄道というと、車両そのものをいかにかっこよく撮るかを考えがちですが、僕はそれよりも、「旅情」を撮りたいと思っています。列車に乗ってどこかに行きたくなるような感覚や、実際に列車に乗ったときに感じる物語を伝えていけたら…と思っています。
中井精也 SEIYA NAKAI
1967年、東京生まれ。鉄道の車両だけにこだわらず、鉄道にかかわるすべてのものを被写体として独自の視点で鉄道を撮影し、「1日1鉄!」や「ゆる鉄」など新しい鉄道写真のジャンルを生み出した。2018年5月、東京・三ノ輪橋に作品を展示・販売するギャラリー「ゆる鉄画廊」をオープン。広告、雑誌写真の撮影のほか、講演やテレビ出演など幅広く活動している。2015年講談社出版文化賞・写真賞受賞、2015年日本写真協会・新人賞受賞。甘党♡
TVレギュラー
「中井精也のてつたび!」/NHK BSプレミアム
「ヒルナンデス 沿線散歩コーナー」/日本テレビ
など