Road to 24fps !! 第4回 Log撮影の仕方
〜写真カメラマンから動画カメラマンを目指す〜
みなさんこんにちは。Road to 24fps!! 第4回は、前回に続きLog撮影についてです。
前回でLogの大まかな仕組みや概要がお分かりいただけたと思いますので、いよいよ実践です。Logはちゃんと撮影すれば、広いダイナミックレンジを生かした美しい映像を得ることができますし、後処理耐性もあります。
しかし、正しく撮影を行わないと、せっかくのダイナミックレンジを活かせないどころか、撮影の失敗を招いてしまうこともりますので、撮影時に気をつけるポイントもしっかり押さえておきましょう。
Log撮影のしかた 〜実際にLogで撮影してみよう〜
Log撮影モードに切り替えると、モニターに映し出されるのは非常に眠い画像です。既にLogで撮影したことがある方はお分かりかと思いますが、この画像に合わせて露出を合わせてしまうと、後でコントラストを上げた時に黒つぶれや白飛びが発生し、痛い目を見ることがあります。
また、Logの持ち味である広いダイナミックレンジが得られるようにするには、適正露出で撮る必要があります。
IREと適正露出を知ろう
動画撮影で露出を見る時に覚えていただきたいのが「波形」モニターです。下図のようなものをご覧になったことはあるでしょうか?画像の露出評価の時、スチルではよくヒストグラムを確認すると思いますが、動画ではこの波形モニター(ウェーブフォーム)を利用します。波形モニターは、業務用ビデオモニターやカメラに搭載されている機能で、ヒストグラムと同じくピクセルごとの輝度分布を表示するのですが、縦軸がIRE(輝度の%)、横軸が画面の水平に対応しています。
IREとは、テレビの映像信号を基準に、完全な黒を0%、完全な白を100%として波形モニターに表示する時の明るさの単位です。※0〜1023と階調で表示するものもありますが、見方はほぼ同じです。
これによって、画面内の部分ごとの明るさがざっくり判りながら、全体の光のバランスも見れます。背景と被写体の露出差も一目でわかるようになるので、ライティング時の背景の光の回り具合なども見やすくなります。白やグリーンバック撮影時は必須です。馴染みがなかった方は是非覚えましょう!
※RGBで別れているものもあり(パレード)、見方は同じで各色成分ごとの輝度分布がわかります。
この波形モニターを見ながら露出を調節していくのですが、各カメラメーカーのLogは、推奨の適正のIRE値が異なっています。例えば SONYのS-Log3は18%グレーでIRE 41%が適正露出になります。画面内に被写体の立ち位置で18%グレーカードを映しながら、波形が表示できるモニターをLog表示(LUTやビューアシストを切った状態)でグレーカード部分のIRE値が41%になるように露出を調節します。人物の顔部分も露出的には中間調なので、顔を41%辺りに合わせることでも、ある程度適正露出を取ることができます。この露出でホワイトバランスをカメラで設定すると、適正なホワイトバランスも取れます。LogはRAWと違い、後で露出やホワイトバランスを変更できないので、撮影時にしっかりと設定をしておく必要があります。
ざっと調べた各社LogのIREを表記します。
SONY S-Log3 IRE 41%
Canon C-Log 32.6%
※C-Log2.3は、オフィシャルサイトでは正確なIREの数値は書かれていなかったのですが、図のグラフをもとに大体の数値になります。
C-Log2 42%
C-Log3 32%
Logの名称はカメラメーカー毎に異なっていて、CanonはC-Log、SONYはS-Log、PanasonicはV-Logといった感じで設定されています。最近流行りのVlog(Video Blog)とは全く違うので、お気をつけください(笑)
このように、基準となる18%グレーで適正露出を取る方法が推奨されていますが、ワンオペなどの現場によってはなかなか落ち着いてグレーを撮っている時間がなかったりもします。そこで、カメラモニターにある程度のコントラストをつけた状態で表示するビューアシスト機能を利用する方法です。ビューアシスト機能は、カメラ本体で設定しておくとLogモードにしたとき自動で切り替わるようになっています。設定でLog→709を選んでおくと、保存されるデータはLogのままで画面上にのみコントラストと彩度が加わり見やすくなります。
この状態で露出を合わせていくのですが、カメラモニターに先ほどの波形がついているものが少ないため、ここではゼブラという機能を使います。ゼブラは、画面内で設定した数値の明るさ領域を斜線で表示する機能で、この数値が先ほどご説明したIRE値に当たります。設定値に決まりは特にないのですが、95前後くらいにセットしておくと、ギリギリ白飛びするかしないかくらいのところに斜線が入るので、露出が決めやすいと思います。難点は、カメラ本体の液晶にしか表示されないので、詳細が見にくいということがあります。
次にご紹介するのが「Lut (ラット)」です。
LUT
