Road to 24fps !! 第3回 Log撮影と基準感度
〜写真カメラマンから動画カメラマンを目指す〜
みなさんこんにちは。Road to 24fps!! 第3回は、聞いたことはあるけどあんまりよくわかってない、苦手意識がある方も多いはず!Log撮影についてです。
初めは、Log撮影機能の付いたカメラは業務用のシネマカメラが中心でしたが、ここ最近は小型のミラーレス等にも広く搭載されるようになったので、写真系カメラマンにもかなり身近な存在になりつつあると思います。ご自身のカメラで既に試された方はわかると思いますが、動画特有の機能のため、あまり馴染みがなく扱いが難しいと感じた人も多いのではないでしょうか?確かにLogは正しく扱うには多少の知識が必要ですが、今の動画撮影の主流であり、扱えればとてもメリットが大きいので是非フォトグラファーのみなさんにも覚えていただきたいと思います!
今回は、動画の専門的な用語や複雑な説明が少し多く出てきますが、Log撮影を正しく行うためには必要な知識ですので、動画特有の名称や単語に慣れる練習だと思って、最後まで読み進めていただければと思います。
写真はRAW撮影が一般的。では動画は? 〜ここでもつまづくポイント第2弾〜
フォトグラファーの皆さんが使い慣れたファイルフォーマットとして「RAW、Tiff、Jpeg」等が挙げられると思います。その中でも撮影に最も用いられるのがRAWで、パソコンとカメラを連結して、撮影したデータの色やコントラストをRAW現像ソフトで調整・現像して、レタッチして納品、、、というワークフローがしっかりと体に染み付いていると思います。
そんなフォトグラファーが動画撮影をする時、どうしても探してしまうのがそのRAWの様な存在です。自分のカメラにLog撮影機能が付いていて、ダイナミックレンジが広く、撮影後の調整がきく動画が撮れる、と聞けばRAWと同じ様なもの?と飛びついてしまうのも無理はありません。(私もその1人でした)写真と同じワークフローで撮影したいと思うのはごく自然なことです。
しかし、その認識のまま実際にLogモードで撮影してみると、撮れた画像も後処理もRAWの扱いと勝手が違うことに戸惑うと思います。そもそも、RAWとLogは全く違う概念のものですので、混同するのは大変危険です。撮影の失敗にも繋がる可能性があるため、RAWとLogの違いを是非知っていただきたいと思います。
まず、動画と写真のRAWの違いについてお話ししましょう。
動画のRAW
写真と動画のRAWの考え方は基本的に同じです。撮影したデータはPCに取り込み、編集・現像ソフトでプレビューし、ホワイトバランスや露出などのパラメータを変更します。
大きく違う点は、ファイルのデータ量です。動画のRAWは、秒間何十コマものRAW画像データが出力され、一つのファイルにまとめられるため、当然写真より圧倒的にデータ量が多くなります。それだけの大容量データを瞬時にメディアに書き込むには、相応のスピードを持った高性能メディアが必要ですが、その分コストも相当分上がってしまいます。
ハイエンドな大型カメラならそれでも問題ないのですが、ミラーレスなどカメラの小型化を目指すに当たって、より小さなメディアを採用するには、どうしても書き込みスピードの壁ができてしまいます。
そこで採用されたのが、Logというデータ圧縮方法です。
Logの概要
Logとは、「人の目の光感知の特性を利用したデータ圧縮方式」のことです。人の目は、暗いところでの明るさの変化には敏感ですが、明るいところでの明るさの変化には鈍感、という特性があります。そのことを利用して、RAWデータの広大な光の成分から、人の目が殆ど違いが認識できないハイライト成分を中心に間引いて、ダイナミックレンジを確保しつつ、効率的にデータ量を減らしてしまおうという考え方です。
人の目の感知について、フォトグラファーの方にとって身近な例で言えば、グレーカードの話があります。グレーカードは中間グレーなのになぜ50%ではなく18%なのかというと、これも人の目の特性が元になっていて、18%グレーがちょうど中間グレーと感じるためです。
下図のリニアの方をみていただくと、リニアの方が自然界の光を綺麗にグラデーションしているのですが、0〜10%だけ急に変化しているように思うと思います。グレーのハイライト側を削った知覚の方がなだらかなグラデーションに見えると思います。
