動画撮影用のバッテリーは、ジャンルを跨いで使用されることも多く、変換アダプターを介せば様々な機材の電源に転用できるので非常に便利です。
その一方で、そこには電圧という大きな落とし穴があります。
同じ端子規格に見えても、実際には出力電圧や消費電力が機材と合っていないことがあり、うっかり間違えると動作不良を起こしたり、最悪壊れたりもします。
私自身も、買ったばかりの機材で電源周りの数値をよく確認せずに接続して動作不良を起こしたことがありますし、事前に接続テストをしていても、撮影中に消費電力の変化で動作がおかしくなったこともあります。
電源を必要とする機材を使用する際は、電圧・電流・消費電力の表記をよく見比べて、許容範囲に収まっているかを確認する癖をつけておくと安心です。
それでは、まず代表的なバッテリーの種類を見ていきましょう。
MAGAZINE
Road to 24fps !! 第17回 バッテリーの種類と給電 〜電源を制するものは撮影を制す〜
〜写真カメラマンから動画カメラマンを目指す〜

みなさんこんにちは。
Road to 24fps!! 第17回は、バッテリーの種類と給電の実務についてです。
動画撮影において、電源は現場を止める大きな要因の1つです。
特にワンオペや少人数運用では、電源トラブルがそのまま撮影中断、最悪の場合は撮影自体の中止に繋がることもあります。
また、電源関係は単に「動く・動かない」だけの問題ではありません。
バッテリーの種類や端子規格、電圧や消費電力の考え方を誤ると、機材が正常に動作しなかったり、最悪壊れてしまうこともあります。
しかし、動画用のバッテリーはメーカーや規格が非常に多く、同じように見える端子でも電圧や給電能力が違っていたりして、初めのうちはかなり混乱しやすい分野でもあります。
本稿では、そんな電源周りで困らないように、現在の動画撮影で実際に使われているバッテリーと給電方式を、規格と実務の両面から整理してご紹介したいと思います。
バッテリーの種類と用途

カメラ純正 小型バッテリー
各メーカーがカメラボディ用に専用設計している小型のリチウムイオンバッテリーです。
ボディ内蔵での使用を前提として最適化されているため、サイズや容量はそのカメラの動作に合わせて設計されています。
最大の利点は、残量表示や温度管理などの情報通信が可能な点です。
純正品はやはり安定性が高く、撮影時の安心感があります。
一方で、容量単価は高めなことが多く、大型のシステム全体を長時間駆動する用途にはあまり向いていません。
ただしCanonのLP-E6系のように、モニター電源として流用されることもあり、意外と応用範囲の広い規格でもあります。

Lバッテリー(NP-F)
放送・業務用途で長年使われてきた汎用規格です。
元々はSONYのENG系カメラ向けのバッテリーでしたが、現在ではモニターや小型照明など、周辺機器にも広く採用されています。
Vマウントと並んで、最も汎用性が高いバッテリーの1つと言って良いでしょう。
容量のバリエーションも豊富で、比較的手頃な価格帯のものが多く、現場では今でも非常によく見かけます。
SONY純正のNP-Fバッテリーは2023年12月で販売終了しているため、現在流通しているものの多くはサードパーティ製になりますが、その分各社から多様な製品が出ています。
ただし、同じNP-F規格でも品質差は大きく、残量表示の精度やセルの持ちなどに差が出ることもあります。
安価な製品を選ぶ際は、その点にも注意したいところです。

Vマウントバッテリー(ゴールドマウント)
放送・シネマカメラなど、業務用途の主力バッテリーです。
容量やサイズも様々で、50Wh級の小型のものから、300Wh級の大型のものまで幅広く展開されています。
大型カメラ、照明、モニター、ワイヤレス機材など、消費電力の多いシステム全体をまとめて駆動できる点が大きな魅力です。
本体裏側のVロック機構が共通規格となっており、下部端子から公称14.4〜14.8V前後の電圧が出力されます。(満充電16.8V〜放電終了11.0Vまで変動)
また、側面にD-TAP、USB-A、USB-C、DC端子などを備えた製品も多く、1つのバッテリーから複数機材に給電できるため、非常に便利です。
重量はあるものの、システム全体の電源を一括で管理したい時には非常に強力な選択肢になります。
ゴールドマウントはロック機構が異なるだけで中身の考え方はほぼ同じですが、日本ではVマウントの方が一般的です。

その他バッテリー
この他にも、SONYのBP-U系、CanonのBP-A系など、カメラシステムごとに独自の中型バッテリーが存在します。
LバッテリーやVマウントほどの汎用性はないものの、その機種を中心にシステムを組む場合には有効です。
また、モバイルバッテリーも現場で使える場面はあります。
特にUSB-C給電対応の小型機材では便利ですが、連続した高負荷に耐えられる製品は限られています。
業務用途として使う場合は、単純な容量だけでなく、安定した出力が可能かどうかを確認しておく必要があります。
いずれにしても、アダプターを介して使用する際は、電圧や消費電力、容量の確認を怠らないようにしましょう。

