フォトグラフィックモーションの撮り方 第1回
風鈴の揺れと音を閉じ込める | Yuriさん
写真の静けさと、動画のわずかな動きをとらえた表現、 フォトグラフィックモーション。カメラを構えて、世界の「かすかな変化」に集中する。 そこに写るのは、風の気配だったり、光や水のゆらぎだったり、時間の流れだったり。 動画ではあるけれど、フォトグラフィックモーションは「写真」の延長にあります。 フォトグラフィックモーションの魅力を探り、撮り方をお伝えするこの企画、 第1回は、Yuriさんの視点でとらえた尾道・千光寺の風鈴をご紹介していきます。
風鈴の揺れと時間を閉じ込める
−撮影のきっかけ
このシーンに出会ったのは、広島・尾道の千光寺にある「風鈴参道」で、昼下がりにフォトウォークをしていたときです。無数に吊るされた風鈴が、涼しげな音色を響かせながら、一斉に揺れていました。そのシーンが美しくて写真を撮ったのですが、その場に満ちていた風の流れや風鈴の音色は、どうしても写真では伝えきれないと感じました。
そこで構図は写真のまま、数秒間録画をすることで、そのとき感じた場の空気と音を残そうと思いました。「動画を撮る」という意識ではなく、「写真に少しだけ動きがある」状態を、写真にプラスして加えたいという感覚です。
構図と音で伝わる映像に
−撮影の考え方とポイント
基本的に普段の写真撮影と変わりなく、いつものカメラとレンズを使っています。マイクやジンバルなどの特別な動画用機材や、三脚も使用していません。使用したNikon Z5II はボディ内手ブレ補正が優秀なので、脇をしっかり締めて構えれば安定感が得られ、手持ち撮影も可能です。
ひとつだけ写真と違うのは、NDフィルターを使用したこと。動画撮影ではシャッター速度が決まってくるので、日中に撮影する際は白飛びを防ぐためにNDフィルターが必要になるシーンが多いです。
手持ち撮影なので、ブレを極力抑えるよう注意しました。脇をしっかり締めて、身体全体でカメラをホールドします。わずかな動きをとらえるフォトグラフィックモーションでは、撮影者の揺れがそのまま映像の「ノイズ」になるため、ブレの抑制が仕上がりを大きく左右します。また、環境音を入れたい場合は、観光客が少ない静かな時間帯に現場の音だけを別録りしておくと、フォトグラフィックモーションの印象がぐっと深まります。このシーンでは、フォトウォーク中のモデルさんに入ってもらい、映像だけ先に撮影して、人が少なくなったときに風鈴の音を録音しました。また、フォトグラフィックモーションは構図の強さも重要です。このシーンは逆光だったので、風鈴と人物がシルエットになりますが、背景の尾道の街並みを浮かび上がらせたかったので、露出は背景に合わせました。余計な情報がそぎ落ちることで視線が迷わず、写真としても成立する画面になります。また、街並みを見せるためにカメラの位置を高くする必要があり、腕を伸ばして液晶画面を確認しながら撮影しました。静止の中の「ほんの少しの動き」が生かされる画角に整えることで、写真の奥行きを保ったまま時間を閉じ込めることができます。