Logによるデータの圧縮は、数学的な計算でなされます。Logは対数(Logarithm)と呼ばれる曲線のことで、ガンマカーブとも言います。ガンマカーブとは、入力信号(被写体や元の映像が持つ光の量)と出力信号(カメラから出力される映像の信号量)レベルの関係を表したもので、カメラやモニターのスペック表などで目にします。
この信号の入出力グラフにおいて、被写体の色を忠実に映像再現するためには、入力信号が直線的(リニア)に比例している必要があります。RAWはシャドウからハイライトまで均等な光の情報を持っているため、グラフ上ではリニアな線を描きます。
通常のビデオガンマは、RAWデータをカメラが内部でエンコードしてモニターに表示していますが、人間の目の特性上明るい部分の微細な差は見えないため、ハイライト側にデータの無駄が生じます。そこで下図のようにハイライト側を中心に間引くように圧縮をかけていくと、グラフが曲線を描きます。これがLogの曲線です。
余談ですが、写真編集ソフトで画像の明るさやコントラストを調整する時、トーンカーブというものを触ったことがあると思いますが、それも同じ入力と出力のグラフです。
Logは元々、ハリウッドでCineonと呼ばれるフィルムからスキャンしたネガデータを、編集に十分なダイナミックレンジを残したままコンパクトなデータ量で記録する、10bitの記録方式が始まりだそうです。そもそもネガフィルムがLogの特性をもっているため、そのデジタルコピーであるCineonも同じ様な特性になるということです。
これをフィルムの代わりにデジタルセンサーの16bitのRAWから、ビデオガンマへの現像(カメラの内部処理)に応用して、10bitでも広いダイナミックレンジデータを得られるようにしたのが、今のカメラのLogモードというわけです。
16bit→10bitのデータと聞いて少なく感じる方がいるかもしれませんが、画面内で16bitのRAWと同等の情報量を再現できるという評価もあるそうです。
Logによって効率的にデータ圧縮ができるようになったため、カメラから直接小型メディアにも書き込めるようになり、一眼やミラーレスカメラを含む様々なカメラにもLog機能が搭載されていきました。
これらを踏まえてLogとは、広大な光のデータを効率的に圧縮するための方法のことを指しますので、データフォーマットであるRAWとは全く別のものであることはおわかりいただけたかと思います。
Logはなぜ眠い?
Logの仕組みがわかったところで、次は撮影したデータはなぜコントラストが低く色が淡い、所謂眠い画像が記録されるのか、についてです。
コントラストが低いことに関しては、先ほどお伝えした明るさの圧縮によってハイライト部分を削ったり、暗部のデータを確保するために少しシャドウを持ち上げているため、コントラストが低くなっています。
参考:
3つのCanon Log比較
次に色の淡さについてですが、先にモニターの色域についてお話しする必要がありますが、
色域と聞いてフォトグラファーのみなさんはまず、「sRGB」と「adobeRGB」が頭に浮かんでくるのではないでしょうか?色域は色空間・カラースペースとも言いますが、表現可能な色の種類のことで、下のような図でその範囲が表現されます。
色の付いた部分が人の目で認識できる範囲で、図の通りsRGBよりadobeRGBの方が表現できる色域が広いので、より正確な発色をするためレタッチに向いていると言えます。この場合、adobeRGBの色空間をカバーできる対応モニターが必要になってきます。
動画では、かなり多くの色域が登場しますが、まずは「Rec.709 (BT.709)」(レックナナマルキュウ)を覚えてください。これは、ブラウン管TV時代から使われている色空間で、sRGBとほぼ同じ色域を持っています。Rec.709の色域はTVモニターやPCモニターなど、採用されているものが最も多いです。
そしてLogには専用の色空間が用意されていて、SONYならS-Gummutのように、Log専用の色域はとても広く設定されています。この色域の広いLog画像を通常色域のモニターで表示しようとすると、とても淡い発色で表現されてしまいます。これは、Log用色域が広すぎるため、Rec.709のような狭い色域のモニターでは色を再現しきれないため、このような表示になってしまうのです。
