NiSiフィルターガイド Vol.1 :NDフィルター
NDフィルターの基本と3つのできること
はじめに
こんにちは、フォトグラファーの上田晃司とコムロミホです。写真家夫婦がさまざまなフィルターを使用して、撮影テクニックをわかりやすくご紹介するNiSiフィルターガイドが始まりました。こちらの記事だけでなく、動画でも楽しく学んでいただけます。フィルターの基本的な使い方をご紹介しながら、ロケーションでフィルターの使いこなしを実践していきます。
Vol.1では、NDフィルターの基礎的な使い方をご紹介していきます。前半はNDフィルターとは一体どのようなものなのか、そしてNDフィルターの選び方、後半ではNDフィルターの具体的な活用方法についてお伝えします。このページを読み終わる頃にはきっとNDフィルターの基礎をマスターしているはずです!
基本編
NDフィルターの知っておきたい基礎
NDフィルターは「Neutral Density」の略称で、日本語に言い換えると「減光フィルター」です。このフィルターは、レンズにとってのサングラスのような役割があり、レンズの前に装着することによって、露光時にレンズを通過する光の量を減らすことができます。
LEDライトを使用するとNDフィルターの効果がわかりやすいですね。LEDライトをNDフィルターに当たるように照らすと、光の量(明るさ)が減っていることがわかると思います。
NDフィルターの用途は大きく分けると2つあります。1つ目は、日中など明るいシーンでもシャッタースピードを遅くすることができます。たとえば、明るいシーンでシャッタースピードを4秒などに設定して撮影すると、写真が真っ白になり、露出オーバーになります。そのようなシーンでNDフィルターを使用することで、適正露出を得ることができます(詳細については後述します)。
2つ目は、明るいシーンでもぼけを活かした表現を楽しむことができます。単焦点レンズなどF値の小さいレンズを使用すると、ぼけを活かした表現を楽しむことができますが、明るいシーンで絞りを開ける(F値を小さくする)と、露出オーバーになってしまうことがあります。そのようなシーンでNDフィルターを使用することで、レンズを通過する光の量を減らし、適正露出で撮影することができます。NDフィルターがないと、絞って(F値を大きくして)、露出オーバーを防ぐしかありませんが、NDフィルターがあると明るいシーンでも絞りを開けて、ぼけを活かした表現を楽しむことが可能になります。
NDフィルターは明るいシーンでもシャッタースピードを遅くしたり、絞りを開けたりできるので、表現の幅を広げることが可能になります。
これは50mm F1.2の非常に明るいレンズです。日中に絞りを開放にして撮影すると露出オーバーするおそれがありますが、そういうときにNDフィルターを使うと白飛びを抑えて撮ることができます。
NDフィルターの種類〜濃度〜
NDフィルターにはさまざまな種類があることをご存知でしょうか。選ぶ際に重要になるのが、NDフィルターの濃度です。濃度が濃ければ濃いほどレンズを通る光を減光することができます。
NDフィルターは濃くなるほど光の通る量が減ります。
NDフィルターをお持ちの方などは、フィルターに数値が書いてあるのを見たことがあると思います。この数値を確認することで、どれくらいの濃度かがわかるようになっています。
NiSiのNDフィルターの場合、3つの数字が書いてあります。1つ目が、たとえば「ND8(0.9)」の「8」の部分です。ここの数字は8だけでなく、32や64など製品によって数字が異なり、「1/表記された数字」分、減光できることを表しています。つまり、「8」と書いてあれば、「光の通る量を1/8に減光できますよ」という意味になります。
ND8は1/8ほど減光できる、ということを覚えておくとよいでしょう。
2つ目は、「ND8(0.9)」の「0.9」の部分です。これは「光学濃度」と呼ばれるもので、海外でよく使われる数値になります。光学濃度は「OD(Optical Density)」とも呼び、濃度の値は「OD値」として表記されます。下の表を見てみるとわかるのですが、「0.9」と書いてあれば、光を「3 Stops」、つまり3段分減らすことができます(「Stops」については以下参照)。
NDやOD値の早見表を見てみると、OD値が「0.9」と書いてあれば、3段分減光できることがわかります。
3つ目は、「3 Stops」の「3」の部分です。「Stops」は「段」のことで、「3段分」という意味になります。つまり、NDフィルターに書いてある「3 Stops」は「3段分減光できる」ということです。