脇をしっかりしめて、肘をウエストラインで固定すると安定してブレにくい。
〈撮影設定〉
動画を撮影する際は、まず動画モードに切り替えます。カメラの設定で動画と写真が異なるのは、シャッター速度です。動画でのシャッター速度は「フレームレートの約2倍」という基本があるので、ここでは1/120秒に設定しました。F値は開放のF2.8で撮影。ピントを浅くして撮影することで、主役となる人物と風鈴が際立ち、柔らかい空気感で映像を表現できます。ISO感度はシャッター速度とF値が決定したら、光量に合わせてできるだけ低く設定します。色は後から編集するのが大変なので、撮影時点でほぼ完成させるイメージ。Nikonの「フレキシブルカラーピクチャーコントロール」は、好みのトーンをあらかじめカメラ内に取り込んでおけるので、編集時に大きく手を加えずに済みます。撮影時間は10秒程度。後から編集するので、このくらいの尺で撮っておきます。
| カメラ | Nikon Z5II |
| レンズ | NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S |
| 撮影モード | Mモード |
| シャッター速度 | 1/120秒 |
| フレームレート | 59.94 |
| ISO感度 | 100 |
| F値 | 2.8 |
| 撮影秒数 | 13秒 |
| 撮影 | 手持ち撮影 |
| ピクチャーコントロール | フレキシブルカラーピクチャーコントロール(PaleTale) |
| フィルター | 可変NDフィルター |
映像と音を整えて世界観を仕上げる
Before(未編集)
After(編集後)
−編集と仕上げ
編集ソフトは、ダビンチリゾルブの有料版を使っていますが、ほぼ無料版でも使える機能で編集しています。大きな作業は、「動画の尺を合わせる」「音を合わせる」「ブレの補正」「色味と明るさの調整」の4つ。色調整は、カメラ内でほぼ完結しているので、微調整に留めます。
フォトグラフィックモーションの編集でもっとも大切なのは、最終的な尺を整えること。動きの少ないフォトグラフィックモーションは、尺が長いと間延びして飽きてしまいます。5〜6秒、長くても10秒以内に収めると、視聴者が小さな変化に意識を向け続けてくれます。動きが生まれた瞬間と、静けさへ戻る呼吸のようなタイミングをつかむことで、フォトグラフィックモーションらしい心地よさが生まれます。
音楽は、作品として感動的に仕上げるための鍵となると思っています。撮影時に環境音を別のタイミングで録っている場合は、まずはそれを入れます。次に音楽ですが、今回は有料のArtlistから使用しました。イメージするキーワードで検索できるので、繊細な雰囲気に仕上げるために、「piano」と検索しました。
Instagramに投稿するなら、Instagram の音源から探すのもおすすめです。私はharuka nakamuraさんの楽曲が好きで、よく使っています。伝えたい世界観に合った楽曲を選ぶことで、より感性をゆさぶるフォトグラフィックモーションに仕上がると思います。
【ダビンチリゾルブのワークフロー】
実際のダビンチリゾルブのワークフローは以下のような感じです。
※最終的にInstagaram用に横動画を縦にして投稿するため縦で編集しています。
1 大きなブレの部分をカットする
ダビンチリゾルブに動画素材を入れ、まずは大きなブレのある部分をカット。後からブレ補正をかけますが、ブレが大きすぎると綺麗に補正されないので、最初にカットしておきます。
2 速度をスローにする

「速度を変更」の項目から、映像のテンポを変更します。フォトグラフィックモーションを作るときは、少し映像をスローにすることで、余韻や温度感が伝わる映像に近づくように思います。
3 音源を入れて映像と音源の尺を合わせる
映像に合うキリの良い音源のポイントを探し、そこに合わせて映像をカット。音源によっては、途中でプツッと切れてしまう印象になるため、音源の最後にほんの少しフェードアウトをかける場合もあります。
4 手振れ補正をする

手持ちで撮影するとどうしても手ブレが発生してしまうため、「スタビライゼーション」の機能を使ってブレを補正します。「カメラロック」をオンにすることで、ある程度カメラが固定されたように補正され、「ズーム」をオンにすると、ブレを補正した際に生まれる余白ができないよう映像を自動的に拡大してくれます。
5 元の音をカットし、別撮りの環境音を入れる

モデルさんに声かけする声や観光客の声が入っていたため、元の動画の音声はカット。そのうえで、別撮りした映像から風鈴の環境音を入れます。
6 色補正をする


色補正は微調整のみ。人物をシルエットにして風鈴と尾道の風景がより伝わるイメージに仕上げたかったため、シャドウを下げました。ハイライトを下げることで、明るすぎる部分のトーンを下げて、背景の風景の様子をより際立たせました。全体的に暗くなりすぎたため、ほんの少し明るさを足すためにトーンカーブで露出を微調整。その後、色温度とティントでホワイトバランスを微調整しました。
7 書き出す
完成したら、書き出して保存します。「デリバー」ページでMP4形式(H.264/H.265コーデック)を選択します。投稿したいSNSに適した解像度とビットレートを設定しましょう。
(次回へ続く)
フォトグラフィックモーションの撮り方を、写真家それぞれの視点で深く掘り下げていきます。
Yuri
大阪を拠点に活動するフォトグラファー。「ふんわりかわいい写真」をテーマに、風景や人物の写真を中心とした作品制作に取り組む。観光プロモーションに関する撮影や出張撮影、書籍・広告の撮影、写真セミナー講師、映像制作、記事執筆など、幅広く活動中。
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