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Road to 24fps !! 第5回 NDフィルター 〜最初の必携アイテム〜

〜写真カメラマンから動画カメラマンを目指す〜

Road to 24fps !! 第5回 NDフィルター 〜最初の必携アイテム〜

目次

みなさんこんにちは。Road to 24fps!! 第5回は、動画撮影の必携アイテム!NDフィルターについてです。
晴れた日、外に動画を撮りに出かける時、みなさんは何を持っていきますか?カメラ・交換レンズ・三脚・メディア・バッテリー、、、他にも色々あると思いますが、是非そのバッグに「NDフィルター」を加えて下さい!
え?なんで?と思った方には、この回はとても役立つ情報源になると思います。

写真と動画は、露出の決め方が異なる

みなさんは写真撮影で露出を決める時、カメラの設定値はどのように決められているでしょうか?撮りたい絵作りを頭に描いて、ISO・SS・F値の数値を優先順位(ボカシたりブラしたり)をつけて数値を決めていきますよね。写真でも動画でも、露出を決めるための設定項目は同じです。しかし動画の露出決定には、撮影条件によって自動的に数値が決まってしまうものがあり、写真ほどカメラマンの意図に沿って自由に数値を決めることができない場合が多いのです。
このような不自由が発生してしまう原因は、それぞれの設定値によって異なる問題点にあるので、以下に書き出してみます。

ISO
基準感度より数値を上げすぎるとノイズが目立ってくる。デジタルノイズは除去の対象になるため、できるだけ低く抑える必要がある。ノイズが最も目立たない基準感度は、写真の最低感度より高い場合が多い。Log撮影では機種によって、感度の選択肢が大幅に少なくなる。以上の理由から、数値は初めの段階で自動的に決まってしまうことが多い。
シャッタースピード (SS)
露出設定の前に、そもそもフレームレートを設定する必要があり、その時点である程度SSが決まってしまう。人工的な光の条件下ではフリッカー問題があり、コマ毎のブレ感をある程度適正にすると数値が自動的に決まってしまうため、決定順位はISOとほぼ同じ。 ※フリッカーやブレ感の適正値などは、第2回記事をご参照ください。また、1/フレームレート秒より遅い数値にも基本的に設定できない。写真では他の設定項目に比べて(ブレ感を出す場合を除いて)一番画像への影響が少ないので、最終的な露出調整に使うことが多い。
F値
ボケ感とピントの合う範囲の調整に使う。カメラマンの絵作りの意図を最も自由に反映させることができる設定値であるが、数値はあまり厳密に画面に反映されないので、露出決定においての優先順位は低い。
ND
絵作りに対する影響が最も低いため、露出決定の優先順位は最も低い。低照度下では外さないといけないので、屋外撮影向き。

ISO SS F値 ND
写真 自由度 高い 高い 高い ブラす意図がなければ基本的に不要
変化点 制限 ノイズ ブレ感を狙わないなら、いくら速くしても大丈夫 ボケ味 画像への影響はほぼない
優先順位
ISO ⇔ SS ⇔ F値
特にどの項目から決めても問題はない。
動画 自由度 低い 低い 高い 高い
変化点 制限 ノイズ Logモード時は殆ど選べない コマ毎のブレ感 フリッカー フレームレートより遅くできない ボケ味 最も絵作りに影響が少ない
優先順位
ISO  or  SS  > F値 > ND

この様に見ていくと、NDが最終的な露出調整に向いていることがわかります。写真では、NDフィルターにあまり馴染みがなかった方も多いのではないでしょうか?私も動画を始める前はNDフィルターはほとんど使っていませんでした。
動画では最低感度が写真より高いため、屋外などでは露出オーバーになりやすく、特にLog撮影時は使えるISOが限定されるため、自動的に優先順位は高くなります。また、F値もレンズのゴミの写り込みを嫌って開放近くで使うことが多く、絞ってもF8〜11位までということが殆どだと思いますので、あまり調整で使える幅は広くありません。それらからも、NDで露出を調整することが最も理に適っていると言えます。
※動画の画面内のゴミの写り込みは、写真のようにレタッチで簡単に消すことは難しいのです。
業務用ビデオカメラや、中型以上のシネマカメラにはほぼ全てNDが内蔵されているのですが、そのことからも分かるように、動画におけるNDは必須項目なのです。
ENG系(ニュースなどの取材系)カメラは、小型でもNDが内蔵されています。よくTVで室内の食レポなどの後に、晴れた店外に出た瞬間にNDが入る様子が映っていることがありますが、これはレンズとセンサーの間に入るタイプのNDです。みなさんの持っているミラーレスカメラには、NDが内蔵されていないものが殆どだと思いますが、その場合はレンズ前に付けるNDを持ち歩く必要があります。