表を見てみると、「3 Stops」の行に「ND8」「OD値 0.9」と書かれています。どれも同じ意味になるのですが、自分にとって最もわかりやすい数値を見るとよいでしょう。
NDフィルターの種類〜円形と角型〜
一言でNDフィルターと言っても、形には円形と四角い角型があります。それぞれの特徴についてご紹介します。
円形のNDフィルターは、プロテクトフィルターのようにレンズの前に取り付けるNDフィルターです。円形のNDフィルターにはフィルター径(サイズ)があり、使用するレンズの口径に合わせたものを選ぶようにしましょう。ただし、自分が持っているすべてのレンズの口径に合わせてNDフィルターを揃えようとすると、費用的にもなかなか大変ですよね。そういう場合は、たとえば自分が持っている一番口径の大きいレンズに合わせてNDフィルターを用意し、それよりも小さな口径のレンズを使用する際は、ステップアップリング(※)を使用するのがおすすめです。大は小を兼ねるように、1枚大きいフィルターを持っておけば、さまざまなレンズで併用できる、ということですね。
こちらのレンズのフィルター径は82mmです。82mm径の円形のNDフィルターをこのように装着して使用することができます。
角型のNDフィルターは、前述した円形のフィルターとは違って直接レンズに装着することができません。ホルダーフレームというものを使ってNDフィルターを装着します。ホルダーフレーム自体もそのままではレンズに付けられず、メインアダプターを使ってレンズに装着します。
メインアダプター(左)とホルダーフレーム(右)は分かれているので、着脱も素早くできて、フレキシブルに撮影を行えます。
角型のフィルターを使う最大のメリットは、ホルダーフレームに最大で3枚NDフィルターを取り付けられたり、その他のフィルターと組み合わせたりできる点です。NiSiの「100mmシステム V7キット」なら、アダプターリングも購入時に同梱されていますので、さまざまな口径のレンズにすぐに装着できるというのもポイントです。
濃度を自由に変えられるバリアブルNDフィルター
NDフィルターには、バリアブルNDフィルターというものもあります。NDフィルターといえば、前述したようにND8、ND16のような単一の濃度のNDフィルターが一般的ですが、バリアブルNDフィルターはリングを回すことによってNDの濃度を濃くしたり、薄くしたりすることができるようになっています。濃度を変えながら撮影したいときや、動画を撮影されるような方は、バリアブルNDフィルターがあると非常に便利です。実践編で具体的な使い方についてご紹介します。
濃度がグラデーションになっているGNDフィルター
次にGNDフィルター(グラッドND、ハーフNDということもあります)をご紹介します。これまでご紹介したNDフィルターは全面同じ濃度ですが、GNDフィルターは上から下にかけて濃度が変わっていく、つまり濃度がグラデーションになっているNDフィルターになっています。GNDフィルターは逆光など輝度差が大きいシーンで効果を発揮します。たとえば、夕日をフレーミングしながら海を撮影する場合、海に対して空が明るくなってしまいます。GNDフィルターを使うことで、上部は濃いNDを適用させて、徐々にナチュラルに濃度を落としていくというような撮影が可能になるので、空の白飛びを抑えた自然な風景写真を撮れるようになります。詳しい使い方は実践編にてご紹介します。
GNDフィルターにはグラデーションの種類が4つあります(写真左から、ソフト、ハード、リバース、ミディアム)。見た目でも上から下にかけてのNDの濃さの違いがわかると思います。
実践編
スローシャッターで風景を幻想的に表現
ここからはNDフィルターを使い分けながら、NDフィルターでできる3つのことを、実践的にご紹介していきます。
1つ目は、NDフィルターを装着すると、シャッタースピードを遅くして撮影を楽しめるということです。
SS:1/500秒 F値:8.0 ISO:200 焦点距離:24mm(35mm判換算)
上の写真はNDフィルターを装着せずに撮影しました。打ち付ける波と、背景には灯台と桟橋が見えます。この風景をより幻想的に躍動感のある写真に仕上げていきたいと思います。波や滝など、水の動きをブラしたいときは1秒や2秒などシャッタースピードを遅く設定します。このような海岸でシャッタースピードを遅くすると、波がブレて、泡立った白い波の部分だけが残り、躍動感が生まれます。しかし、明るいシーンでシャッタースピードを遅くすると、露出オーバーになり、写真が真っ白になってしまいます。そこで必要になるのがNDフィルターです。たとえば、このシーンでF値をF8.0に設定して適正露出を得るためには、シャッタースピードを1/500秒にする必要があります。