リチウムイオンバッテリーの扱い方

現在の撮影機材で使われるバッテリーの多くは、リチウムイオン電池です。
小型・軽量・高容量で、自己放電も比較的少なく、繰り返しの充放電にも強いため、非常に優秀な蓄電池です。
カメラ機材だけでなく、スマートフォンやパソコン、車など、今や日常のあらゆる場面で使われていますが、その一方で、扱いを誤ると発火や爆発の危険を伴うこともあります。
安全に、そして長く使うためには、いくつかの注意点を押さえておく必要があります。
注意点
- 満充電や残量ゼロの状態で長期保存しない
- 長期保存する場合は50%前後の残量にしておく
- 高温・低温に弱いため、室内で保管する
- 特に炎天下の車内放置は厳禁
- 氷点下では急に残量が減ったり使用不能になることがある
- 充電しながらの長時間使用はできるだけ避ける
- 同じ規格でもチャージャー側が対応しているか確認する
- 落下や破損には十分注意する
- 分解は絶対にしない
この中でも特に寿命に効くのが、ゼロのまま放置しないことです。
撮影で使い切ったバッテリーは、なるべく早めに充電しておいた方が良いでしょう。
近年、移動中のモバイルバッテリー発火のニュースを目にすることがありますが、安価で品質管理の甘い製品に起因している印象があります。
撮影用バッテリーは比較的高価なものが多いですが、その分、安全性や耐久性にコストがかかっていると考えた方が良いと思います。
小話:空港へのバッテリー持込
動画撮影機材を持って飛行機に乗る際、最も気を使うものの1つがバッテリーです。
動画機材はどうしてもバッテリーの数も容量も大きくなりがちなので、国内外を問わず、保安検査場ではかなりの確率で目視確認が入ります。
リチウムイオンバッテリーは基本的に機内預けができないため、事前にすべて手荷物側へ移しておく必要があります。
ここで油断して預け荷物の中からバッテリーが見つかると、後で呼び出されることもあります。
Lバッテリーくらいまでの小型のものならそこまで大きな問題にはなりませんが、Vマウントや容量表記が分かりにくい製品が混ざっていると、確認にかなり時間がかかることがあります。
私は何度もこれで気を揉んできました。
経験上、慣れていない係員の方だと、mAh表記とWh表記の違いがすぐに分からないこともあります。
こちらから容量の場所を説明した方が早く進むことも多いので、あらかじめ種類ごと・容量ごとに分けておくとかなりスムーズです。
海外渡航の際は特に、航空会社や空港ごとに運用の細かな違いもあり、ルールが変わることもしばしばあるため、必ず事前に確認しておきましょう。
高価なバッテリーをその場で没収、というのは避けたいところです。
※Vマウントに関しては、100Wh以下は機内持込可、100〜160Whは申告の上で2個まで、それ以上は持込不可、という大枠を覚えておくと整理しやすいです。
バッテリー期の異持ち込み早見表
| 表示Wh | 代表例 | 航空機内持込 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 〜50Wh | 小型純正バッテリー | 可 | 個数制限なし(一般) |
| 50〜100Wh | NP-F系大容量 | 可 | 機内持込のみ、制限無し |
| 100〜160Wh | Vマウント | 可(2個まで・申告) | 航空会社差あり |
| 160Wh超 | 大型Vマウント | 不可 | 輸送方法要検討 |
※IATA危険物規則(Lithium Ion Batteries)に基づく一般基準
端子規格
電源周りを難しくしている原因の1つが、端子規格の多さです。
メーカーを跨いで機材を組む場合、端子が同じでも電圧が違うことがあるため、ここでもやはり確認が重要になります。
ここでは、採用頻度の高いものを中心にご紹介します。
DCジャック(φ5.5/2.1など)
一般的な電化製品でもよく使われるタイプの端子です。
汎用性は高いですが、メーカーをまたぐと極性や電圧が異なることがあります。特にダミーバッテリー経由でカメラ本体へ直接給電する場合は注意が必要です。
見た目が似ていても中身は別物ということがあるので、安易な流用は避けた方が安全です。

D-TAP
Vマウント系バッテリーによく備わっている端子規格です。
プラスチックでありながら比較的しっかりと固定され、電流容量にも余裕があるため、現場では非常によく使われます。
高アンペアに対応していて、分配器で4口程度に分岐が可能なので、1つのバッテリーから複数のアクセサリーへ給電が可能です。
+と−で挿す方向が決まっていますが、形で方向が判断しやすいので差し間違いの事故は少ないです。
D-TAP→USB-Cなど、ケーブルの変換バリエーションも豊富です。