動画用フィルターの種類

動画で使用するフィルターの形は、大きく2種類存在します。

角型フィルター
マットボックスを利用して装着します。専用のトレーに入れて装着するのですが、本体のスロット数に応じて他のフィルター効果を重ねたり、入れ替えが容易にできます。正しく使えば重ねてもケラレが起こりません。4×4、4×5.65サイズが一般的で、トレーの対応サイズは個別に違います。写真にも角型フィルターは以前からありますが、マットボックスに装着できるタイプのNDは規格が違うことが多いので確認が必要です。

角型フィルター
角型フィルター

円形フィルター
写真と同じ、レンズ前にねじ込むタイプが一般的です。レンズに直接付けることができるので、装備がコンパクトに済みます。重ね付けすることもできますが、広角レンズはケラレに注意が必要です。レンズ径によって大きさを変えないといけないので、付け替えに少し難があります。バリアブルNDもこの円形フィルターに属しています。

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動画でよく使うフィルター

  • NDフィルター
  • PLフィルター
  • 効果系フィルター(ソフト・プロミストなど)

これらも角型・円形共によく使われます

まず持つべきはバリアブルNDフィルター

NDフィルターの使い方

Fstop (段) 濃度表記 透過率表記 透過率
1/3 ND 0.1
2/3 ND 0.2
1 ND 0.3 ND 2 1/2   (50%)
2 ND 0.6 ND 4 1/4 (25%)
3 ND 0.9 ND 8 1/8 (12.50%)
4 ND 1.2 ND 16 1/16 (6.25%)
5 ND 1.5 ND 32 1/32 (3.12%)
6 ND 1.8 ND 64 1/64 (1.56%)
7 ND 2.1 ND 128 1/128 (0.78%)
8 ND 2.4 ND 256 1/256 (0.39%)
9 ND 2.7 ND 500  (512) 1/512 (0.20%)
10 ND 3 ND 1000 (1024) 1/1024 (0.10%)

濃度が決まっている単板NDの場合は露出計算はしやすいので、必要数値のものを取り付けて、絞りやSSの調節で露出が決まります。しかし、雲の動きが激しい日中など露出が安定しない時は、バリアブルNDが活躍します。バリアブルNDは2枚のガラスでできているので、指で前ガラスを回転させることでNDの濃度調節ができます。基本的に無段階ですが、フレームに数値が書いていたりするので、それを利用してある程度同じ露出を保つこともできます。録画中などあまり目が離せない時などは、モニターの波形やゼブラ表示を使って、露出を合わせます。
バリアブルNDの注意点は、装着した時点である程度露出が落ちるということです。製品によって落ちる光量は違いますが、大体1.5〜2.5段分くらい落ちます。なので、それぞれの最低減光量を覚えておき、付け外しの際にはそれを念頭に置いて調節しましょう。
※PLフィルターなども同様に減光量があります。
また、製品によっては360度回転するものもあり、そういった製品は回しすぎると「X」の形のムラが出たり、大きく色転びを起こしたりする場合があります。
※NiSi製のバリアブルNDはその心配はありません。
バリアブルNDは他の単板NDに比べてかさばりますし、安価なものでもないので各レンズ毎に揃えるということが難しい場合もあります。割とオーソドックスな方法としては、スチル系レンズのほぼ最大径である82mmを1個買っておいて、ステップアップリングで変換する、というものです。私の場合は、各レンズには全て82mm変換のステップアップリングを予め装着しておき、保護用に82mm径のレンズキャップを装着してバッグに入れておきます。レンズ交換の際には、バリアブルNDフィルターのみ付け替えます。難点は、82mm以外はフードが付かないので、遮光の手段を考える必要があることです。
私の仕事では、フレアなどを極端に嫌う現場が少なかったので、画角の工夫などで回避できることが多かったのですが、どうしても遮光が欲しい時は、軽量なマットボックスを用意してフードの代わりに使っています。

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ミドルクラス以上のシネマカメラの内蔵NDも、使い方は同じです。殆どが単板NDと同じように、濃度ごとにフィルターを切り替えていくのですが、SONYが開発した電子式可変NDフィルター(FX6やFX9などに搭載)は、センサー前に液晶タイプのNDを配置し、表示濃度を変えることで無段階の減光を可能にしました。私もFX9を持っていますが、オートNDという便利な機能が使えるので、すごく重宝してます。

マットボックスの活用

STOPとEV

小話 NDフィルターの色転び


北下 弘市郎(KOICHIRO KITASHITA)

映像・写真カメラマン・撮影技術コーディネーター
1986年 大阪生まれ。大学では彫刻を学び、写真スタジオのアシスタントを経て独立。
2020年 株式会社Magic Arms 設立。
音楽・広告・ファッション・アートなどを中心に、ムービー・スチル撮影を行う。
撮影現場の技術コーディネートや機材オペレーターなど、撮影現場に関する様々な相談に対応する。
古巣の株式会社 六本木スタジオにて、映像撮影の講師にも従事。

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