このように、Logはとてもコントラストの低い画像のため、撮影後そのまま編集に使うことは難しいので、後処理でコントラストや彩度を調整する必要があります。動画では、この色の編集作業のことを「カラーコレクション(カラコレ)」または「カラーグレーディング」と言います。順番としては、初めに見た目に近い雰囲気に色を近づけるカラーコレクション(色補正)を行い、その後に自分の表現したい雰囲気作りをするカラーグレーディング(演色)を行います。これは、写真のRAW現像作業に近いと思います。現場ではこれらをまとめて「カラコレ」と呼ぶこともあります。
このカラコレ作業が、Log撮影には必ず付いてくるため、納品までにスピードを要する場合や、そこまで細やかなグレーディングが必要ない場面では、Log撮影はかえって面倒になります。そういった場合には、通常のビデオガンマ(カラープロファイル)の選択で済ませてしまう方が良いこともあるでしょう。
ちなみにRAWデータもLog収録形式のものがあります。モニタリングやカラコレの際、自分の好きなLutを適用させることができるため、取り回しのし易さがあります。12bitRAWなど、ある程度圧縮したRAWにするのにもLogの圧縮技術は役立っているようです。
基準感度を知ろう
Log撮影をする上で、もう一つ大事な要素が感度です。動画の感度も、写真と同じく自由に設定できる常用感度がありますが、その中に基準感度(ベース感度・ベースISOなどとも言う)と呼ばれるセンサーの能力を最大限に引き出す為の感度が存在します。
Log撮影ができるカメラにはこの基準感度が設定されていて、Log撮影(RAW撮影)をする際に最も広いダイナミックレンジを確保できるように設定されています。特にシネマ系のカメラには使える感度が2種類(カメラによっては1or数種類)あり、そこから選択する形になります。
例) SONY FX3 → ISO 800 or 12800
Blackmagicdesign PCC 6K Pro → ISO 400 or 3200
Canon R5C → ISO 800 or 3200
これによって、最もセンサーのパフォーマンスが発揮された状態で撮影できるのですが、驚くことにこの上記のような複数の感度では、ノイズの出方がほぼ一緒(最も少ない)になるように調整されているのです。驚きですよね!?
これも写真には馴染みのないシステムなのですが、Logは元々フィルムの特性が元になっていることから、シーン毎にフィルムを入れ替えるようなものだと思ってもらえれば分かり易いかもしれません。ノイズの出方がほぼ一緒のため、光量のある屋外では低感度側、室内では高感度側、というように状況に合わせて切り替えることができるのです。
また、基準感度はシステムが切り替わるので、基準感度以外は基準からの増感・減感という扱いになり下図の例のように上下のダイナミックレンジの振り分けが変化します。
先ほど最もセンサーのパフォーマンスが発揮されると書いたのですが、これはメーカー側が定義する「ハイ側が6stop、ロー側が9stop」で撮影するなら基準感度を使ってくださいという推奨値のようなものになります。ですので、状況に応じてハイライト側やシャドウ側を犠牲にして、逆側のレンジを確保したりできるようになっているのですが、この場合、記録されている画像の露出は感度を変えても変わりません。(シネマ系以外のカメラには、モードによって露出が変わるものもあります)また、ダイナミックレンジの振り分けを変更する際は、基準感度以外はノイズが乗ってくるため、注意が必要です。
このように、今まで自由に設定できた感度が固定されてしまうと、違和感を感じる方も多いかもしれませんが、ノイズが少ない安心感もあったり、選択肢が減る分慣れると案外使いやすいと思います。基準感度は、メーカーや機種によって全て違ってくる為、事前に調べて覚えておくことをお勧めします。
今回はLogの考え方や概要の説明でした。次回は、現場でのLog撮影の仕方についてお伝えします!
北下 弘市郎(KOICHIRO KITASHITA)
映像・写真カメラマン・撮影技術コーディネーター
1986年 大阪生まれ。大学では彫刻を学び、写真スタジオのアシスタントを経て独立。
2020年 株式会社Magic Arms 設立。
音楽・広告・ファッション・アートなどを中心に、ムービー・スチル撮影を行う。
撮影現場の技術コーディネートや機材オペレーターなど、撮影現場に関する様々な相談に対応する。
古巣の株式会社 六本木スタジオにて、映像撮影の講師にも従事。