USB-A / USB-C
近年、カメラや周辺機器でも急速に採用が増えている端子です。
特にUSB-Cは、通信と給電の両方を担えるため非常に便利ですが、その分、仕様の理解が曖昧なまま使うと混乱しやすい端子でもあります。特にPD対応が絡むと、見た目は同じUSB-Cでも、
- ただの5V給電
- PD対応
- 高出力対応ケーブル必須
など条件が変わってきます。このあたりは次項で詳しく見ていきます。

XLR (キャノンケーブル)
音声用として有名な端子ですが、電源用として使われることもあります。
特に4ピンXLRは、中型以上のシネマカメラや業務用モニターの電源でよく見かけます。
ロック機構があり、抜けにくいのが大きな利点です。
ただし、ピン数や用途の違いがあるため、音声用と電源用を混同しないように注意が必要です。

その他(Lemo、Fischer、Hiroseなど)
より大きなシネマカメラの現場になると、さらに多くの規格が登場します。
これらは耐久性やロック機構に優れ、より過酷な現場に対応できるよう作られています。
小型機中心の運用なら無理に覚えなくても大丈夫ですが、ステップアップしていく中では徐々に見慣れていく規格だと思います。

USB-CPDについて
USB-C端子の中でも、近年特に重要なのがPD(PowerDelivery)です。
通常のUSB給電は5Vが基本ですが、PD対応機器同士を正しく接続すると、9V、12V、15V、20Vなど複数の電圧を交渉して使用できるようになります。
これによって、カメラやモニターのような比較的大きな機材にもUSB-Cで給電できるようになりました。
ただし、ここで重要なのは、
常に高電圧が出ているわけではない
という点です。
PDでは、給電側と受電側が通信を行い、「どの電圧・電流で給電するか」を決めてから電力供給が始まります。


そのため、PDを利用するには、
- 充電器(アダプター)
- ケーブル
- 使用機器
のすべてがPD対応である必要があります。
また、片側がUSB-Aのケーブルでは5V固定になる場合が多いため、PD給電を前提にする場合は、PD対応のUSB-C
to USB-Cケーブルを使う必要があります。
例えば私がよく使うSONY FX3では、USB-C端子からのPD給電が可能ですが、必要条件は「9V・3A」です。
これを下回ると壊れはしないものの、本体バッテリーを少しずつ消費してしまい、外部給電のメリットが薄れてしまいます。
USB-Cは便利な反面、「挿さるから大丈夫」と思いやすい端子でもあります。
便利さゆえに混同しやすいので、表記をしっかり確認して使うことが大切です。
小話:サードパーティだらけの電源事情
動画撮影機材は、本当にサードパーティ製品だらけです。
現場の状況は毎回違いますし、1社だけの純正パーツで綺麗にシステムを組めることの方が少ないと思います。
そのため、アダプター、ケーブル、プレート、分配器など、様々なメーカーのパーツを組み合わせて使うことになります。
すると当然、
- 規格は同じなのに微妙に合わない
- 電圧が対応していない
- ビルドクオリティの差で固定が甘い
- 長時間運用で挙動が変わる
といった問題が起きます。
Webで機材を購入する際も、一見同じ規格に見えて実際はわずかに寸法が違って装着できない、といったことは珍しくありません。
私自身、この「小さな違い」達に何度も悩まされてきました。
運用上どうしても装着したいバッテリーがあって、それを理想的な形で組み込むために、何時間も機材と睨めっこする羽目になります。
スペック上では合っていても、現場ではうまくいかない、というのも動画機材ではよくある話です。
今回、「よく確認しましょう」という表現が何度も出てきたと思いますが、それはこの分野では本当にそれが重要だからです。
少し面倒ではあるのですが、事前チェックを積み重ねていくことが、結果的に一番大きなトラブル回避になります。
電源は派手な要素ではありませんが、現場全体を支える土台です。
タイトル通り、「電源を制するものは撮影を制す」と言っても大げさではないと思います。
次回は、これまたワンオペ撮影の難所の一つ、「録音」についてです。
北下 弘市郎(KOICHIRO KITASHITA)
映像・写真カメラマン・撮影技術コーディネーター
1986年 大阪生まれ。大学では彫刻を学び、写真スタジオのアシスタントを経て独立。2020年 株式会社Magic Arms 設立。音楽・広告・ファッション・アートなどを中心に、ムービー・スチル撮影を行う。撮影現場の技術コーディネートや機材オペレーターなど、撮影現場に関する様々な相談に対応する。古巣の株式会社 六本木スタジオにて、映像撮影の講師にも従事。