F8.0のままで、シャッタースピードが2秒になるようにNDフィルターで調整していきたいと思います。ここでは、そのNDフィルターの選び方と、撮影までのプロセスをご紹介します。
(1) NiSi ND Calculatorをインストール
NiSiフィルターから出ているスマートフォンのアプリケーション「NiSi ND Calculator」を用意します。iOSとAndroidに対応していますので、スマホをお持ちでしたら、事前にインストールしておくとよいでしょう。
iPhoneならApp Storeから、AndroidならGoogle Playから「NiSi ND Calculator」と検索するか、以下のリンクからダウンロードしましょう。
(2) 何秒が適正露出かを測る
アプリを立ち上げたら、シャッタースピードを選択します。シャッタースピードはNDフィルターを装着していない状態で適正露出になる数値を選びます。たとえば、この海岸のシーンは、F8.0にしてシャッタースピードが1/500秒で適正露出になったので、1/500を選択します。
まず一度NDフィルターなしでシャッターを切って、1/500秒が適正露出であればアプリ上の「シャッタースピード」の項目で「1/500」を選びます。
(3) フィルター濃度を選ぶ
次に、NDフィルターの濃度を入れます。すると「ND500」を選ぶと「フィルター装着後のシャッタースピード」が1秒、「ND1000」だと2秒と表示されます。この海岸のシーンでシャッタースピードを1秒にしたいならND500、2秒にしたいならND1000を使えばよい、ということがすぐにわかりますね。
以下の写真は、前述したNDフィルターなしで1/500秒のシャッタースピードで撮影したものと、ND1000のフィルターを付けてシャッタースピードを2秒にしたものです。1/500秒のシャッタースピードだと、波のしぶきまで全部止まっている一方で、ND1000を付けて撮った写真は2秒間の露光により波がフワッとブレて、より躍動感が出ていることがわかるのではないかと思います。
【NDフィルターなし】SS:1/500秒 F値:8.0 ISO:200 焦点距離:24mm(35mm判換算)
【ND1000使用】SS:2秒 F値:8.0 ISO:200 焦点距離:24mm(35mm判換算) NDフィルター使用ND1000を装着したことでシャッタースピードを2秒まで遅くすることができ、波しぶきがブレて幻想的な1枚になりました。
明るいシーンでもぼけを活かした表現を楽しもう!
明るいシーンで絞りを開けて撮影してみたら、写真が明るくなってしまったということはありませんか? そういうときはNDフィルターを使用しましょう。下の写真は海岸沿いにあるブランコを撮影した1枚です。背景を大きくぼかしたいと思い、開放F値がF1.2という大口径単焦点レンズを使用しています。しかし、背景は大きくぼけていますが、写真が白っぽくなり、撮りたいイメージよりも明るくなってしまいました。このように日中など明るいシーンで絞りを開けて撮ると、レンズを通過する光の量が多いため、露出オーバーになります。
SS:1/4000秒 F値:1.2 ISO:100 焦点距離:75mm(35mm判換算)
F1.2の明るいレンズを使って、絞り開放で撮影した1枚です。高速シャッターにしていても、海の部分が白飛びしていたり、空の青さが出ていなかったりしています。
このような状況のときにNDフィルターを付けることで、白飛びを抑えて撮影することができます。ここでは、NiSiの可変ND TRUE COLOR ND VARIOを装着して撮影しました。このNDフィルターはNiSiのバリアブルNDフィルターで、他社製品にはないキャップが付属しているのですが、これがかなり便利です。
可変ND TRUE COLOR ND VARIOは、MINでND2の効果、そしてMAXでND32の効果を得ることができます。通常のNDフィルターの場合、「○段分明るいから、このNDフィルターを付ける」のように明るさなどに合わせたNDフィルターを装着する必要があります。一方で、バリアブルNDフィルターは回すことによってさまざまな濃度での撮影が可能になり、その場の明るさや状況を見ながら濃度を変えて適正露出にできるので、フレキシブルな撮影が楽しめます。