LUT(ラット)とは、Look Up Tableの略語で、画像のコントラストや色味をどの様に調整するかについての計算式が格納されたデータです。これを動画データにパッチのように当て込むことによって調整値が画面に反映され、元データに手を加えることなくコントラストや色味がついた画像が見れるようになります。自作することもでき、3D LUTという種類のファイルを作ることで、好きな色味を画面に反映させることができます。※Photoshopでも3DLutの作成ができます。
ピクチャープロファイルを自作して、画面上で自由に選択可能にしたような感じです。スチルでも、RAW現像ソフト内で画像の調整値を他の画像にも同時に適用できますが、その感覚と似ていると思います。
調整値は事前に作って機器ごとに読み込ませておく必要があり、現場で素材を見ながらLUTを作成するには相応の環境が必要になってくるので、スチルほど手軽ではありませんが、Web上でLut素材を配布しているサイトがあったりもするので、お気に入りのLutをいくつか事前に準備しておくと、現場でクライアントに仕上がりの雰囲気を共有する際に役立ちます。各メーカーがホームページ上でLogの種類ごとに、標準のLUTを配っていることが多いので、手に入れておくことをお勧めします。
LUTを当てた状態で波形を確認し、白飛びや黒潰れを見ながら露出を決めていけば露出評価にも使えます。
私の場合は、かなりの数の現場がLog撮影のため、Logのモニタリング環境は必須です。ルックが予め決まっていない場合は基本的に標準LUTを使用し、コントラストが強いものと弱いものを外部モニターに入れておき、仕上がりに合わせてコントラストの強弱を選んでLUTを当てています。
仕上がりのイメージより少し強めのコントラストのLUTを当てておけば、その分露出のマージンが取れて、露出決定がしやすくなり撮影スピードを上げることができるので、私はこの方法を取ることが多いです。但し、露出差が激しい被写体を撮る時は、波形も上下に広がってオーバーしやすくなるので、若干経験が必要です。
ちなみに、SONYやBlackmagicなど、RAWでもLog形式を採用しているものは、表示される絵はLogと同じような表示になるため、同じようにLUTを当ててモニタリングすることができます。
Log
色が薄い、コントラスト低めのLUT
色が濃い、コントラスト高めのLUT
LUT使用の注意点
LUTはカメラもしくは外部モニターで反映する必要があります。
カメラからLUT出力できるものもありますが、外部レコーダーを使用したりする場合は、LUTが当たったものがレコーダーに収録されてしまうため、注意が必要です。外部モニターにも、LUTを取り込めるものとできないものがあり、当てたLUTを出力できるものもあります。LUTに対応していないモニターを繋げば、全体に同じようにLUTを反映することができるので、そういったモニターを少なくとも1台は現場に持って行けると便利です。
また、現場の機器で当てこむLUTはざっくりとした計算式のため、繊細な違いを見せることには向いていません。あくまで周りにイメージを伝えるためのコミュニケーションツールとして考えていただければと思います。その為、カラー調整を行うのが編集者の場合、現場で使用していたLUTファイルを編集者にも渡す必要があるので、どのLUTファイルを使用したかを覚えておきましょう。
RAW・Log・その他のビデオガンマはどう使い分けるか
この話題に関しては、もはや監督に相談するしかない!という結論になってはくるのですが、こちらがある程度コーディネートする必要があるなら、データ量以外のメリット・デメリットも伝えた方が良いと思います。RAWは最も後調整が効くので、そのデータ量と現像の手間が許容できるのであればこれを使うに越したことはありません。
Logと通常のビデオガンマの使い分けとしては、やはりどのくらい後処理に時間がかけられるかがポイントになってくると思います。Logは後処理が前提になってくるので、編集から納品までの時間が短い場合やあまり複雑な色調整をしない場合は、Logを使わずビデオガンマを選択して、うまく現場で設定を詰めてしまうのが良い場合もあります。私の場合も、ピクチャー設定を少し眠めにして、若干の調整幅を持たせて納品することもあります。
逆にビデオガンマでも、本体収録のデータは圧縮がかかっていて、そのまま編集ソフトに流すとデータによってはパソコンのスペックが必要になることもあるので、ProRes422HQ等の中間コーデックに変換する手間がかかる場合もあります。(この辺りは別の回に詳しくご説明したいと思います)
このようにそれぞれ一長一短がありますので、違いをよく理解して、編集者や監督と設定について事前にしっかりと擦り合わせるようにしましょう。
次回は、ムービーカメラマン必携!!動画のNDフィルターについてです。
北下 弘市郎(KOICHIRO KITASHITA)
映像・写真カメラマン・撮影技術コーディネーター
1986年 大阪生まれ。大学では彫刻を学び、写真スタジオのアシスタントを経て独立。
2020年 株式会社Magic Arms 設立。
音楽・広告・ファッション・アートなどを中心に、ムービー・スチル撮影を行う。
撮影現場の技術コーディネートや機材オペレーターなど、撮影現場に関する様々な相談に対応する。
古巣の株式会社 六本木スタジオにて、映像撮影の講師にも従事。