【NDフィルターなし】SS:1/4000秒 F値:1.2 ISO:100 焦点距離:75mm(35mm判換算)
【バリアブルNDフィルター使用 】SS:1/4000秒 F値:1.2 ISO:100 焦点距離:75mm(35mm判換算) NDフィルター使用バリアブルNDフィルターを付けたことで、適正露出で撮影することができました。明るいシーンで、かつ絞り開放で撮影するときはぜひNDフィルターを使いましょう。
GNDで夕日のグラデーションを美しく表現
最後に、夕日や逆光など明暗差のあるシーンを撮影するテクニックをご紹介します。このシーンでは海辺の流木と背景の夕日の両方を美しく表現していきたいと思います。下の写真のような逆光のシーンは輝度差が激しく、たとえば太陽に露出を合わせると主被写体である流木が真っ暗になり、流木に露出を合わせると空が露出オーバーで真っ白になってしまいます。
SS:1/80秒 F値:11.0 ISO:100 焦点距離:24mm(35mm判換算)NDフィルターなしで流木に露出を合わせて撮影した1枚です。空が露出オーバーして真っ白になっています。
SS:1/800秒 F値:11.0 ISO:100 焦点距離:24mm(35mm判換算)同じくNDフィルターなしで、空に露出を合わせた1枚です。今度は主被写体である流木が黒つぶれしています。
このような輝度差があって露出を決めるのが難しい状況では、GNDフィルターを使うことで、空も流木も適正露出で撮ることができるようになります。GNDフィルターにもさまざまな種類がありますが、夕暮れのようなシーンでは太陽の光が強いので、ここでは汎用性の高いミディアムグラデーションのGND16を使うことにしました。これは、グラデーションになっている最も濃い部分がND16で、徐々に薄くなっているNDフィルターです。ND16の部分は4段分減光することができるので、空の表情を表現しつつ、流木を撮影することが可能になります。
【GNDフィルターなし】SS:1/80秒 F値:11.0 ISO:100 焦点距離:24mm(35mm判換算)
【GNDフィルター使用】SS:1/80秒 F値:11.0 ISO:100 焦点距離:24mm(35mm判換算)GNDフィルターを使って撮影した1枚です。NDフィルターなしと比較すると、全くといっていいほど写真のクオリティーが変わるのがわかるかと思います。
GNDフィルターがないと、空が白飛びしたり、流木が黒つぶれしたりしてしまいましたが、GNDフィルターを使うことで流木に露出を合わせても空が露出オーバーせずに撮ることができるようになりました。
おわりに
今回はNDフィルターの基礎と3つのできることをご紹介しました。1つ目が「スローシャッターにし、ブラして幻想的に表現する」、2つ目が「明るいシーンでも絞り開放でぼけを活かす」、そして3つ目が「部分的に明るさを変えて逆光シーンなどをしっかりと写す」ですね。
今後もいろんな被写体を撮影しながら、NDフィルターの魅力はもちろん、PLフィルターなどさまざまなフィルターについてご紹介していきたいと思います。ぜひそちらも楽しみにしていただければと思います。
NiSiフィルターガイドVol.2もお楽しみに!
上田晃司
米国サンフランシスコに留学し、写真と映像の勉強をしながらテレビ番組、CM、ショートフィルムなどを制作。帰国後、写真家塙真一氏のアシスタントを経て、フリーランスのフォトグラファーとして活動開始。ライフワークとして世界中の街や風景を撮影。ドローン撮影や特機での撮影も得意! 近年では、講演や執筆活動も行っている。主な著書は、「写真がもっと上手くなる デジタル一眼 撮影テクニック事典101」や「写真が上手くなる デジタル一眼 基本&撮影ワザ」「ニコン デジタルメニュー100%活用ガイド」などがある。 YouTubeチャンネル「写真家夫婦上田家」でカメラのテクニックやレビューを配信。ニコンカレッジ、ルミックスアカデミー講師。
コムロミホ
文化服装学院でファッションを学び、ファッションの道へ。撮影現場でカメラに触れるうちにフォトグラフィーを志すことを決意。アシスタントを経て、現在は広告や雑誌で活躍。街スナップをライフワークに旅を続けている。カメラに関する執筆や講師も行う。またYouTubeチャンネル「写真家夫婦上田家」「カメラのコムロ」でカメラや写真の情報を配信中。カメラや写真が好きな人が集まるアトリエ「MONO GRAPHY Camera & Art」をオープン。